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第二話
都内某所の高級ホテル。
そこでは泉の誕生日パーティーが盛大に主催されていた。泉の父親が社長を務める会社の関係者が大勢招かれ、会場内は多くの人で賑わっていた。
泉もこの日のために仕立てた真新しい高級なスーツに身を包み、会場内にいる相手一人一人に挨拶して回る。
「泉くんもこんなに大きくなって、まぁ!小さい頃から美人さんだったけれど、今はもっと綺麗になって」
「ははは、おかげさまで」
もう何度目か分からない似たような会話。愛想笑いにもだんだんと嫌気がさしてくる。しかしそれを悟られてはいけないと、頬を無理やり横に引く。
一旦挨拶回りを終えた泉は、裏へはけた。会場の外にあるソファにどさっと腰を下ろす。ふう、と深い深呼吸を一つした。
(疲れた……早く終わってほしい……)
視線を下へ向ける。
深い紺色のネクタイに映える、赤いルビーをあしらったネクタイピン。
蓮からもらった誕生日プレゼントだった。それを見ると頑張れ、と勇気をもらえるような気がして、泉は少し微笑んだ。
「あ、あのう……」
ぼそぼそとした小さい声。誰だ?と不審に思いながら顔を上げる。
そこには長い前髪で顔を隠した男が立っていた。身長やガタイはいいが、猫背が全てを台無しにしている。一言でいえば、陰キャオーラ全開の男だ。
「どうされました?」
すぐさま愛想笑いを顔に浮かべる。
「く、黒宮泉の誕生日パーティー会場って、ど、どどどこですか……?」
(こいつが俺の誕生日パーティーの招待客?どこのどいつだ。こんな負のオーラをまとった知り合いなんていないはずだが……)
しかし手にはしっかりと招待状が握られており、彼が招待客なのは明らかだった。泉はこんな人間も父の関係者にはいたのだな、と心の中で彼を少しあざ笑いながら、会場の方向を指さした。
「あちらですよ」
「あ、あああありがとうございます……っ」
男は頭を勢いよく下げると、駆け出して行った。
刹那、彼からふわりと香った。フローラル系の洗剤みたいに、妙に心に残る匂い。
泉ははっとして自身の下半身を見た。
いつの間にか大きく膨らんでいる秘部。熱を吐き出したいとスーツを押し上げていた。
(な、なんで……今まで無意識に勃起することなんて、なかったのに……)
*
会場へ戻ると、泉の父親が手招きをしていた。
「どうしました?」
「番候補の子が到着したようだ。挨拶しに行こう」
「……っ!」
体がこわばった。泉は事前に送られていた番の個人情報について、ほとんど目を通していなかった。
番になり結婚するのが嫌なわけじゃない。
高齢化が進んでいる今、男でも子供を埋めるオメガの価値は貴重。そしてそれを、幼少期から幾度も聞かされ、これは自分の使命であり運命なのだと分かり切っている。
ただ今自分の抱えている恋心がなくなるとは限らない。そうした時に、相手が不憫で仕方なかった。
父親の後を重い足取りでついていく。
(優秀なオメガには、優秀なアルファが番候補になる。きっと、蓮みたいな……)
「彼だよ。芝塚商社の御曹司、芝塚耀 くんだ」
「は……?」
父親が伸ばした手の先。
そこにいるのは、目を隠すほど長い前髪に、猫背でもじもじと体を揺らす男。
見間違えようがない。先ほど会場外で会った男だ。
「は、初めまして……というか、さっきぶりですね。あの時はありがとうございました」
「い、いえ」
心臓がばくばくとして冷汗を全身にかいていた。
「黒宮さんの番候補の、しし芝塚耀 と言います。よろしくお願いします……っ」
何も言えず茫然としている泉を父親が押した。
「早く挨拶しなさい」
「あ……っ、番候補の黒宮泉、です……」
「うちの耀は出来が悪いと思っていましたが……まさか黒宮さん家の御曹司とマッチングするとは、想像もしていませんでしたよ」
耀の隣にいる人物が言う。
泉は彼の顔に見覚えがあった。現在の芝塚商社をここまでの一大企業に押し上げた本人であり、現代表取締役社長を務める芝塚正和 。高齢になった今でも、社交界に積極的に出席することで有名だ。
(こいつの、祖父か……似ても似つかないじゃないか……!)
正和は続ける。
「来週から耀も泉さんと同じ高校に転校するので、よろしくお願いしますね。学年は一年生なので、三年生の泉さんとは直接的な関りは少ないかもしれませんが、どうぞよくしてやってください」
「え……っ、芝塚さんって、何歳……」
「じゅ、十五です」
相変わらず恥ずかしそうに体をくねらせながら答える。
(と、年下……)
泉は鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。
(この冴えない、陰キャっぽくて、全くと言っていいほどアルファのオーラがない男が俺の番?何でも完璧にこなせる俺の遺伝子相性が最高な相手?笑えない冗談、やめてくれ……俺の人生に、こんな不出来な相手が組み込まれるなんてごめんだ )
この男が隣に立つ未来を想像しただけで、吐き気がした。
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