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淫紋を刻まれた王子は護衛の兵士を食い物にする

 目を覚ますとだだっ広いベッドに一人だった。  気だるい朝だ。  なんとなく頭がぼうっとしているのは、昨晩遅くまで三人の騎士を相手に痴戯に耽っていたからではない。身体が熱っぽくも感じもするが、病気などというありきたりな理由でもない。俺の腹にある忌まわしいが、早くも効果を発揮し始めているからだ。  俺はのそりとベッドから身体を起こした。そして、自らの下腹部に目を遣った。  うっすらと赤く浮かび上がっている左右対称の紋様は、いつぞや辞典で目にした子宮の形に似ている。  女性の身体にあればさぞやエロティックに映るだろう刺青(タトゥー)。俺に魔法をかけたはぐれ魔法使い曰く淫紋というらしい。これがある限り、俺の身体は発情をし続けてしまう。俺の頭がぼうっとして思考が上手く働かないのや、身体が熱っぽく感じられるのは、この淫紋の効果のひとつという訳だ。 「殿下、そろそろご起床を」 「ああ……そうだな」  俺は窓から差し込む眩いばかりの陽射しに目を細めた。俺を起こした侍従長に話を聞けば、もう九時を回っているという。  熱っぽい身体を引っ張るようにしてベッドから出る。同時に、お支度をなどと口にしながら迫ってくる侍女たち。小さな部族が寄り集まって出来た南の小国の王族なんてもんは、余所の国のように煌びやかな衣装を身に纏ったりはしない。通気性に優れた薄い布を胸と腰に巻き付けただけのいでたち。手足を飾る装飾品の量が、俺が王族の一員であることを証明していたが、それだけだ。  彼女らの手で身支度を整えられた俺は、鏡に映る自分の身体に目を遣った。心なしか色を濃くしたように思える淫紋。今日もこいつの効果と戦わなければならないのだと思うとぞっとする。  俺は部屋を出て、食堂に向かった。  ※ ※ ※  俺の名はガシュー。ミラルカ王国の第一王子だ。  自分で云うのも何だが、出来のいい王子だ。剣技を修めたのは十六の時。家庭教師が学業にお墨付きを与えてくれたのは十八の時だった。無論、国民の覚えも目出度い。将来のミラルカ王国の統治者として、十分な資質を備えた王子。それが俺だった。  あの日、までは。  俺の順風満帆な人生を変える出来事が起こったのは三か月前のことだ。  王家を逆恨みをするはぐれ魔法使いが、俺が寝ている隙を狙って身体に淫紋を刻みつけてくれやがったのだ。  余所の国の管理体制がどうなっているかは知らないが、俺の国での魔法使いは、国家で運営している魔法寮に属することが義務付けられている。今ははぐれ魔法使いである奴もかつては魔法寮に属した正規の魔法使いだった。ただ、奴が研究や開発をする魔法は悉く危険思想なものであった。他人の思想を反転させる魔法だの、他人を自分に従属させる魔法だの、他人を自分に惚れさせる魔法だの。やっと他人をコントロールする魔法の研究から離れたと思ったら、小惑星を任意の地域に墜落させる魔法の開発だ。  ドラスティックにも限度がある。  幸い実力が伴っていない泡沫魔法使いであったからこそ事なきを得ていたが、周囲の魔法使いへの影響を考えると、魔法寮で飼い続けるには奴は危険が過ぎた。当然のことながら魔法寮の上層部は、奴を危険視した。結果、魔法寮から除籍されたはぐれ魔法使いヌーベル=フォンディーヌは、自身の除籍を決める書類にサインをした俺の父親に恨みを抱くに至ったという訳だ。  そしてだからこそ、父の覚え目出度い第一王子たる俺に、自身の最高傑作である淫紋魔法をかけていったのだ。  魔法寮の魔法使いたち曰く、この淫紋というやつは、元々性奴隷にいうことを聞かせる為に開発されたものであるらしい。常に発情状態にしておくことで、初めての相手でもスムーズに性行為を行えるという訳だ。しかも性行為に積極的になりもする為、飼い主の嗜好を満たし易くもなる。反吐が出るような使い道の魔法であるが、幸いかな、俺の国では使用が禁じられているのだそうだ。  はぐれ魔法使いとなった奴は、王家への嫌がらせの為に、わざわざ他国に足を運んで淫紋魔法を習得してきたのだ。  それもその筈。俺の国の魔法使いたちの主な仕事は干ばつ対策だ。  元々南方のこの国では、乾季が長く続く為干ばつが起こり易かった。今はかなりましになったが、昔は定期的に飢饉が起こり、国は悲惨な有様になっていたと聞く。国民生活を潤わせる為に役に立つ魔法の習得及び研究開発が至上命題な魔法寮で、ヌーベルの野郎がいかに異端な存在であったかがこれだけでも知れるだろう。  だからこそ口惜しくて仕方がない。  第一王子たる俺が、あんな魔法使いに身体をいいように変えられてしまったなど、末代まで語り継がれる王家の恥ではないか。  とはいえ、我慢が利くようであれば、わざわざ淫紋を付与する必要もないだろう。お陰で俺は定期的に大きな発情の波が来ては、父が選定した三人の騎士に身を任せなければならない始末。せめて発情状態を鎮める為の性行為の相手が女性であれば良かったのだが、俺の身体に刻まれた淫紋は男性を相手としないと発情状態が鎮まらないように式が書き込まれているのだそうだ。  まあ、実際に女性しか相手にしなければならなくなったとして、万が一相手が妊娠でもしようものなら、お家騒動に発展しかねないだけに、相手が男性に限定されているこの状況は良かったと云えるのではあるが……。  しかし昨晩など、三人の騎士を相手に六回戦だ。それで目を覚ませば、もう気持ちがセックスでの快楽を求めているときたものだ。  嗚呼、やりたい。でも、やりたくない。  俺は悩ましさを抱えながら食事を終え、護衛の兵士を連れて、城の中庭に出た。  馬でも走らせれば気分がすっきりするだろうか。そう思いながら厩舎への道を往く。今の時期はジャカランダの花が美しい。青紫のしだれた花に目を遣る。だが、発情状態がピークに向かいつつあるからだろう。以前であれば俺の心を和ませてくれた中庭の花々が、全く心に響かない。  やりたい。  というより犯されたい。  父が選定した三人の騎士は、確かに体力自慢の連中ではあったが、俺の立場が第一王子であるからだろう。壊れ物を扱うように俺を抱きやがる。それが俺は不満だった。もっと滅茶苦茶にされたい。だというのにどれだけ懇願しても、連中は俺を手荒に扱おうとはしない。  セックスの最中に行儀良くされるやるせなさが、連中にはわからないのだ。  俺は背後を振り返った。  黙って俺の跡をついて歩いてくる兵士は、胸と腰回りに防具を装着している。気温が高い王宮では軽鎧の着用が一般的だ。お陰で身体も顔も良く見える。俺は兵士を品定めした。筋肉がしっかりと付いた見事な体躯をしている。  肉体的には合格点だ。  意思の強そうな太い眉に、鷲のように鋭い瞳。しっかと結ばれた薄い口唇といい、決して美丈夫とは云えない顔付きではあるが、むしろ逞しい男を求めている今の俺の気分にはマッチしている。こういった荒々しさを感じる男に滅茶苦茶にされたい。それは俺が淫紋を刻み付けられてからの密かな欲望であった。  問題はこの兵士が俺に対して性欲を抱けるかということであるが、そこはそれだ。俺がこの兵士をその気にさせてやればいい。俺は頭の中で、この兵士をどう扱うかを考え始めた。伊達にこの三か月を情事に明け暮れてはいないのだ。それなりに相手をその気にさせるテクニックは身に付いている筈だ。 「お前、名は何と云う」 「フォッサと申します、殿下」 「ついてこい」 「どちらへ」  その問いかけには答えず、俺は足を速めて厩舎の方へと向かった。  発情状態がピークになるとこうなるとわかっているが、それで止められる衝動であれば三か月も苦労していない。頭の中はもうセックスの四文字で一杯だ。とにかく一刻も早くヤりたい。俺は厩舎の脇にひっそりと建っている納屋の前に立った。 「馬には乗られないのですか」 「後でな」扉を開いて中を覗き込む。  左手に飼い葉が積まれ、右手側の壁に用具が立てかけられている。中央にぽっかりと開けた空間があるのがまた都合が良いではないか。  俺はフォッサと名乗った兵士に納屋の中に入るように告げた。何の用で納屋を訪れたのかわからないのだろう。訝しそうな表情を浮かべながらフォッサが納屋の中に入ってゆく。俺は彼の跡を追って納屋に足を踏み入れると、扉を閉ざした。 「鎧を脱げ」 「それは出来かねます、殿下」  流石に護衛の任に就いているとあっては一筋縄ではいかない。脱げ、いや脱ぎませぬと幾度か遣り取りを繰り返すも、どうしても脱ぐ気にはなれないようだ。顔立ち通りの頑固さを発揮するフォッサに、俺の性欲が爆発する。  ならば実力行使だ。  俺はフォッサのうなじに手を回した。そして、つま先を立てて、奴の口唇に口唇を重ねていった。  当然ながら、フォッサが慌てふためく。かといって、俺は第一王子である。手荒に引き剥がすような真似も出来ない。自分の立場をいいことに、俺はフォッサの口唇を幾度も吸った。硬く結ばれた口唇はそのままだったが、音を立てて啄んでやっていると少しはその気になったようだ。鼻息が荒くなってきた。  何せ俺の見目はすごぶる良い。  母親譲りの麗しい面差しもさることながら、程良く締まった細身の体躯。身長が少々低いことがコンプレックスだったが、こうした逞しい男に抱かれたい欲望を抱えるようになった今となっては有難い限りである。噂に聞いたところによると、兵士の中には俺の可憐な見た目に庇護欲どころか性欲をそそられる者もいるのだとか。しかも父の命を受けている連中曰く、俺の小柄な身体は様々な体位を取るのに丁度いいらしい。これほどに男との性行為に適した身体があろうか。いや、ない。  きっとこの兵士も例に洩れないのだ。  俺は口を開けとの意味を込めて、舌でフォッサの口唇をなぞった。欲望と立場と任務の間で揺れているのだろう。困惑した表情を浮かべたフォッサが、俺の身体をやんわりと引き離す。 「あの、殿下。これは、その、どういう……」 「どういう意味もこういう意味もない。ヤるぞ」 「やるって、もしや性行為を、ですか」 「他に何があるんだ」俺はフォッサに口付けた。  深く口唇を合わせて、薄く開いた奴の口唇の隙間から舌を挿し入れる。興奮しているのか、怯えているのか。びくんとフォッサの身体が震えた。それに構わず舌を絡めにゆく。  俺よりも肉厚な奴の舌に、俺は興奮を隠せなくなった。  しゃにむに口付けを交わしながら、フォッサの手を取る。満更ではないのだろう。奴の舌が俺の舌に絡み付いてくる。俺はフォッサの手を俺の股間に導いてやった。また、びくんとフォッサの身体が震える。それに構わず布越しに俺のペニスを握らせてやると、さしもの堅物も観念したようだ。俺のペニスの形を確かめるように、ゆっくりと手を動かし始めた。  俺は奴の股間に手を伸ばした。股間を覆っているプレートが邪魔だ。 「鎧を脱げ」口唇を離して命じる。 「し、しかし、殿下。もし殿下の御身に何かありましたら」 「いいから脱げと云ってるんだ。お前も俺のこれが何かはわかっているんだろう」  俺は腰布の上から顔を覗かせている淫紋を指し示した。性欲の度合いに応じて色を変えるらしい俺の刺青(タトゥー)は、今や真っ赤に染まる寸前まで色を濃くしてしまっている。  いよいよ差し迫った事態だ。早くやらないことには、俺から理性が完全に失われてしまう。 「ぞ、存じておりますが、しかし」  だのにフォッサと来た日には、見た目の豪快さはお飾りだとでもいうつもりなのか。腰の引けたようなことばかり口にして、一向に俺に手を出してこようとしない。  焦れた俺は切れた。幾ら俺が王位継承権を有する第一王子だからといえど、俺自身がフォッサとのセックスを希望しているのだ。俺の期待にきっちり応えてみせるのも、臣下の務めであるだろうに。 「脱がないのであれば、父上にお前が俺の股間に触ったことを云うぞ」  自らに下される処分を想像したのだろう。はい! と、勢いのよい返事をしたフォッサが、あっさりと剣を置いたかと思うと、そそくさと鎧を脱ぎ始める。軽鎧だけあって、脱ぐのにそうは時間がかからない。露わとなった奴の逞しい胸板に、俺はごくりと喉を鳴らした。  これなら期待が出来そうだ。俺は視線を下に落とした。  膨れ上がった股間から察するに、フォッサのペニスは俺の二倍はありそうだ。  これだ。この大きなペニスで俺を滅茶苦茶に突いてもらおう。我慢の限界を迎えた俺は、早速とばかりに奴に迫った。 「お前、俺に欲情してるな」 「し、失礼ながら、そうです」 「何回なら出来そうだ」 「で、殿下のお求めとあれば、幾らでも」 「その言葉、忘れるなよ」  俺はフォッサの股間に手を伸ばした。膨らみに手を当てると、かなり硬くなっている。早くコレが欲しい。俺はその場にしゃがみ込むと、フォッサのズボンを下ろしてやった。そして下着の内側から、想像通りの太さを誇るペニスを引き出した。 「あ、あの、殿下。何を」 「()たなきゃ出来ないだろうが」俺はフォッサのペニスに口付けた。「それとも何だ。お前、俺を満足させる気がないのか」 「そ、それは勿論ありますが……」  ここにきて尚及び腰なフォッサに苛立ちが募る。  俺は腹立ちまぎれに奴の亀頭を吸ってやった。う。と、声を上げて、フォッサが顎を仰け反らせる。一瞬にして伸張したペニスからして、奴が俺に性欲を感じているのは間違いないだろう。だったらいっそ奴を押し倒して腰に跨ってやろうかとも思うが、いかんせん俺は細身だ。体格差=力となると、この体格差では俺の望みを自力で叶えるのは難しい。  とにかくフォッサにやる気を起こさせないことには。  俺は舌を奴の陰茎に絡ませていった。口付け、吸い、時々口に含んで、口唇で陰茎を扱いてやる。陰毛から立ち上ってくる雄臭さが鼻腔を擽ったが、それこそが俺の望む匂いだ。深く嗅ぎながら、スティックキャンディを舐めるようにして、奴のペニスにねっとりと舌を這わせていく。すると、辛抱堪らなくなったのだろう。壁に凭れてはあはあと息を荒くしていたフォッサが口を開いた。 「あ、あの、殿下。そんなにされたら出て」 「だったらぼうっとしてるんじゃない」俺は立ち上がってフォッサの逞しい胸に身を寄せた。「もっと積極的にしていい。俺はお前みたいなのが好みなんだ。だから、何をされても文句は云わない」 「ほ、本当ですか、殿下」 「ああ、滅茶苦茶にしろ。これは命令だ」 「……わかりました」  腹を括ったようだ。フォッサの手が俺を手荒に引き寄せてくる。ああ、これだ。そして、もっとだ。俺の心は歓喜に沸いた。俺はもうずっとこうやって手荒に扱われることを望んでいたのだ。フォッサの手で壁に押し付けられた俺は、早速と俺の衣装を剥がしにかかった奴に欲望を燃え上がらせた。 「脱がせますよ、殿下。後から文句などを吐かれませんよう」 「ああ、構わない。脱がせろ」  期待にたがわぬ荒々しさで俺の衣装を取り去ったフォッサが、身を屈めて俺の乳首にむしゃぶりついてくる。  この様子であれば、相当に俺に対する欲望を溜め込んでいてくれたことだろう。俺はフォッサの黒髪に指を埋めた。奴の腕が俺の腰を引き寄せる。俺はあっあっと声を上げて、奴の巧みな舌技に身を任せた。乳首を舐ってくる奴の厚い舌が、まるでピアニストの指のような細やかな動きをみせる。 「男にしておくのが惜しいくらいにいやらしい身体つきですね、殿下」  俺の乳首に口付けを繰り返しながらフォッサが口にした。  その、俺の尊厳を貶めるような発言に、俺の情欲は煽られた。何せあの三人の騎士と来た日には、どうしようもないくらいにお行儀がいい。これは如何ですか、殿下。こちらは如何ですか、殿下。などと俺の機嫌を逐一窺うような台詞ばかり吐いてくる。  俺は妄想の中で幾度、フォッサのような男に自分の尊厳を踏み躙られるような扱いをされてきたことか。  そう、俺はこれが欲しかった。フォッサのような男が欲しかった。  俺は妄想が実現した喜びに陶然と酔い痴れた。もっと、もっと俺を手荒く扱ってくれ。そう願いながら身を捩らせる。 「この細い腰で俺のペニスを受け入れようなんて、殿下はどれだけ好き者なんです? 俺は堪らないですよ、殿下。散々頭の中で慰み者にしたあなたを現実にこんな風に扱える日が来た。お望み通り、滅茶苦茶にしてあげますよ。淫紋を吹き飛ばすぐらいに、滅茶苦茶に」  俺のペニスを揉みしだきながらフォッサが告げてくる。  どうやらこいつのいやらしい物言いは、俺の性癖に合致するようだ。抑えがたい劣情が俺の心の奥底から這い出てくる。早くこの男に組み敷かれたい。そしてその逞しい男根で思い切り突かれたい。そう願うも、流石に直ぐには挿入には至らないようだ。膝を付いたフォッサが、今度は俺の腹の辺りを舐ってくる。 「このキスマークは、ジーク様のものですか? それともレッド様のもの? それともダイジャー騎士団長がお付けになったものですかね」  昨晩、散々ねだった末にようやくダイジャーに付けてもらえたキスマークを舐りながら、フォッサが尋ねてくる。俺を頭の中で慰み者にしていたと云っただけはあり、気に食わないのだろう。奴はそのキスマークを打ち消すように軽く歯で俺の肌を食んできた。  背中に電流が通ったような快感が走った。  続けてキスマークに重ねるように肌をきつく吸われた俺は、その恍惚とした痛みに身悶えた。あ、あ、それ、いい。譫言のように言葉を吐く。  酷くされ過ぎるのは嫌だが、このぐらいに荒く扱われるのであればむしろ気持ちがいい。俺は俺の顔を見上げているフォッサの顔を見下ろした。騎士宜しく膝を折っているフォッサの姿は、俺にひれ伏しているようにも、また甘えているようにも映る。 「殿下、先程の質問にお答えください」 「そのキスマークはダイジャーが付けたものだった。お前が今、新たに刻み直したがな」 「勿論です、殿下」恭しく頭を下げたフォッサが厳かに宣言する。「俺であなたの三か月を上書きしますよ、殿下。覚悟してくださいね」  云うなり俺の身体が引き倒される。と、即座に身体を二つ折りにされる。  まさかもう挿入かと俺の心は踊ったが、豹変したとはいえ、流石は俺の臣下だけはある。フォッサもそこまで無頼にはなれないようで、俺のアナルをしげしげと眺めるばかりだ。 「ああ、いやらしい。こんなにアナルをぷっくりと膨らませて。それだけあなたはここで男の欲望を受け止めたのですね、殿下」  俺の羞恥心を煽るように言葉を吐いたフォッサが、ややあっておもむろに顔を落としてくる。  双丘にかかる荒い息。かなり興奮しているらしく、ところ構わず俺の臀部を吸い上げてくる。ああ、ああ。俺はじっとりとしたフォッサの愛撫にまた声を上げた。時折、アナルに息が吹きかかるも、そこは最後にしたいという思いでもあるのだろうか。触れてこぬ舌に、もどかしさと焦れったさを覚えた俺のアナルがぴくぴくと収縮する。 「殿下のアナル、滅茶苦茶ひくついているじゃないですか。もう、ここに欲しくて欲しくて堪らないんですかね。いやらしい」  嗜虐傾向があるのだろう。顔を上げたフォッサが俺のアナルに視線を注ぎながら口元を歪ませる。  その残忍ともとれる表情が、俺の心を疼かせた。この男はまるで俺がどうすれば興奮するのかわかっているようではないか。いや、奴が俺の願いに応じているだけなのはわかっている。それでもこの相性の良さ! 砂漠の乾いた大地に水が染み入るように、俺の乾いた心を潤すフォッサの台詞に、眩暈がするほどの高揚感に包まれた俺は決心した。  今夜の夜伽の相手はこいつにするのだ。そうすれば俺は六回戦も頑張らずとも満足出来るのではないか……。 「早く、早く、フォッサ。入れて……」  アナルの入り口を太い指でなぞりられた俺は、焦れったさに早くと声を上げた。その俺の言葉に、やれやれといった様子でフォッサが手を動かす。同時にぬとりとアナルに挿入(はい)り込んでくる逞しい二本の指。たったそれだけの刺激だったが、飢えに飢えた俺の身体には充分だ。  俺は溜息にも似た吐息を零した。と、フォッサが指を動かし始める。  ぬぷぬぷと俺のアナルを広げてゆく指に、俺のアナルが激しく疼き始める。欲しい。ここに奴のぶっといペニスが欲しい。俺はアナルの口を窄めて、奴の指を奥へと引き込んだ。その拍子に探り当てたようだ。俺の前立腺にフォッサの指が触れてくる。 「凄く膨れてますね、殿下のここ」  云うなりぐりぐりと指で擦ってくるフォッサに、俺はあられもない声を上げた。 「あっ、フォッサ。フォッサ、いい。そこ、いい」  三か月の間に育ち切った俺の前立腺は、些細な刺激でも感じるようになっていた。そう、ほんの少し撫でられただけでも、射精に似た感覚を覚えてしまう程に。  そこを強く刺激されたのだ。気持ちいいどころの騒ぎではない。  あまりの気持ち良さに、俺のペニスがとろりと先走った汁を吐き出した。それが目に留まったようだ。にやりと笑ったフォッサが、つれなくも俺のアナルから指を抜いてゆく。 「少し弄られただけで我慢汁を吐き出すなんて、あのお三方に随分と躾けられたのですね、殿下」  身を屈めたフォッサが俺のアナルに貪り始めた。唾液を相当に含ませているのだろう。奴が舌を動かす度に、ねちょりねちょりと卑猥な音が辺りに響き渡る。 「そこ、そこ、もっと舐めて。舐めて、フォッサ」  俺は両手で床に散らばった飼い葉を掻いた。もどかしさに腰を動かしたくなるも、俺の身体は二つに折られたままだ。どうにもならない体勢に俺の理性が追い詰められてゆく。早く奴のペニスが欲しい。だのに、些細な愛撫にですら快感を覚えて止まらない。  あっあっと忙しなく俺は声を上げ続けた。  とろりとろりと垂れてくる精液が、俺の腹に染みを作っている。このままでは、そう遠くない内に射精をしてしまいそうだ。 「お、願いだから……もう、入、れて……フォッサ……お願い、だから」  俺はフォッサに懇願した。  同じ射精でも腹の中にペニスを収めての射精と、それ以外の状態での射精では、発情状態の鎮静化に差が生まれる。当然ながら前者の方が鎮静の度合いが大きい。俺がフォッサに懇願したのはそういった事情があってのことでもあったが、それ以上に俺がその状態で達するのが好きだというのもある。  世の女性たちは好きな人に抱かれるのが一番の幸せなどと口にするが、あの相手の全てを腹の中に収めている多幸感は、男に抱かれてみて初めて理解出来るものだ。  腹の中に精液を注がれた瞬間の、世界の真理を知ったような感覚。俺はこの三か月でそれを嫌というほど思い知った。だから俺は構わず俺のアナルを舐り続けているフォッサに繰り返し懇願した。お願い、フォッサ。お願いだから、お前のペニスを俺にくれ。 「そんなに入れて欲しいんですか、殿下。だったらそれに相応しいお願いの仕方があると思いますが」  だのにフォッサと来た日には、俺が淫紋の力でこうなってるのはわかっているだろうに、意地悪にもそんなことを口にする。 「お願いだから、フォッサ」 「違いますよ、殿下。お願いします、でしょう?」  にやついた視線を俺に向けてくるフォッサに、俺の羞恥が限界に達する。  またもとろりと染み出る精液。そう、俺はフォッサに羞恥心を煽られることに快感を感じてしまっていた。奴に言葉で嬲られると心が躍る。そう、腹に精液が薄く幕を張る程に。 「お願いします、フォッサ。俺のアナルに、ペニスをください」  俺は恥ずかしさを押し殺して、更に懇願した。だが、その程度では奴は満足出来ないようだ。フォッサが更に俺に指導を入れてくる。 「フォッサ殿、ですよ、殿下」 「フォッサ殿……お願いします……俺のアナルに、あなたのペニスを……ください」 「いい感じになってきましたね、殿下。ではアナルをマンコに、ペニスをチンポに云い換えてみましょうか」  瞬間、ぞくりと俺の背中を快感を伴う怖気が走った。  俺は理解した。これが俺が欲していたものだ。  俺は潤んだ瞳で俺の顔を覗き込んでいるフォッサの顔を見上げた。俺を捕食したくて堪らないのだろう。露骨に俺を値踏みしているような眼差し。それが俺の立場の弱さを伝えてくるような気がして、俺の中にある被虐心を満たすのだ。 「お願いします、フォッサ殿。俺のマンコに、あなたのチンポをください」  俺は口唇をわななかせながら、奴の好みに従って言葉を吐いた。 「いやらしいですねえ、殿下。そのような下品な言葉を吐かれるなど。日頃の凛々しさは何処に行ってしまわれたんです。しかもすっかりメスの顔をしていらっしゃる」 「なら、どう云えばいいんだ」  それでも俺に挿入しようとしないフォッサに俺の精神は崩壊寸前だった。腹の淫紋はとうに赤くなってしまっている。理性など最早欠片もない。とにかく欲しい。お前のペニスが欲しくて欲しくてどうしようもない。そう俺が我を忘れて叫べば、ようやく何かの溜飲が下がったようだ。では、お望み通りに。と、フォッサが俺の身体の上から上体を起こした。 「たっぷりと突いて差し上げますよ、殿下。あなたの気が済むまで」  俺の足を肩に掛けたフォッサが、ノータイムで俺のアナルにペニスを挿し入れてくる。俺の夜伽の相手のひとりである騎士団長のダイジャーのペニスも相当だが、それよりも一回りは太い。けれども淫紋で作り変えられ得た俺のアナルは、柔軟にもそのペニスをすんなりと受け入れてしまうのだ。  みっしりと後ろ孔に詰まったペニスが前立腺を圧迫する。ゆっくりと動き始めたフォッサの腰に、念願がようやく叶った俺は歓喜の声を上げてよがった。  そこからは訳がわからないくらいに犯された。  愛撫などはもうまだるっこしいと感じているのだろう。射精を済ませたかと思えば、抜かずに体位を変えて腰を振ってくる。俺が達しようがお構いなしだ。ペニスを抜く時間も惜しいとばかりに俺を犯すフォッサはまさしく野生の獣だった。  立って、座って、伏せてと目まぐるしく変わる体位。けれども俺は、そんな荒々しいフォッサとのセックスにすっかりハマってしまっていた。  絶対に今夜の夜伽の相手はこいつだ。  俺は飼い葉の上に横になっているフォッサの腹の上で腰を振りながら、改めてそう思った。 「嗚呼、嗚呼、殿下。なんと卑猥な腰の動きをされるのでしょうね、あなたという方は。俺の精液が全て搾り取られてしまいそうですよ」  既に射精を三度済ませている俺はそろそろ体力が限界だったが、それで尽きてしまうような性欲ではない。何せ淫紋様だ。乳首をフォッサに撫でられつつ、ひたすらに快楽を貪る。 「嗚呼、殿下、殿下。そろそろ私は限界のようです……」  ぜいぜいと息を荒くしているフォッサはこれで五度目の射精となる。  如何に筋骨隆々な男とはいえ、体力は無尽蔵には湧いてこない。仕方ない。そろそろ射精が近くなった俺はフォッサに俺を突くように告げた。これで終わりにしなければ。そう思いながら腰を前後に振る。  下から突き上がってくるフォッサの逞しいペニスが、俺のアナルの深いところに潜り込んでくる。ああ、ああ、フォッサ。俺は辺り憚らぬ声を上げて喘いだ。奴の名前をひたすらに呼びながら喘ぎ続けた。  そうして、その瞬間が来た。  ぱしゅ、とペニスの先が弾けるような感覚。圧迫された前立腺に、精液が噴出する。俺が達する瞬間を目の当たりにして、ようやく気を緩ませたようだ。続けてアナルの奥に押し込まれるフォッサのペニス。腰を二度、三度と大きく震わせた奴が、喘ぎ声を上げながら飼い葉の中に腰を沈めてゆく。  その刹那、だった。  奴の身体から煙のようなものが噴き出してきたかと思うと、見る間にその姿が変化してゆくではないか。  刈り込まれて短かった黒髪が肩にかかる程の金髪となり、隆々とした筋肉が消え去ってゆく。顎が細くなった顔に収まっているのは、鳶色の瞳に筋の通った細い鼻。甘いマスクを俺に向けた男に、俺は恐れ戦いて身を退いた。 「お、前……ヌーベル……!」  俺は咄嗟に壁にかかったままの剣に手を伸ばしていた。俺の身体をこんな風に作り変えてしまった張本人である。斬り捨てないことには気が済まない。だが、奴は俺の斬撃をするりと躱してみせると、あまつさえ俺の手から剣を取り上げて、くっくと声を潜めて笑ってみせるやがる。 「おやおや。先程までは悦んで腰を振っていた方にしては、変わり身の早い」 「兵士にまで化けて姿を現しやがって。俺に何の用だ」 「三か月であなたの身体がどれだけいやらしく成長したのか見に来たのですよ」 「何だと……この、クソ野郎……」  いずまいを正したヌーベルが、俺に剣の切っ先を向けてくる。まるで余計なことを話すなとでも云いたげな態度に、俺は静かに両手を挙げた。  命乞いなどという情けない真似はしたくなかったが、俺は第一位の王位継承権の保持者である。ここで命を落とせば、その瞬間にこの国の未来は閉ざされてしまうだろう。その意地が俺を世界に繋ぎ留めていた。 「クソ野郎とはお言葉ですね、殿下。私はあなたを愛しているというのに」  嘘を云うな――と、云いかけた途端に、喉元に突き付けられる剣の切っ先。  これでは俺は何も話せないではないか。俺は渋々黙った。奴の態度からして俺の返事は特段求めていないようだ。つまり、俺に自分の話を聞き続けろということなのだろう。仕方なしに俺は奴の言葉に耳を傾けた。 「自分で育てたくもあったのですが、警備が厚い王宮に夜毎忍び込むのは流石の私でも難しいですからね。代わりに他の方に育てていただこうと思ったのですよ。その甲斐はあったようです。私好みに育ってくださった」  俺の喉元に剣の切っ先を突き付けたまま、奴が俺の髪を撫でてくる。どうすればいい。俺は機会を窺うしか出来ない自分に歯噛みした。とはいえ、今はとにかくこいつに話をさせるしかない。奴の顔を睨み付けつつ、次の言葉を待つ。 「まあ、それもその淫紋の効果ではあるのですがね。と、いうことで殿下。私のものになりませんか。なってくださるのであれば、その淫紋の効果を弱めて差し上げましょう」 「冗談じゃない。お前に身体を差し出すくらいなら、今この場で舌を噛み切って死んでやる」 「おお、情のこわい人だ」大仰にポーズを取ったヌーベルが剣を引く。「では、今日の交渉はここまでということで」 「なんだと」 「またいずれ会いに来ますよ、殿下。その時には色よい返事が聞けると信じていますよ」  そう口にして指を鳴らしたヌーベルの姿が、瞬時にして消える。からんと音を立てて床に転がる一本の剣。俺は呆然とその場に立ち尽くした。  奴の狙いは王家に恨みを晴らすのではなく、俺を手に入れることにあったのか?  意味がわからない。わからないが、俺の淫紋は奴と対立し続ける限り消えることはないのだろう。俺は悩ましさに頭を掻いた。だからといって、自分に淫紋を刻み付けた相手にこの身を委ねるなどあってはならないことだ。 「畜生……ッ」  俺は舌を鳴らした。  床に落ちている自らの衣装を拾い上げて身に纏う。そしてフォッサに変装したヌーベルが身に着けていた剣と軽鎧も拾い上げる。  俺は途方に暮れた。  またあの堅苦しい騎士連中と、夜を過ごさねばならないのか。  ヌーベルが化けたフォッサとの相性が良過ぎただけに、俺は暗澹たる気分になった。もういい加減、他の相手とやりたい。そう、出来ればフォッサのような俺を完璧に満たしてくれる男と。  そこまで考えたところで俺は閃いた。  だったら城内の兵士全員とやればいいのではないか。  中には絶対に俺と相性がいい奴がいる筈だ。そいつさえ見付け出せれば、俺の今日の不覚も忘れられる。  俺は納屋を出た。  そろそろ西に傾き始めている太陽が眩しい。手にした剣と軽鎧を抱え直す。俺は新たな目標を胸に、ジャカランダが咲き誇る中庭をひとり城に向けて歩んで行った。

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