85 / 93

5章【終焉】-3 散華編

(次はおれの番か、当たり前だよ。おれはもえぎにさみしい思いをさせた。その間に快楽に耽った恥知らずだ。自分じゃもえぎを守れないから潮に差し出そうとした……殺されて当然だ) 「もえぎ……ごめんなさい、」  郁はゆっくりとこうべを垂れた。  異形が――もえぎが、自分を見ているのが分かったが、その表情までは分からない。  こんなときなのに、落涙していた。 (くそ、涙……なんて……おれの、苦しみなんて……もえぎはもっと痛かった……はず、) 「もえぎ、おれのことをさぞや恨んでいるだろう? 約束を守れない兄でごめんなさい。いいから、俺を殺して――そうしたら、きっと少しは気持ちが晴れるから。お前は、ひとりでお行き。でも、もう誰かを殺しちゃだめだ……」  郁は、贖罪のつもりで妹に話しかける。 「あが――あ、ア?」  その声に鈴を転がしたようなかわいらしいもえぎの面影はない。  もえぎは、濁ったノイズのような音をあげた。 「ほら、おれを殺せば、もうお前に過去はない。こんな場所に留まる必要はないんだよ……もう、自由だ。どこでも生きていける」  もえぎは黙った。 「ね? もえぎは、もうひとりでどこへだって行ける……もえぎは縛っているのは、おれだけ……」  郁は、最後のもえぎへの言葉を告げた。  だが、別れるつもりはなかった。 「もえぎのこと、愛してる。大切な家族だった。だから、死んでも、ずっともえぎのそばにいるって約束するから……! 今度こそは、約束、絶対に……守ってみせる……ごめんなさい、ごめんなさい――」  すっともえぎが郁の身体を掴んだ。  痩身が宙に浮く。  ようやく、最期の時がきた。 (ろくな人生じゃなかった。でも、もえぎの兄でいられて良かった。これで安心して逝ける……最後は、笑顔でいないと。じゃないともえぎが心配するから)  郁は、笑ってみせた。  しかし、表情は笑みをつくっているのに、涙が流れてしまう。 「ほら、俺を殺して、」  そのとき、巨大な指先が郁の頭をそうっと撫ぜた。 「おニ、い、ちゃ……」  ひび割れたノイズが……確かに郁を呼んだ。  郁は、大きく目を見開いた。

ともだちにシェアしよう!