32 / 44

第32話 転生者

「おまえの言うとおりだ」  だとすれば、世界征服へ向けての最短を選ぶべきだ。   「俺は……おまえを……」  そのためには、愛を告げれば済む。目的のためなら手段を選んでいる場合ではない。 「おまえのことを……」    そのはずが、トイファーのときはすんなり言えたそれが、なぜか口にできない。 「俺は、おまえのことを、あい、愛し……」  無理だ。恥ずかし過ぎる。  このまま舌を噛みちぎったほうがマシなほど無理。  ミヒャエルは俺が何を言おうとしているのか気付いたようで、怒りはどこへやら、今は期待に目を輝かせている。  くそ。  その顔が余計に腹立たしい。  俺は口で伝えるのを諦めて、代わりに拘束の術を解きミヒャエルを抱きしめた。 「フランツ……」  うっとりとした声とともに、ミヒャエルからも抱きしめられた。確かにトイファーのときと身長差が違う。抱きしめられたとき、俺の目線はミヒャエルの首もとだったのが、鎖骨あたりに変わっている。 「俺がトイファーに扮していたのは、おまえの……おまえの、そばにいるためだった。……そばに、いたかったから、どうすればいいか、それで、だから……」  もう限界。これ以上は無理。 「……敵の中へ潜り込んだのは、わたしのためだったのですか?」 「そう……だ」 「……信じられません」  髪にキスの雨が降り注ぐ。信じてくれたのだろうか。   「エバーアフタークエストを始めていらっしゃったから、あなたはアグネスの代わりに王位を狙っていらっしゃるものと考えておりました」  エバー……は?  ちょっと待て。その単語はゲーム上の用語であって、この世界で通用するものではない。  なぜそれをミヒャエルが……いや、考えるまでもない。  エバーアフタークエストなんて言葉を知っているのは、俺と同じ世界から転生した人間だからだ。  つまり、ミヒャエルも俺と同じ転生者だったということになる。まじかよ! 「……何言ってんだ?」    まさかのことだが、気づいてみればあれもこれもと合点がいく。設定したとかなんとか言っていたのも、五十年の人生がどうのと言っていたのも、二つの人生の記憶があるとわかれば説明がつく。  だとしたら、知らぬを決め込むしかない。  もしかしたらミヒャエルはプレイをしていたユーザーではなく、制作チームにいた誰か、つまり見知った相手かもしれないのだから。恥ずかしいどころじゃない。   「……いえ、ご説明するほどのことではありません。お気になさらずお忘れください。わたしが申し上げたいのは、再び世界征服をなされるのであればお力になるつもりだったということです」 「騎士団長のくせにか?」 「ええ。あなた以上に大切なものはありませんから」  やはり、と言いたいところだが程度が想定以上だ。転生したと言っても、ミヒャエルとしての人生も生きているはずなのに、人格が変わりすぎている。  アグネスたちとのパーティで俺と対決したときは、愛だのなんだという態度は微塵も感じられなかった。あの後に記憶を取り戻したことは間違いないはずだが、それにしては、真逆に振り切れ過ぎてやしないか?   「なんで俺が世界征服をすると思ったんだ?」 「それは、あなたが脱獄したあと、逃げるのではなくダグラスに扮して行動されていらっしゃったからです。ノーフへわたしたち騎士団をお連れして、村を立て直されたではありませんか」  お見通しどころじゃない。まったくもってその通りだが、ここで肯定すれば、俺が転生者であることを悟られかねない。どうにかして誤魔化さなければ。 「いや、トイファーに扮していたのは、ユーア教会を出たあとにおまえを見つけたからだ。おまえのそばにいるために、適当に魔王の行き先をでっちあげて、なんとかおまえからのあ……愛を、得ようとしていたんだ」    転生者であるなら、あいつの半分は仇敵ではない俺の部下ということになる。部下というのはおそらくだ……上司(くそやろう)ではないはず。というか、後生だからそうであってくれ。 「愛を得るためだなんて、わたしは前……すべての人生であなた以外の誰も愛したことはありません。あなた以外に愛することなどできないのです。あなたはわたしの理想そのもの……わたしの好きな要素をすべて設定に詰め込んでつくったキャラクターなのですから」  よかった。やはり上司(ごくつぶし)ではなさそうだ。制作責任者といえど横から奪い取っただけで『聖女の剣』のほとんどは俺と部下でつくったものなのだから、つくるだの設定などと口にするはずがない。 「その髪や目の色も、身長も体格もそうですし、魔王であるのに真面目で、部下想いでもあるという性格もです。それに、異性を愛することができないよう、性的指向も同性に設定いたしました。本当はわたし以外は愛せないようにしたかったのですが、わたしは生身の人間でしたから、それがいまや……いえ、妙なことを口走ってしまいました。つまり、わたしが申し上げたいのは、なにがあってもあなたを愛し続けるということです」  ああ、まじかよ。  聞いてもいないのにべらべらと説明してくれたお陰で、ミヒャエルの前世が誰であるかに気づいてしまった。  おそらくだが、他に考えられないから間違いないと思う。    こいつの前世は、部下の佐倉だ。

ともだちにシェアしよう!