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5章【終焉】-3 散華編
(次はおれの番か、当たり前だよ。おれはもえぎにさみしい思いをさせた。その間に快楽に耽った恥知らずだ。自分じゃもえぎを守れないから潮に差し出そうとした……殺されて当然だ)
「もえぎ……ごめんなさい、」
郁はゆっくりとこうべを垂れた。
異形が――もえぎが、自分を見ているのが分かったが、その表情までは分からない。
こんなときなのに、落涙していた。
(くそ、涙……なんて……おれの、苦しみなんて……もえぎはもっと痛かった……はず、)
「もえぎ、おれのことをさぞや恨んでいるだろう? 約束を守れない兄でごめんなさい。いいから、俺を殺して――そうしたら、きっと少しは気持ちが晴れるから。お前は、ひとりでお行き。でも、もう誰かを殺しちゃだめだ……」
郁は、贖罪のつもりで妹に話しかける。
「あが――あ、ア?」
その声に鈴を転がしたようなかわいらしいもえぎの面影はない。
もえぎは、濁ったノイズのような音をあげた。
「ほら、おれを殺せば、もうお前に過去はない。こんな場所に留まる必要はないんだよ……もう、自由だ。どこでも生きていける」
もえぎは黙った。
「ね? もえぎは、もうひとりでどこへだって行ける……もえぎは縛っているのは、おれだけ……」
郁は、最後のもえぎへの言葉を告げた。
だが、別れるつもりはなかった。
「もえぎのこと、愛してる。大切な家族だった。だから、死んでも、ずっともえぎのそばにいるって約束するから……! 今度こそは、約束、絶対に……守ってみせる……ごめんなさい、ごめんなさい――」
すっともえぎが郁の身体を掴んだ。
痩身が宙に浮く。
ようやく、最期の時がきた。
(ろくな人生じゃなかった。でも、もえぎの兄でいられて良かった。これで安心して逝ける……最後は、笑顔でいないと。じゃないともえぎが心配するから)
郁は、笑ってみせた。
しかし、表情は笑みをつくっているのに、涙が流れてしまう。
「ほら、俺を殺して、」
そのとき、巨大な指先が郁の頭をそうっと撫ぜた。
「おニ、い、ちゃ……」
ひび割れたノイズが……確かに郁を呼んだ。
郁は、大きく目を見開いた。
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