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第2部 第26話【完】
ブラック・シールド旗艦、最高司令室――ブリッジ。
緊迫した航路データが飛び交う中、けたたましい自動ドアの開放音とともに、金髪を派手に揺らしたマイトが満面の笑みで飛び込んできた。
「みんな聞いてくれ! 収穫大漁だぜ!」
マイトが引きずってきたのは、ついさっき宇宙海賊の拠点からごっそり略奪してきたばかりの大型コンテナだ。
ガチャリとロックが外れて扉が勢いよく開き、中から無数の戦利品がブリッジの床に盛大に転がり出た。
その中から、マイトが一際目を輝かせて「おっ、これだこれ!」と拾い上げたのは、鈍く、しかし吸い込まれるような漆黒の光を放つ奇妙な金属の塊だった。
オペレーターや航海士たちが「また副官が変なガラクタを……」と一斉に苦笑を浮かべる中、マイトはその黒い金属を両手で大事そうに抱えたまま、中央のアームチェアへと堂々と歩み寄った。
「ディアス、見てくれよこれ!」
玉座の如きアームチェアに優雅に腰掛け、冷徹な美貌でタブレットを眺めていたディアスは、盛大に散らばった戦利品を一瞥してから、やれやれといった調子でマイトに視線を向けた。
「……マイト。ここは荷下ろし場ではない。その無造作に散らかったガラクタを今すぐ片付けなさい」
「まあそう言うなって! こいつを見たら、そんな小言は吹っ飛ぶぜ」
マイトは周囲の視線など一切気にせず、ディアスの目の前にその黒く輝く金属をドンと突き出した。
「これさ、さっき襲った海賊の隠し金庫にあったやつなんだけどよ。船の科学班に見せたら、『宇宙空間の超高熱にも耐える特殊合金の塊だぞ……!』ってビビりまくってたんだ」
「……ほう。確かに、ただの鉄くずではなさそうだがね。それで?」
ディアスが片眉を上げると、マイトはふっとニヤリと不敵に笑い、ブリッジにいる全クルーに聞こえるように声を張り上げた。
「こいつを解析した班長が言ってたんだ。『コイツは1万度のマグマでも絶対に溶けない代物だ。市場に出せば1gあたり5,000万クレジットは下らねぇお宝だぞ』ってよ!」
「1gあたり5,000万クレジット……。確かにそれだけの価値があれば、ブラック・シールドの全艦隊の維持費が数ヶ月分浮くほどの超高価なレアメタルだな。よく持ち帰った」
ディアスが感心したように頷いた瞬間、マイトはその黒く輝く金属をディアスの膝の上へポスンと置き、ブリッジの真ん中でパッと両手を広げた。
「でさ、俺が決めたんだ! この金属を使って、アンタとの結婚指輪を作る! ……だから、俺のお嫁さんになってくれよ、ディアス!」
一瞬、広大なブリッジの空気が完全に凍りついた。
コンソールを叩いていたオペレーターの手がピタリと止まり、航海士はコーヒーカップを危うく落としそうになり、全クルーが「「「……は……?」」」と盛大に口を開けて固まった。
「な、なんだよお前らその顔は! 本気だぜ? 1万度でも溶けねぇんだろ? つまり、俺たちのこの切れても切れない腐れ縁と、一生お前を離さねぇっていう俺の執念を形にするには、これ以上ない素材だろ!」
「……君ねぇ。プロポーズをよりによって全クルーの面前で、しかも略奪品の山の上でする馬鹿がどこにいる。だいたい、この巨大な合金の塊から指輪をどうやって削り出すつもりだね」
ディアスの端正な顔が、予測不能すぎる公開プロポーズの衝撃に盛大に引きつり、こめかみを指で押さえた。
だが、その瞳の奥底で、かつての幼い記憶がふとよみがえった。
――『おっきくなったら、俺のお嫁さんになってよ!』
あの遠い日の庭で、ふわふわの金髪を揺らして無邪気に笑っていた幼いグラムの面影が、いま目の前で真っ直ぐに自分を見つめる「マイト」の顔と完璧に重なる。
まったく、昔から変わらない身勝手で派手好きな理屈だ。
ディアスは呆れを含んだ美しい笑みを浮かべると、立ち上がり、マイトの頭にそっと手を伸ばしてその金髪を優しく、しかし強かにぐしゃぐしゃと撫でつけた。
「……ふっ。いいだろう。そこまで大々的に宣言するなら、本当にその『1万度でも溶けない金属』で指輪を作ってみせろ、マイト」
「マジか!? 作ってきたら、俺のプロポーズ受け入れるんだな!?」
「ああ。地獄の炎でも何でもくぐり抜けて、本当にオレにふさわしい指輪をその手で作ってきたら……その時は、考えてやらないこともないさ」
ディアスのその言葉に、マイトの顔が一面パァッと華やぎ、最高に嬉しそうに破顔した。
「よっしゃあ見てろよ! 地獄の炎どころか、俺の愛の熱でこの金属をブチ曲げて、世界で一番すげぇ指輪を作ってやるぜ!」
マイトがガッツポーズをキメたその直後、ブリッジの隅で無線をいじっていた船員が小声で呟いた。
「……おい、聞いたか? 副官、今『お嫁さん』って言ったよな……?」
「ってことは、次回の式典では、あのクールなディアス様がウエディングドレスを着るってことじゃ……!?」
そのヒソヒソ声を聞き逃さなかったマイトは、満面の笑みで振り返り、ブリッジ全体に響く声で宣言した。
「お前らよく分かってるじゃねぇか! 結婚式のときは俺がタキシード着るから、ディアスが真っ白なウエディングドレス着る姿……めちゃくちゃ楽しみにしてろよ! 絶対似合うからさ!!」
「「「…………っ!?」」」
船員たちは一斉に天を仰ぎ、「副官、命知らずすぎんだろ……!」「でもちょっと見てみたい……!」と盛大に頭を抱えながらずっこけた。
あまりの暴走っぷりに、ディアスは静かに深呼吸をしてから、呆れと溺愛が入り混じった瞳でマイトの首元を引き寄せた。
「……あとでたっぷりとお説教が必要のようだな、我が愛犬よ」
「へへ、お手柔らかにな、ご主人様!」
満天の星々が広がる銀河の海。
最高に賑やかで、最高に幸福な愛の熱に包まれたブラック・シールドのブリッジは、今日も今日とて盛大な笑い声に満ち溢れながら、光の彼方へ力強く突き進んでいくのだった。
[ 完 ]
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