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プロローグ【望月とプティ・アネモネの初めての対話】
プロローグ
一面の、白――まるで、四角い箱を切り取ったような無機質な空間だった。
一歩、踏みだすとコツ、と硝子を叩くような硬質な音がする。
「ここは――どこ? 僕は“あの花畑“にいたはずじゃ……」
望月(もちづき)は、その白い箱の中で、ぽつりとひとりごちた。
気がついたら、このなんにもない場所にひとりで佇んでいた。
まったく見覚えのない景色。
「また、いつもの不思議な夢かな? おかしいな。夢の中ではいつも僕は俯瞰しているはずなのだけれど」
望月は、不安を紛らわせるようにそんなことを言う。
怖がりな性分のため、大きな赤い双眸がびくりと見開かれていた。
身じろぎにあわせて、白いうさぎの耳と尻尾が揺れている……。
白髪赤目 のこの少年は、不可思議な夢のような世界を歩いていた。
すると――急に空間が静かになった。
まるで、おとぎ話に出てくる城の広間のように開けた場所。
美しい白磁でできた玉座にひとりの少女が腰かけ、ぷかぷかとしゃぼん玉を吹いている。
ぱちん、と宙でシャボン玉が弾ける。
また、ぷかぷかと漂うシャボン玉……。
望月には、その光景がずいぶんとのんきに感じられた。
「君は、だれ……」
望月の問いにその少女は、はっと顔をあげた。
ふと、望月の顔を見るとぱああっと表情を輝かせた。
そして、ステップを踏むように白磁の椅子から降りた。
「もしかして、あなた、私が見えるのっ!」
不可解な言葉だな、と望月は小首を傾げる。
「見えるも何も、君はそこにいるじゃない」
「ふふっ、あなたがそう言うんだから間違いないわ。でも、誰かとお話するなんて久しぶりっ」
彼女がワルツでも踊るように、軽やかに望月の手を引いた。
「誰かが遊びに来てくれるのをずーっと、ずーっと待っていたの。おいしいジュースも、お菓子も……おもちゃもいっぱいあるんだよっ」
「……じゃあ、君は、こんなところにずっとひとりでいたの?」
「うん。でも仕方ないの。そういう決まりだから。ねえ、あっちでおしゃべりしましょう」
ますます、この少女が不思議な存在に思える。
こんな空虚な場所にひとりきりで閉じ込められているなんて。
だが、少女は、望月の複雑な思いを知らないように、無邪気に手を振った。
すると、今度は、硝子のテーブルセットがその空間に現れた。
「わっ、今のは何? これは魔法? きみは魔女なの? というか、君は誰……君がこの場所に僕を“呼んだ“の?」
「まあ、そうかな。あなたとお話したいの。とりあえず、座って」
少女が、青白いか細い足をぶらぶらとさせながら、椅子に座った。
いつの間にか、テーブルには、オレンジジュースとクッキーがきれいなお皿に並べられた。
……魔女という存在に出会ったことはないけれど、本当に魔法のようだ。
どんなからくりなのだろうか。
「ねえ、あなたは私のことを忘れちゃったの?」
「ごめん。分からないんだ」
「忘れちゃったなら、仕方ないね」
少女は、ぱくり、とクッキーを齧った。
「私の名前は――そうね、プティ・アネモネとでも名乗りましょう」
「君の名前はプティ・アネモネ……」
望月が、その名前をなぞると彼女は満足そうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、まずは、あの日の話をしましょうか。これは、望月と私、プティ・アネモネの初めての対話」
そして、ゆっくりと少女――プティ・アネモネは語る。
これは、白うさぎの少年・望月と不思議な語り部のプティ・アネモネの初めての対話。
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