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第2話 襟巻き

「グエン、今戻ったのか。飯済ませちゃった?」  自室の扉を開けようとすると、背後から声をかけられた。  同じ魔法騎士科の首席、ハネスだ。  寮の隣人でもある。 「まだだけど?」    応えながら振り返ると、ジェスの姿も目に飛び込んできた。 「――ジェスも、いたんだ」 「待ってたんだぜー。まだなら外行かねえ?せっかくだから祝わせろよ」  朗らかな笑顔でグエンを誘うハネスの後ろで、ジェスがこちらに向けて手を上げた。 「祝いって……」  思わず手を上げて応えると、ハネスはグエンの頭をわしわしとなでて顔を覗き込んだ。 「成人祝いだよ!飯いくぞ、飯」  体をのけぞらせてハネスの手から逃れると、ジェスがおかしそうに笑いながら頷いた。 「行こうぜ、グエン。奢ってやるよ」 「下町の飯屋だけどな!」  逃げられたのを気にもしないハネスの言葉に笑ってしまって、体の力が抜けた。 「ふは、わかった、行こう。ありがとな」  手にした書類を見せて、これだけ置いてくると伝えると、グエンは自室の扉を開けた。  部屋の奥、机の上に証明書を置く。    その隣、管理課とつながる「扉」が目に飛び込んできた。    精緻な魔法回路が刻まれた扉の下。  封書が一通、顔を覗かせていた。  外の廊下。  そこに待たせた二人のことを一瞬考えてから封書を取り上げる。  封を切る。 「――っ」  目に飛び込んできたのは「ディッカー」「候補者選定」という文字だった。  その先を冷静に読める気がしなくなって、書面を机に放った。  封筒もそこに放置して、踵を返す。  廊下に続く扉にかけておいた外套を手に取って、自室の扉を開けた。 「お待たせ。――行こうぜ」  俺には、――拒否する権利がある。 「よし、行くか!」  にっと笑った友人たちの顔に、グエンも笑い返した。  せっかくなら、楽しいことは、ちゃんと楽しまないと。 「グエン、こっちこいよ」  先に階段室へ向かったハネスに続こうと歩き始めると、ジェスがグエンを呼び止めた。  足を止めて、ジェスに向き直る。  ハネスはもうすでに階段を降り切ったのか、階下の誰かとの話し声が聞こえていた。 「何?」 「――これ」  何か言いかけたジェスの顔がイタズラっぽく笑って、それから目の前が布のような何かに覆われた。 「――っなに」 「ふっ、悪い。――ふは、こうな」  目の前から覆いが取り払われると、ジェスの顔がすぐ目の前にあった。 「――っ」  思わずのけぞると、もう一度ジェスの顔がぐっと近づいて、首の周りが暖かいもので覆われた。  思わず息を止めると、首の周りにふた巻きされた襟巻きの端を整えるジェスが、顔を上げて目を見合わせてきた。 「成人おめでとう。ちょっとしたもので悪いけど、俺から」 「……あ、ありがとう……。びっくりした」  間近で見たジェスの顔に、心臓が痛いくらい跳ねていて、うまく言葉を紡げない。  その間抜けな声に、ジェスがまたニヤッと笑った。 「やりい。驚かせたかったんだ」 「なんだよそれ。喜ばせろよ」  そのまま体の向きを変えて階段に向かうジェスに言い募ると、ジェスが少しこちらを振り向いて顎を上げた。 「なんだよ、嬉しくないのかよ」  ――んなわけないだろ……!  そんなわけなくても、嬉しかったと素直に言えなくて、    何も言えなかった。  

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