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プロローグ

雪が舞っていた。 生まれて初めて見るふわふわとした雪の結晶は、僕にとって地獄からの紙吹雪(コンフェッティ)のように見えた。 足が恐怖と寒さに震え、僕はそこから一歩も動くことができない。歯がカチカチと鳴る音だけが、やけにはっきりと聞こえていて、目の前の光景が現実なのだと突きつけてくる。 リビングで重なり合うようにして倒れているパパとママの体からは、赤色の液体がどくどくと流れていた。開け放たれた窓からは真っ白な雪がたくさん吹き込んでいて、その純白が床に触れるたび、赤色に溶けて染まっていく。 少し離れた僕のところまで雪が飛んできて、濡れた頬をさらに冷たくした。 脳内で鳴り続けるリズミカルな音に混じって、ぴしゃぴしゃと血を吸う音がだんだんと大きくなる。 ママの真っ白でミルクみたいな肌は、今はどす黒い赤に染まっていた。そいつはママの首筋に口を寄せて、ひたすら血を飲み続けている。 ぴしゃ、ぴしゃ。 こいつは、吸血鬼だ。 ────はーくん、吸血鬼に近づいてはダメよ。 ────なんでぇ? ────はーくんはね、特別なの。心から愛する人、その人だけに許してあげて。 寝る前にママがよくお話ししてくれた吸血種族のお話。その話が終われば、いつも温かい手が頭を撫でてくれた。 だが、その手はもうない。 糸の切れた人形のようにピクリとも動かない両手は、僕をあちら側に引き込むように伸びている。 歯が狂った拍子で打ち合い、不吉な音を刻み続けている。早く逃げなきゃって頭の中ではわかっているのに、手足は言うことを聞かない。 その時、ビュンと刃物が空気を斬るような音がした。そいつが、顔を上げたのだ。 「……ひっ」 喉の奥から息の漏れる音がした。 顔は見えない。暗闇の中でその男の瞳と、口元に付いた血だけがぬらぬらと浮かび上がっている。 「あ゙あ゛……」 人間のものとは思えないような唸り声に、もはや恐怖も感じられないほどに神経が麻痺していた。 宙を見つめたまま、そいつは近づいてくる。 僕も、死ぬんだ。 もう恐怖から解放されたい。せめて、痛くなければいいな。 覚悟して目をぎゅっとつぶった。 けど、いくら待っても痛みは襲ってこなかった。 ゆっくりと瞼を開けると、そいつはいつの間にかいなくなっていた。窓から逃げ出したのか、それともまだ家の中にいるのか。 どっちでもいい。とにかくここから逃げ出したかった。このチャンスを逃したら、次こそ殺される。 僕は何も持たずこの家を飛び出した。 雪の舞う道を、後ろを振り向かずただひたすらに走り続ける。 外はあまりにも寒くて、零れ落ちた涙が頬で凍った。

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