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5章【終焉】-3 散華編

   そのときだった。  遠くでずしん、と大きな地鳴りの音がした。  その振動が広場全体にまで広がり、地面が大きく揺れる。 「あ、ぐぅっ、な、に……」  郁は、地面に転がり、やおら、視線をあげた。  すると、黒の異形――もえぎが屋敷を大きな拳で叩き潰したのが見えたのだ。  火の手があがる。  なぜか、このときばかりは郁は冷静に察していた。  潮からの束縛が絶たれた。  もえぎの手によって解放されたのだと。  思いもよらない唐突の解放に、郁は、へなへなと地面に座り込んだままだった。 「長! 潮さま――!」  まだ、広場には生き残りがいたらしい。  誰かがあらぬかぎりの声で、叫ぶ。  だが、広場からでも見えた巨大な屋敷は、今やその影もなく、ただ、黒煙があがっているだけだ。  誰もが、長と潮の絶命を、このコロニーの終焉を理解した瞬間だっただろう。  もう、郁ともえぎを縛り付けるものは何もない。  その事実を目の当たりにしても、郁の心は凪いだままだ。 「はは、もう終わりだ……暴徒を止める、な、んて……」  コロニーの終焉に、虫の息の住民たちが、静かに語る。 「俺の家族は――暴徒によって、殺されたよ。一瞬のことだった」  そう言った者は片足の太腿から下がもげていた。  顔色はすこぶる悪く、このままでは出血多量で――もう長くはないだろう。 「もえぎが……悪い……潮さまの好意を無駄にして……良くしてもらったのに……恩を仇で返すとは」 「子産みの道具に自由を与えたのが……悪かった……生まれたときから座敷牢に入れておくべきだったんだ……」  郁の頬がかっと熱を持つ。  気づいたら、そのまま、瀕死の男に掴みかかっていた。 「郁……? まだ、生きて……」  男は、どうして、と問うように不思議そうに郁を見上げた。  郁は男の髪を掴むとがっとレンガ造りの建物――厳密的には残った外壁――にその頭を叩きつけた。 「お前たちが、もえぎを追い詰めたんじゃあないか……おれたち、兄妹を飼い殺しにして……責められるのはもえぎじゃない……お前たちだ」  郁はもう一度、外壁に男の頭を叩きつけた。 「あ、ががっ、ぎ、いっ――郁、頼む、死ぬ、死ぬから――」 「そうだ。もうコロニーはなくなったんだ! もう過去のことは水に流せ!」 「うるさい!」  郁は咆哮した。 「お前たちなんて殺してやるっ!」  そして、か細い息を吐く男の頭を再び、掴んだときだった。  大きな黒い影が、そんな郁たちのやりとりを無感情に見下ろしていた。 「も、えぎ……?」  黒い異形は小首を傾げた。  だが、それだけだった。

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