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第1部 第1話

いま、まさに。 ずっと、醒めることのない悪夢の中にいる。 これは僕のイマジネーションが生み出した幻影だ。 疲弊しきった精神が、痛みと絶望に耐え切れず、こんな残酷な悪夢を見せているだけなんだ。 こんな現実が、存在するはずがない。 あり得ない。 あってはならない。 掌を濡らす、生温かな液体。 ぬめりを帯びたそれは細い腕を伝い、赤い雫となって冷たい床へ落ちていく。 手の中で握り締めたサイバーナイフは、まるで恒星の欠片を掴んでいるように灼けつく熱を放っていた。 視界は霞み、ノイズの走るホログラムのように揺らいでいる。 僕の目は、本当に真実を映しているのだろうか。 ……分からない。 どうか……神様。 助けてよ。 誰でもいい。この無力な僕を、助けてくれ。 その願いに応えられるはずだった、たった一人の人が。 額に汗を滲ませ、血の気を失った唇を、かすかに震わせる。 「……良かった」 僕を庇ったその一言だけを残して。 どうして……。 何が、起きた。 こんなことは……あってはならない。 こんな結末になるはずじゃなかった。 僕の腕の中で崩れ落ちていくのは、命よりも大切な友人――レディルだった。 僕が刺したかった相手は、こいつじゃない。 あいつだけだった。 ただ一人、憎きあいつだけを、この手で殺すはずだったのに。 突然の惨劇に、椅子から半ば立ち上がったまま、呆然と僕を見つめている本来の標的がいる。 違う。 お前じゃない。 いや、お前だ。ここに倒れているべきなのは、お前だった。 腕の中で、急速に熱を失っていく友の身体。 その重みが、死という絶対的な事実となって、少しずつ僕自身へとのしかかってくる。 感覚を失った頭でそれだけを理解しながら、僕は静かに瞼を閉じた。 ……これは、夢だ。 目を覚ませば、すべて忘れてしまえる悪夢。 そうであってくれ。 お願いだから―― 誰か。 僕を、起こしてくれ。 この悪夢から。醒ましてくれ。 ⸻彼、ディアス・レイフスは、その夢の中で自分を縛るすべてから逃げ出した。 「……ッ」  浅い呼吸とともに、ディアスは静かに目を見開いた。  視界に広がるのは、血塗られた五年前の部屋ではなく、ブラック・シールド旗艦の豪奢で冷ややかな自室の天井だった。  シーツを握りしめる掌には、あの日の生温かい感触も、サイバーナイフの熱もない。  無意識のうちに流れていた一筋の涙を、白く長い指先で冷淡に拭い去る。 「……愚かな『男』だ」  神に救いを求めて泣き叫んでいた過去の自分を嘲笑うように、ディアスは暗闇の中で低く呟く。  あの日、すべてから逃げ出した無力な青年はもういない。  今の彼にあるのは、すべてを支配する力と、失った親友の面影を持つ青年への、狂おしいほどの執着だけだった。

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