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第27話 陥落した先に

 普段はおどおどとして気弱で、恥ずかしがってうつむくはずの彼は、まったく怖じける様子がない。  まるで人が変わったかのように積極的で、こちらが手を出そうとしても阻まれ、いやそんな隙がないほどあらゆる刺激を与えてくる。  そんな別人のような彼に戸惑いながらも、むしろ高ぶりを煽られている。  愛しているからなんでもしてあげたいだけでなく、ただ彼のするがままの快楽に溺れているのである。 「……俺に任せてくれ」  彼の声が聞こえたあと、驚くべきことが起きた。  シャワーで身体を洗われたまではいい。後ろから抱きかかえるように洗われて、その愛撫のような手つきにまたも頭を蕩かされていたところ、とつぜん尻を掴まれ、後孔に何かが触れたのである。  セックスと言えば、自分が挿入する側で、一生そのつもりだった。  彼に欲情していたときも、漠然とそこに挿れるんだろうくらいに考えていた。そんなプレイはしたことがないし、したいと思ったこともなく、できるできないは別として多少の抵抗はあった。  だとしても、彼とするならそれ以外にないだろうから、もし想いを遂げられる日が来たらやるしかないと、覚悟はしていた。  ただそれは自分が刀側の立場であって、鞘側ではない。  そのつもりだった。  今の今までは。 「無理だと思う。絶対に」 「ほぐしたから」 「ほぐすって、な、ん……」 「気持ちいい?」 「あっ、ちょ、そこは……」  執拗に洗われたあと、今度は舐められ、舌が侵入し、うねうねとするその不気味な感触に耐え、次に指が奥まで入ってきて、押し広げるように増えていった。  まさかのことである。  医者に罹る必要があったとしても、最後まで抵抗するだろうことを、愛する男によってされている。  しかも、高ぶらされっぱなしで解放されないままだ。  だから、そんな奇妙な行為にも、なにやら気持ちよさを感じてしまっている。  やや痛みがあり、一番は違和感で、次第にびりびりとした感覚が襲い、おそらく前立腺というところを何度も刺激されて、これまでに一度も感じたことのない気持ちよさを味わわされた。  わざといかせなかった理由はこれだったのだと、今さらながら気がついた。萎えてしまうのを危惧していたに違いない。  それじゃあ質問した意味がないじゃないか。結局答えていないが、答えていないのに彼の思うがままになっている。  いや、それは最初からだ。彼のするがままを受け入れるばかりで、得たこともない快楽を与えられ続けている。 「絶対に無理。てか、そんなこと初めてだし」  シャワールームを出たあとベッドに寝かされ、ゴムをつけた彼に挿れてもいいかと聞かれ、もちろん拒否して、しかし正常位の姿勢で足を開くように言われて、なおも断った。   「ああ、だから……その……」 「なんだよ」 「ますます嬉しいというか」 「は?」  めいいっぱい苛ついた声で返したのに、熱っぽく潤ませたあの目で見つめられ、油断した隙に足を掴まれた。 「おい、いいって言ってないんだけど」  答えない彼にあられもない体位にさせられる。しかもやや持ち上げられてもいる。 「無理だって」  言いかけたときに、生物学的に普通は何も挿れないはずのところへ、絶対に入らないであろうものをあてがわれた。  ぴたりと触れたそれが、少しずつ中へと入ってくる。 「おい、だめだって……んっ」  めりめりと音がするのではという感触。散々ほぐされたからか痛みはないものの、違和感がすごい。すごいというかひどい。  無理だと思う。しかし、ぐぐぐと入ってくる。ゆっくりと、少しずつ。 「なあ、とおる……あっ」  徐々にだったのが、一気に入ってきた。思わず背中をのけぞらせてしまう。  なにこれ。なにこの感触。圧がすごい。いや異物感がひどい。感覚がなまなましい。  しかも挿れたまま動かない。なんで? そのつもりもないのに、なぜか腰が動いてしまう。  すると、彼からキスをされる。  舌を絡められ、吸われて甘噛みされるあれだ。それだけで萎えかかっていたあれが屹立してしまう。  気持ちよくて蕩けていたら、彼のものが中でぐんと大きくなった。いや、もしかしたら自分が締め付けたのかもしれない。  わからないくらいに、頭もふやかされている。 「あ、ちょ、まっ……」  いきなり彼は動き出した。ゆっくりと、味わうかのように。全部抜けてしまうくらい離れて、また奥まで入ってくる。  中がこすれる。初めての、なんともいえない感覚。  とんっと突かれて、奥にあたると切ない。切ないというか、かすかに電流が流れたみたいになる。  それが続いて、なぜか、もどかしくなってくる。 「透……」  恥ずかしくて死にそう。でも、死んでもいいくらいにもどかしい。 「あの……あっ……もう少し……」  なんだか切なげな声になってしまう。 「痛くない?」 「あの、……うん」  答えると彼は動く速度を上げた。 「ちょ、いきなり……」  思った以上の刺激に襲われる。びりびりとかすかに感じていた感覚が、頭の奥まで痺れるような強さに変わった。  刺激というか、快感だろう。奥を突かれると、満たされた気持ちになる。いや逆だ。さらに求めてしまう。 「ん、だめ、って、あっ」  ギシギシ揺れる。ぬちゃぬちゃと音がする。  いつもなら音を出している側なのに、思わぬタイミングで聞こえてきて、なんというか、めちゃくちゃ興奮する。 「はあっ、んっ、透……」  なんで声なんて出るんだろう。  攻めているときは、せいぜいが達するときくらいなのに。  彼はそんな声をあげない。薄く開いた形のよい唇から、艶っぽい吐息がもれるだけ。  その息遣いは、屹立したあれがさらに大きくなるくらいエロい。なんかもう魅力の果てがない。  こんないい男に気持ちよくさせられているという事実からも、高ぶりを煽られる。 「あっ……」  浅いところを突かれて変な声が出た。自分が出したとは思えないような声が。 「ここがいい?」 「……っ」  同じところを何度も。聞かれて答えてもいないのに。  なんか、やばい。 「だめだ、やめ、やめろ」  変な感じがする。 「あ、なに、ちょ……」  いきなり、前を握られて、ぬるぬるとこすり始めた。  器用過ぎないか? 律動しながらそこもいじるなんて。  ああ、くそ。気持ちいい。全く違う刺激なのに、同時にされると混じり合ってわけがわからなくなる。 「……んああっ」  声も我慢できない。到達したことのない快楽に、頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。  もう無理。いきそう。 「透……いくかも」 「わかった」  答えた彼は手を離した。  いくと言って、わかったって答えてくれたはずなのにだ。まるでさっきと同じじゃないか。 「あ、ちょ、やめろ」  しかし、後ろにはしっかりと彼のものが収まっている。いきなり角度を変えてきて焦ってしまう。  焦ったというか、ビビり始めている。  数十分前まで挿れる側だと信じ込んでいたはずが、挿れられる側になって快感にむせぶなんて、信じられない。いや、信じたくないと言ったほうがいいだろう。  とにかく、だとしても、認めてもいい。気持ちいいことは認めるから、やめてほしい。  触れられていないのに射精感が高まりつつある。それはさすがにおかしい。止められたら普通は萎えるはずだろう? 「透、あ、あの」 「っ、雅紀……」 「な、なに?」 「俺も……」  動きが速くなった。止められないという感じで。それがまた、やばい。  くそ。信じられないくらい気持ちいい。  彼の背中に傷がつくのではと思うほどしがみついてしまう。すべすべとした彼の肌を傷つけたくないのに、気にしている余裕はゼロだ。 「透、あっ、あ」 「……雅紀」  やばいやばいやばい。まじで出そう。 「愛してるよ」  ちくしょう!  彼はいったらしい。それと同じくらいのタイミングで生田も果てた。  いや、少し早かったかもしれない。  彼が到達するその寸前に言われた言葉によって、とどめのように達してしまった。

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