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第1話「妄想男子と柴山くん!」

『おまわりさんってめっちゃ格好良いんだよな~!』 それは、ずっと昔にあったような一コマ。 ジリリリリリリリリリ …ん…んん…。 容赦ない1日の始まりのアラーム。 「おーい!起きろー!遅刻すっぞー!」 そういってその声の主は俺の布団を引き剥がす。 まだ寝てたい…。 そう言った俺を見て、 やれやれと言わんばかりの表情をしながら 「んなこと言ってないで、とっとと起きる!」と俺の身体をぐいっと持ち上げる。 うわぁ!!! 驚いた俺とは対照的に、その反応をみて無邪気な笑みを浮かべ「おはよう。」と俺の額に口付けをした。 …みたいな甘いBL漫画のような朝がくるはずもなく、 俺は一人布団の隙間から手を出し無慈悲にも鳴り続けるスマホのアラームを止める。 ………………。起きるか…。 第1話 「妄想男子と柴山くん!」 俺の名前は、寺川てらかわ 佑一ゆういち。 32歳独身。恋愛対象が男の子のごくごく平凡な社会人。 趣味は漫画やアニメの推し活と妄想、BL漫画を読み漁る事…いわゆる腐男子というやつだ。 母子家庭で育ち、家計を支えるために高校を出たあとすぐに就職。自分で言ってしまうが割と好奇心旺盛な為、それなりに色々な仕事をしてきた。テーマパークのスタッフにホテルマン、本屋に花屋に色々と。 そして今は以前勤めていたブラック企業を辞めて、たまたま縁があったビジネスファッションのアパレル店に勤めている。 「寺川くん!今のお客さん!寺川くん好みじゃない?」 同僚のお姉さまこと森さんが俺の肩をてのひらで連打してくる。 『いや!結婚指輪してたので無しです!』 「えー、高身長だし顔もそこそこ整ってたしアリだと思ったんだけどなぁー」 『いや、確かに身長はドタイプでしたよ!でも俺、既に相手がいる人無理なんで!…ってそもそもお客さんをそう言う目で見たらアカンでしょ!』 「そっかぁ~」と少し残念そうに両手の人差し指をちょんちょんする森さん。 するとその森さんの隣から先輩の竹原さんがひょっこり顔を出す。 「寺川くん真面目だからなぁ~、私なら気になったら相手が居ても奪っちゃうくらいで猛アタックしちゃうね!」 『さすがっすわ…竹原さん…。…でも俺は自分の理想だけは譲れないんで!』 「寺川くんの理想高いからなぁ~」 『そりゃ!付き合ったらその人と一生を共にしたいんで妥協なんか出来ませんよ!』 「そんな重く考えずに、とりあえず付き合ってみちゃえばいいのにー」 『いんや!どっかにいるはずなんです!俺の理想のお相手が!』 握り拳をぐぐっと上げる。 …口ではこう言っているし、そう振る舞っているが実際には現実での恋愛は大分諦めている。 だって、こんな俺を好きになってくれる物好きなんて居るわけがないから。 だから俺は妄想したり、BL漫画読んだりして 疑似恋愛を楽しむんだ。それでいいんだ。というより、それしかできないんだ。 すると竹原さんが 「寺川くんの理想とりあえず言ってみ。」 『え!?…うーんと、まず第一に高身長でしょ、次に筋肉質で、顔も格好良くて、実直で一途で絶対浮気の心配がなくて、精神的に大人で、田舎出身で…あ、実家に歳の離れた弟と妹がいるともう満点ですね!』 「「ちょいちょいちょいちょい」」 止まらない俺の理想語りを二人が制止する。 「いやいやそんな人漫画やドラマじゃないんだから居ないでしょ……あ、いや、まって、いるじゃん!」 「あぁ!柴山くん?!」 二人がひらめいたように一斉にこっちを向く。 『え!?!柴山くんですか?!いやいやいやいやいやいや!あんなイケメン無理に決まってるじゃないですか!絶対彼女さん居るに決まってますし、居ないにしても俺みたいなやつ好きになるわけないじゃないですか!年齢差!むこう23歳って前言ってましたよ?ムリムリムリムリ!ナイナイナイナイ!』 「えー脈アリだと思うんだけどなぁー」 『いやいやいやいやいやいやナイナイナイナイ』 全力で否定する俺と。 そうかなー?っとなる2人。 すると竹原さんが外からお店に歩いてくる人影を見つける。 「まって!噂をすれば!」 「こんにちはー!」 少し低音だけど爽やかな声と共に 高身長黒髪短髪男子が来店された。 「柴山さん!こんにちは!」 竹原さんが柴山に駆け寄る。 この高身長短髪黒髪男子こと、 柴山 健太 (しばやまけんた)23歳。 恐らく独身。職業不明。 柴山さんは、数ヶ月前からお店に通い続けてくれてる常連さんだ。 誰にでも分け隔てなく笑顔で接して 物腰も柔らかく気遣いもできるイケメンだ。 THEパーフェクトヒューマンという言葉や スパダリ(スーパーダーリン)という言葉が当てはまる人とは、まさに彼の事であろう。 秋田県出身らしく、就職を機に上京してきたのだという。しかも!ご実家には俺の理想でもある、一回り以上歳の離れた弟さんや妹さんがいるらしく…もうほんまに勘弁してくれ案件なのだ。 なんでそんなに彼のこと知ってるかだって? 店員のコミュ力とスタッフ間の情報共有力の賜物ですよ。 お店に入った柴山くんは、 キョロキョロと何かを探していた。 そして、目があった。 「あ!寺川さん!」 ギュン!!!!! ま、眩しい!! そんな大型犬のようなキラキラした笑顔 俺に向けないでくれ…好きになっちまう!!! という俺の心を抑えつつ、 平常心笑顔で柴山さんのもとへ行く。 『柴山くん!こんにちは~!あれ?今日はお仕事お休み?』 「はい!!!」 柴山くんの大きな返事が店内に響きわたる。 「あ、大きな声出しちゃってすみません!」 柴山くんは少し恥ずかしそうにしながら、 ハハッと人差し指で自分の頬を掻いている。 『今日も元気だね~! (かぁぁぁぁわいい!!!ワンコやないかい!勘弁してくれ!)』 俺は感情を表に出さないようにするのに必死だった。 「あ!えっと、今日はその!…ネクタイ!ネクタイが欲しくて!」 柴山くんは手を首もと辺りまで上げてネクタイを締めるジェスチャーを加えながら伝えてくる。 『今日はネクタイか!じゃあこっちだね!』 俺が柴山くんをネクタイの棚へ案内しているところを、森さんと竹原さんはニヤニヤと離れた所から見ている。 いや、だから本当にそんなんじゃないってば!と心で思いながらも満更でもないのは確かだ。 壁の棚一面に様々な色や柄のネクタイが並んでいる。 そして棚の隣には大きな縦長の全身鏡があり、そこで合わせを確認できるようになっていた。 『どんな感じが良いとかある?色とか柄とかざっくりでもイメージ決まってたら!』 俺はネクタイの棚から視線を柴山くんに向ける。 「あっ!えっと…寺川さんのオススメで…。」 『え!?また俺のオススメ?…いいの?今日も俺のオススメだと、毎回俺のオススメになっちゃうけど!(笑)』 「はい!寺川さんのオススメが良いんです!」 柴山くんはキラキラした眼差しでそう伝えてくれた。 『そっか~』 そうなのだ。柴山くんはいつも俺のオススメを買っていってくれるのだ。それだけ俺のコーディネートを気に入ってくれたり信頼してくれるのは本当に嬉しいし店員冥利につきるというものだ。 俺はネクタイの棚と柴山くんの顔を交互に見ながら 彼に似合うネクタイを探しはじめる。 『うーん…この前は確かターコイズ系の波みたいな柄のネクタイだったから…』 「あのネクタイ!通勤の時につけていたら先輩にすごく良いネクタイって褒められたんですよ!俺もすごく気に入ってます!」 なんでだろうないはずの尻尾が見える。 柴山くんが全力で尻尾振ってる柴犬にしか見えない。 『本当!?わぁー嬉しいな!気に入ってもらえたみたいで良かった良かった!』 というかさっき通勤の時に着けていったらって言ってなかった…ん?職場では着替える感じなのか?仕事着で着ないのに何でこんなにいつもワイシャツやネクタイ買ってくれるんだろう。通勤お洒落さんなのかな。まじで何の仕事しとるんやろ。 と色んな疑問や感情が頭の中をぐるぐると駆け回る。 いやいや今はそんなこと置いといて目の前に集中せなあかん。 俺は再び仕事スイッチを入れる。 『そうだなぁ~じゃあ今回はこれとかどうかな?』 そう言って俺は大剣の右下に小さな茶色の肉球の刺繍が入った深緑色のネクタイを手に取って、鏡の前に立っている柴山くんの首もとに当てる。 俺の手が柴山くんの胸元に少し触れた瞬間 「ぐっ…」と微かに声が聞こえた。 彼の顔を見るとすごく強ばった表情をしていたが。まぁいつものことだ。 ネクタイを当てるとき決まって彼はこの顔になる。まるで注射前の柴犬みたいでかわいいのだ。 『ほら、似合う!どうかな?』 「は、はい!好きです!」 …好きです!?!あ、ネクタイのことだよね。そうネクタイのことだよ。決して俺のことではないよ。勘違いしないようにね。 『………良かった~!実はこのネクタイ俺けっこう気に入ってたから、柴山くんにおむかえしてもらえて嬉しい!』 そう言ったあと柴山くんの顔を見上げると、 柴山くんの顔から汗がダラダラと垂れはじめ顔も心なしか赤くなっていた。 どうした柴山くん!?大丈夫か?!…なんか顔も心なしか赤い気がするけど… 『柴山くん?』 名前を呼んだが反応がない。 『おーい柴山くん?』 「……………。」 『柴山くん!』 さっきより少し大きめな声で再度名前を呼んでみる。 「はいっ!!!」 『なんかボーッとしてるし顔も赤いけど、大丈夫?暑い?熱とかある?』 俺は柴山くんの顔をジッと覗き込む。 「え?あ、いや、その…さっき走ってたんでその反動が出たんだと思います。その、俺汗っかきなんで…ははっ…。」 そう言って柴山くんは頭の後ろを手でかく。 『分かるっ!!!俺もめちゃくちゃ汗っかきだから気持ち分かるよ!!動いたあといきなり止まると、後から滝のように汗出てくるよね!ほんと、どうにかなんないのかね!』 フフッと柴山くんが笑った。 よかった。別に体調が悪いわけではなさそうだ。 …まぁ、ずっとすっとぼけをかましているが実際のところ、この状況BLや恋愛漫画であれば…柴山くんは俺に恋をしていて、さっきのボディータッチで照れて赤面みたいなシチュエーションではあるわけだが、これは現実。そんなことは断じてない!こんなイケメンが俺に恋する要素なんて1ミリもあるわけがない!俺にときめくわけがない!正気を保て佑一!勘違いするな佑一!これは現実!現実なんだ! そうやって自分自身に言い聞かせないと勘違いしてしまい取り返しがつかなくなってしまうのだ。 「じゃあ、今日はこのネクタイお願いします!」 優しい口調で柴山くんは、 俺の手ごとネクタイを握ってきた。 !?!?!!?!?!?! 手!!!手!!!手握っちゃってるよ!!! 柴山くん!!!これ勘違いしちゃうからアカンて! 『は…はい。か、かしこまりました。』 あまりの出来事にパンク寸前でロボット口調になりかけた俺をみて柴山くんはふふっと笑う。 「ふふっ…なんで急に敬語ですか?」 『え!!そんないつも敬語…じゃないか…そ、そうだ!柴山くんは!い、一応お客様ですからね!!!』 「ふっ…一応って…」 慌てふためく俺とは対照的に、 ツボに入って笑ってくれる柴山くん。 なんかさっきと立場逆転してる気がするんだけど…。まぁいいか…。 …はぁ、好きだなぁ。 そんな思いと一緒に俺はネクタイをお買い上げ袋に入れた。 第1話「妄想男子と柴山くん!」

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