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第25話 孤軍奮闘

 夕方になり、まだ付近を捜索するというパーティ三人と、バルテンと晩餐するというエルンストを置いて、俺とヨハネスだけ村長宅へ戻って早めの夕食をとっていた。   「ようやく落ち着きましたね」 「ああ、おまえは一日何してた?」 「ライナーとのおしゃべりを楽しんでおりました」 「ライナーって、やけに馴れ馴れしいな」 「ええ。今日一日で急接近です。無口なやつだと思っていましたが、二人になった途端びっくりするくらい喋りかけてきたんすよ。俺に気があったのかな、なんて」 「……おまえまさか」 「いえいえ、まだ手は出していません。フランツ様たちとは違ってちゃんと段階を踏む主義なので」 「俺たちとは違ってってなん……その前に『たち』って誰のことを言ってるんだ」 「またそんなことを……ようやくやらせてあげたんでしょ? あの機嫌のよさはバレバレですよ。野外でやってきたんですか? 立ったまま? 抱き上げられて? それとも草の上で?」 「黙れ、殺すぞ!」  頭にきた俺は、食事のトレーを持って立ち上がり、苛立ちを表に出しながら部屋を出た。  術が解けて引きこもらなければならない部下を気遣って、暇つぶし相手になってやろうとしたのに、そのお返しが舐めた態度とはふざけていやがる。  そのまま村長宅を出てルクルー教会に向かいながら、エルンストが帰るようなら村の酒場で愚痴でも聞いてもらおう、などと考えていたところ、遠目にイジドーアの姿を見かけたため、様子を窺うべく近くの草陰に身体を隠した。  見るに、誰かと一緒の様子である。  完全に日が沈んで街灯もない教会の近くでは、窓からの光でしか姿は捉えられない。しかし、声とシルエットから相手がエレオノーラであることは間違いない。  声を潜めているため会話内容までは聞こえないが、時折楽しげな笑い声は漏れ聞こえる。 「やっとミヒャエルの機嫌を直してくださったのですね」  真後ろからライナーの声がして飛び上がった。 「クッシュ様……食事は済まされたのですか?」  いつの間に忍び寄られていたのか、まったく気づかなかった。  思えば背後をとられてばかりいるような気がする。  しかし、それは魔王という立場柄仕方がないのである。魔王は堂々と相手に立ち向かい、また立ち向かわれる存在だ。身を隠す必要がそもそもないのだから、慣れていないのは当然であって、決して間抜けだからではない。   「いえ。これからです。イジドーアを誘うため教会へ迎えに来たら、こそこそとしている神官を見つけたので声をおかけいたしました」 「……ヴォーリッツ様でしたら、あちらにいらっしゃいますよ」 「ええ。そのイジドーアを監視される目的は?」 「監視? まさかそのようなことは……」 「ではなぜ隠れていらっしゃるのですか?」 「それは……お邪魔になると存じまして……」  確かに俺はこそこそと不審だったかもしれないが、だとして不自然ではないくらい、イジドーアたちにはただならぬ雰囲気が漂っている。 「イジドーアもお盛んのご様子ですね。戦士と神官の恋愛が流行しているのでしょうか」  だからかライナーも納得した反応を見せた。  が、なにやら物言いに含むものを感じてライナーを窺い見ると、薄ら笑いで俺を見下ろしていた。  含むどころか、俺のことを嫌っているっぽい。  ミヒャエルのご機嫌斜めな理由が俺にあるからかもしれない。  事実ではあるから仕方がないことだが、計画を進めるうえで、こいつから嫌悪の念を向けられていては厄介だ。なんとかして、印象をよくしなければならない。 「そのことなんですが、もしお気づきでしたら、ライナー様にご相談してもよろしいでしょうか」 「……相談、ですか?」 「ええ。わたしはその……望まないことを強要されているのです」  しおらしく、苦しげに、ミヒャエルに言い寄られて困っているのだと、胸の内を吐露するように訴えてみた。  姦淫を禁止されているのに、拒否したくとも、立場が上の騎士団長から言い寄られて断れず、ましてや相手は同性で、神官として苦しんでいるのだと涙ながらに演技をしてみせた。 「そうでしたか」  ライナーはふむふむと神妙に聞いてくれた末に、納得した様子を見せた。 「そうなんです。もしかしたら、フィッシャー神官もなどと心配になったのですが、ヴォーリッツ様がまさかとも考えて、様子を窺っていたのです」    ほっと胸を撫で下ろした俺は、さらにわけを説明しながらイジドーアたちのほうへと注意を戻した。  いまだ仲良く話し込んでいる様子である。どうにか会話内容を聞くことができないものか、近づく言い訳を捻り出そう。 「つまり貴殿は、ミヒャエルだけでなく、わたしやイジドーアの好意も引く目的があるのですね」  などとイジドーアたちに意識が逸れていたことで、まさかの返答にびくと肩が震えてしまった。  そして振り向くときも顔を強張らせたままだったようで、ライナーの不敵にもにやりとした笑みを見て、己の失態をようやく自覚したのだった。 「おやおや。演技をするなら、どんな場合でも動揺を表に出してはなりませんよ」 「演技だなんて、ただなぜそのようなことをおっしゃったのかがわかりかねましたので……」 「あなたとギースベルト神官には、普通ではない魔力を感じます」 「魔力? 彼はわたしと違って魔法など」 「……使えない、とおっしゃるのであれば、それは嘘をつくことになります。本日彼から様々な術を見せていただきましたから」  あの野郎、ライナーと仲良くなれたなどと嬉々としていたが、探られていただけじゃないか。またも相手の手に乗ってくれやがって。 「……ギーズベルト神官は、今別の姿をしていらっしゃるんじゃないですか?」  舌打ちをする暇もないほどに詰め寄られている。  こいつ、俺たちが魔族であることを見破っているのか?   「何をおっしゃられているのですか? 別の姿など、そんなことが」 「隠そうとされる、ということは、彼の味方をする理由があるということになりま──」  その続きは聞くことができなかった。ライナーの言葉は轟音によってかき消され、会話などしている状況ではなくなってしまったからだ。  直後に闇夜が昼間のように明るくなり、それが魔法による攻撃だと気づいた俺たちは、同時に森の中へと駆け出した。

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