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5章【終焉】-3 散華編
「郁、もうそれくらいにしておけ! みんなで逃げないとこのままじゃ全滅だ! そいつを抱えて、逃げるぞ、ぐ、がッ!?」
傍らで郁を窘めていた亜人種が黒い巨大な五指に絡めとられた。
彼は、黒い異形に高々と持ち上げられ――必死に宙で四肢を暴れさせた。
大人が大粒の涙を目に浮かべ、鼻水を垂れ流す。
「も、もえ、もえぎ、悪かったよ、謝るからっ、お、おれ、し、死にたくな――ぐ、ぎッ!」
黒い五指に力がこもる。
めきめきと背骨が軋む音がした。
「い、いだいっ、いだいぃいいいいいい! だのむっ、だのむがら、ごろさないで、くれぇえええっ! 死にたくないっ、死にたくない!」
異形は、まっすぐに死を目前にした男の瞳を眺めた。
もえぎと同じ澄んだ黒い大きな瞳だった。
そして――。
「あぎゃああぁあああああああああああああああああああああっ!」
男の断末魔が響く。
一拍遅れて、ぱあんと風船の爆ぜるような音とともに男は肉塊となり果てた。
そして、また、一歩踏み出す。
ずん、と地面が揺れた。
ぬうっと横を巨大な腕が伸びた。
不思議と死は怖くなかった。
だが、異形が腕を伸ばしたのは、郁ではなく、郁が掴んでいた男だ。
男は、瀕死でぐったりとしたまま動かない。
郁は、『もえぎ』の意図を察した。
「もえぎ、だめだ……! お前は誰かを殺めてはいけない……! お前の苦しみは分かってる……でも、それだけはだめだ――!」
だが、異形に郁の言葉は届かなかった。
腕を振り子のように動かし、レンガの外壁に男の身体を叩きつけた。
全身の骨が砕ける嫌な音。
だが、男の形を模った血の影が残ったきりだった。
「あ、ああ……」
郁は、言葉を失った。
それから、異形は黒く大きく澄んだ目で郁を捉えた。
郁は、息を呑み――硬直した。
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