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第30話 高2_生徒会旅行

ドアノブから手を離し、九条は橘の言葉を待っていた。 (俺だけって、言ってたな) その言葉だけが、少し引っかかって残っている。 ただ、それをどう扱えばいいのかは分からない。 恋愛という枠で考えようとすると、どこか噛み合わない感じがする。 橘は少しだけ顔を上げる。 「九条」 「何だ」 「さっきの話だけど」 「続きか」 「うん」 橘は言葉を選ぶように間を置く。 「好きなタイプって話、  それって……」 一度視線を落とす。 「普通は、もう少しこう……段階とかあると思う」 「段階」 九条は少しだけ黙る。 その間に、橘は続ける。 「俺も、ちゃんと初恋みたいなのあったけど」 九条の動きがほんのわずか止まる。 「小さい頃だけど、よく笑う子で、一緒にいると楽しくて…だから、それがタイプっていうか …」 橘は少しだけ笑う。 「でも、それだけで、"その人だけ”っていう感覚とは違って…。 だから、さっきのはちょっと不思議で。 …今のって告白?」 沈黙。 九条がゆっくりと橘を見る。 「違う」 「違う?」 「ああ」 橘は少しだけ安心したように息を吐く。 (やっぱりそうだよね。 告白にしては俺の反応に興味が無さすぎたし) 九条は続ける。 「お前は別だ」 橘は一瞬固まる。 「別……?」 「最初からそうだ」 橘は困ったように笑う。 「それって、好きっていうより……いて便利とか、そういう感じ?」 「違う」 即答だった。 橘は言葉を探す。 「じゃあ、なに?」 九条はしばらく黙る。 視線だけが少しだけ落ちる。 そして静かに言う。 「お前は、俺の前にいるのが普通だ」 橘は少しだけ目を瞬く。 「普通って……?」 「そこにいるのが当然だ」 橘はその言葉を反芻するように黙る。 (当たり前、ってことか) 「それって、恋愛じゃなくない?」 「そうかもしれない」 その答えに、橘は逆に少しだけ安心する。 (やっぱり違うんだ) 「最初の言い方、変な誤解生むよ」 「誤解ではない」 「え?」 九条は一度だけ橘を見る。 「事実だ」 橘はそこで、ようやく理解を諦める。 (九条の“好き”は、俺の知ってる好きとは違う) でも、不思議と嫌ではなかった。 「……まあ、分かったような気はする。とりあえず」 「ああ」 九条はそのまま部屋へ戻る。 扉が静かに閉まる。 橘は一人になってから、小さく息を吐く。 (初恋と同じカテゴリじゃないのは分かったけど、それはそれで、何なんだろうな) 答えのないまま、その疑問だけが夜に沈んでいった。

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