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第1話 祝福

「ハーウッド。本日の放課後、教官室まで来るように」 「――はい、承知いたしました」  ――教官室?  魔法騎士科最終学年の担任教官から呼び止められたグエン――グエンダリオ・ハーウッドは、一瞬戸惑ってから返事をした。  教官はその返事に頷くと教室を出て行き、それを見送ったグエンも、鍛錬へ参加するため教室を後にした。  年明け、王都でも雪が積もる日のある季節。  各科目の検定試験が続々と終わって、早い生徒は各々の成績を手に各騎士団などへの配属を決めはじめるころ。  通年指導がある実技の鍛錬には、他科の生徒も含めて二十名ほどが参加しており、その中には騎士科のジェスも混じっていた。 「――ジェス!やろうぜ」  一人で木剣を手に型をさらっていたジェスは、こちらに顔を向けて、眉を上げた。 「よう。遅かったな」  その言葉に、ジェスがグエンの来るのを待っていてくれたのだとわかり、思わず顔が緩んだ。 「悪い。――教官に呼び止められてた」 「教官に?」  型を解いてこちらに向き直ったジェスは、自分が手にしていた木剣をグエンに持たせて、グエンの肩を叩いて後ろを向くよう示した。  大人しくされるがままにすると、ジェスがグエンの背中側の剣帯と軽装鎧のバックルを整え直し、ついでに上衣の裾を引っ張って整えてくれた。 「お前、そろそろ一人できれいにつけられるようになれよ……。  俺ずっとお前の面倒みてやれるわけじゃないぞ」 「あー……、うん。……ありがとう」  少し返事がもたついてしまう。  ――本当は、きれいに装着できるようになった。  そうは、言えなくて。   「よし、やろうぜ」  背中をパンと叩かれて、グエンはジェスに木剣を手渡した。 「おう!」  口を笑みの形にして、構えを取る。  卒院期限まで、あともう半年もない。  あと何回、こうして手合わせができるだろう。  ――ずっと一緒だと、期待したことなんてなかったけれど。 「ハーウッド、今日誕生日だろう。成人おめでとう」  教官室を訪れたグエンを出迎えたのは、そんな言葉だった。 「……はあ」  まさか呼び出しを受けてそんなことを言われるとは思ってもいなかった。  多分、ものすごく間抜けな顔をしている。 「はは、もちろん誕生日を祝いたくて呼んだんじゃない。――これだ」  教官から手渡されたのは、一通の書面だった。  先日技能認定試験を受けた、空間魔法の成績証明書だ。 「グエンダリオ・ハーウッド。  魔法騎士としての卒院資格をすでに備え、この度、空間魔法の成績も秀と確認された。  と言うわけで、お前もめでたくディッカー候補だ。  成人もしたことだし、今後は管理課とのやりとりがあるかもしれん。気をつけておけ」  ディッカー候補。  聞きたくなかった単語を、グエンの耳が拾ってしまった。  それでも。  わからなかったふりをするわけにもいかなくて、なんとか言うべき言葉をさがした。 「――っあ……、ありがとうございます……」  一瞬。  ほんの一瞬だけ、昼に見た友の顔がちらりと脳裏をかすめて、そのまま顔のない誰かになる。  番う相手の、見えない顔。   「お前はまだいくつか講義を履修してたか?試験はまだ先だからな……。いずれにせよ卒院はまだ先か」  手渡された証明書を眺めて、……握りつぶしたくなった。 「そう、ですね……」  試験……、手を抜いたつもりだったのに。 「ハーウッド」  名を呼ばれて、顔を上げた。  教官は、少し口の端を上げ、片方の眉を跳ね上げてグエンに言った。 「試験、手を抜いたろ。教授は生徒の実力くらいお見通しだ。  ――謀るような真似はやめろと、言伝をもらってる。  騎士になっても同じだ。……上の判断をみくびるな。」  胸の内を、ヒヤリとしたものが落ちてきた気がした。  思わず息を呑んで、教官の目を見つめると、  教官は表情を緩めてグエンの肩を叩いた。 「ま、お前が何を考えてそうしたのかはわかる気がするが、お前にも拒否権はあるんだ。  それに、会ってみたら案外大丈夫なこともある。――気負いすぎるな」 「……はい」  全て、大人たちに見透かされていた。  そのことが無性に恥ずかしくて、  短く返事をして敬礼し、教官の頷きを見て、すぐにその場を辞した。  グエンの足掻きなど、取るに足らないわがままだと言われたような気持ちになった。    だけど。  誰が相手だろうと、  番いたい相手なんてのは、一人しかいない。  ジェス。  ——誇り高き同窓の友。  ジェスが、自分の番いに?    そんなこと—— 「……ありえねえし……。」  証明書を握りしめて、呟く。  そもそもジェスには、——恋人がいる。    最近は放課後になるとふらりと出ていって、朝に戻ることもある。  それで首席をキープしているのだから、そんなふうに遊び歩くなと文句も言えない。 「くそ……」  養成院に入るまでは口にしたこともなかった言葉が、口をついて出て、  胸の内のむしゃくしゃが余計に黒くなった。  親友の恋くらい、応援してやればいいのに。  最悪な誕生日だ。  

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