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第1話
僕、影山 睦月 と長濱 希良利 が出会ったのは大学だった。
同じ大学の同じ学部で同じゼミ。
そのころから希良利は俳優業をしており、最低限の出席しかしていなかった。
だから、お互いに「なんかいるな」くらいの認識だったと思う。
そんな僕は、無事、就職活動に失敗し、学生寮も出なくてはならないというのにバイトで稼いだはした金しか持っていなかった。
なんとかバイト先に「卒業後も働かせてほしい」とお願いし、3月は入れるだけシフトを入れてもらった。
正社員に上げてほしいとお願いしたものの、店長は困ったように笑って「うちでは正社員はとっていないんだよ。バイトの形態でよければうちにいてくれてもいいけど」と言ったので雇用形態はパートのままとなった。
その日のバイト終わりに、裏口から出ようとしたら、店長と奥さんの話し声が聞こえてきた。
「影山くんから正社員にしてほしいとお願いされた」
「影山くん?うーん…、悪い子じゃないんだけれどねぇ…」
「中本くんなら良かったんだけれど、彼は4月から大手に就職だもんなぁ」
「出来る子に限って、すぐに就職していっちゃうわよねぇ」
使える中本ではなく、使えない方の僕が残ったことを憂う店長夫婦の会話に頭が真っ白になった僕は、逃げるようにその場を後にした。
あのバイト先に長く居付くわけにはいかない。
しかし、就職もすぐにはできそうにもない。
それより、早く寮を出なくてはならない。
考えることが沢山ありすぎて、何も考えられない。
トボトボと狭い安い学生寮の自室を目指して歩いていると、何かとぶつかりかけた。
「うわっ、あぶねっ」
相手が慌てて身をかわしたので、正面衝突は免れた。
気の弱い僕は慌てて「すみません!」と謝る。
「いや、俺も歩きスマホしてたから、ごめん。
って、あれ?君どこかで…」
相手がそう言ったので僕は顔を上げた。
あ…、「長濱 希良利…、さん」
やばい。呼び捨てにしちゃうところだった。
「あ、やっぱり俺のこと知ってたか。
たしか…、同じゼミだったよね?名前は…」
彼が思い出せそうになくて可哀想なので「影山睦月です」と教えた。
「そうそう!睦月。
自己紹介した1番最初のゼミの時、丁度ムツキって名前の役やってたからちょっと覚えてるよ」
「は、はあ」
だから何だと言うのだろう?
とにかく、これから灰色の人生を送る僕と違い、彼は華々しい人生を歩んでいく人間だ。
これ以上は話していても自分が惨めなだけ。
僕はそう思って「それじゃあ」と立ち去ろうとした。
「あ、待って。
君は4月から就職?」
なぜ急にこんな痛いところを突いてくるのか。
僕は苦笑いをしながら「いや…、就活失敗して無職」と言った。
彼は気まずそうに「あ、そうなんだ。ごめん」と謝る。
今度こそ、本当に帰っていいかな?
「あの…」と後ずさりしながら言いかけると「君、料理と掃除できる?」と訊かれた。
まだ帰れないのか…
質問の意図は分からないけれど「寮で暮らしてるし、できなくはないけど」と答えると彼の表情が明るくなる。
「じゃあさ、俺の家に来なよ」
「…は?」
何言ってんの?この人…
僕が呆然としていると、彼は「悪い話じゃないと思うんだけど」と付け加える。
「俺さ撮影やら何やらで家を空けることが多いし、帰っても撮影やら練習やらで全然家の事出来なくて荒れ放題なんだよね。
ハウスキーパー雇ったけど、3人中3人が俺のストーカーになっちゃって困ってて…、睦月、どうかな?」
はあ…
俳優ってのは、本人も周りもバグってる奴ばかりなのだろうか。
本当に同じ大学生か?
「ちゃんと給料は出すよ。
まあ、住居は俺の家になっちゃうけど、そう狭い家ではないし…、どう?」
「いや…、どう?と言われましても…」
本当に何を言っているのか分からない。
これ以上、僕を悩ませないでほしい。
僕の反応が微妙だからか、彼は困ったように微笑んで「じゃあ連絡先交換しよう?もし受けるってなったら連絡して」とスマホを差し出してくる。
そこにはメッセージアプリのQRコードがあった。
そこまで言われて交換しないわけにいかず、そのQRを読み込み、友達登録した。
きっと使うことはあるまい。
「あ、ファンに売るとかはなしね」
「長濱さんの連絡先を売るような相手いませんよ」
それどころか、この連絡先を使うことすらないのに…と、この時の僕は思っていた。
すると彼の携帯が震え、「あ、マネージャーだ」と呟いた。
「じゃあね、睦月。いつでも連絡して」と言いながら慌ただしく走り去った。
嵐みたいな人だなぁと思いつつ、寮に戻ると寮母さんに声を掛けられた。
「まだ出る準備をしてないの、影山くんだけよ?
なるべく早く出て頂戴ね。
ハウスクリーニングだ何だって、こっちも準備が必要だから」
そう言われてトボトボと部屋に入る。
ここでもまた人に迷惑をかけているのか、僕は。
自分の不甲斐なさに涙が出そうになった。
一晩考え…、僕は長濱希良利に『そちらで働かせてください』とメッセージを送った。
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