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第1話

都内の一等地に、長い歴史を誇る聖アルカナ学園が建っていた。希少な存在の吸血鬼と、優秀な頭脳を持つ人間の為の教育機関として、政府直轄で運営されている名門学園。 都内にありながらも人工の緑に囲まれた過ごしやすい環境と、空中から見ると『王』の字型をした荘厳な造りの校舎は、関係者以外の人間を一切学園に入れないため、秘密主義の学校としても有名だ。 そんな校舎の一角で。 「あっ……ん……っ」 首元に走る痛みと、噛まれた直後に感じる身体のムズムズ感。もう何回も経験しているはずなのに、いつになっても慣れない。最近は痛みよりもムズムズ感が強くて、終わった後は身体が熱くなる。 僕は、この感覚が苦手だ。 だんだん立っているのが辛くなってきたので、相手の制服をキュッと掴む。その人は強く吸い上げると口を離し、最後にペロッと噛み跡を舐めた。 「今日もご馳走さま。あんまり勉強頑張り過ぎないでね、彗月(はづき)」 真っ黒な艶々の髪に高い鼻筋、優しく垂れた目尻、その横にさりげなくある黒子。息を呑むほどの美形の男が、上から僕のことを見下ろしている。 この男、天城零夜(あまぎれいや)は、僕の血を飲んだだけで体調がわかるらしく、夜中まで起きていたのが、やはりバレた。 「不味かった?」 ワイシャツのボタンを留めながら尋ねる。 「うーん、いつもより舌触りがザラザラしてたかな」 「そっか、ごめん」 カーン、カーン──── 授業開始十分前のチャイムが、校舎から少し離れたここまで聞こえてきた。 「送ろうか?」 「いや。目立つからしなくていいよ。もし見つかったら、後々面倒くさいから」 「そう……じゃあまた明日ね、彗月(はづき)」 「うん、また明日」 名残惜しそうに手を振る天城に、僕は軽く手を挙げ返し、その場を後にした。 ────吸血鬼。 この国では一万二千万人にひとりという、極めて希少な種族だ。端麗な容姿に学問やスポーツ、音楽など何かしらのものに突出した才能を持つ彼らは、長きに渡って社会的に高い地位を確立している。 現代を生きる彼らには、三通りの食事方法がある。生きた人間から直接飲む方法、動物の血液パックを飲む方法、そしてサプリメント。一番効率がいいのは人間の血を飲むことらしいが、その分パートナーの負担は大きい。貧血や頭痛、症状は人それぞれだという。だから、信頼関係がある相手にしか勧められない食事方法だ。 そして僕は、天城のその「相手」をやっている。 嫌というわけではないが、乗り気ではないというのも事実。食べられた後のあの体の熱さとむず痒さは、なんだか苦手だった。 それでも、彼から離れることはできない。 ビュ──── 「さむ……っ」 突然の風に、思わず腕をさすりながら、いつもの場所へ向かうために外に出た。 四階建ての校舎は、三つの建物が渡り廊下で繋がっている。本校舎を抜け、渡り廊下の先には特別棟。音楽室や実験室が並ぶそこをさらに奥へ進むと、空中廊下の向こうに、一学年三十人ほどしかいない吸血鬼専用のアカデミー棟が見える。 政府直轄というだけあって本校舎も十分綺麗だが、あの棟の豪華さは比べ物にならない。真っ赤なカーペット、シャンデリア、絵画、極め付けは入口に衛兵までいる絢爛ぶりだ。 もちろん、一般生徒の立ち入りは固く禁止されている。唯一の例外は、吸血鬼のになることのみ。 その入口に視線を向けると、天城がちょうど衛兵に向かって挨拶をしながら、建物内に入っていくところだった。 僕もその姿を背に、本校舎へと急いだ。

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