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第1話
「んっんっ…あっ!そこっ!」
「ここ?…気持ちいい?」
「気持ちいいっ!…そこっ…ぁあっ!…もちいっ…」
「南風 …ここ、もっと欲しい?」
「ほしっ…紫月 …もっとっ…」
「っはぁ~~!スッキリ~~!」
「ふっ…南風、終わった後も元気だよね?」
「うん。超元気!」
「そんなに元気なのに、すぐ眠れるよね?」
「気持ち良くなって、スッキリしたら、熟睡でしょ…でも、紫月がぎゅってしてくんなきゃ眠れない」
「はいはい。ぎゅっ」
紫月は、優しい
我が儘な俺の言う事、何でも聞いてくれる
紫月は、優しい
何の価値もない俺を、包み込んでくれる
「紫月、キスして?」
「いいよ…ちゅっ…」
「紫月…もっと、ぎゅってして…」
「いいよ…南風も、ぎゅっとして?」
「うん…紫月……ぎゅってして…ねよ…」
「いいよ。このまま、寝ようね」
「紫月……しづき……」
セックスが好き
挿れられてる間は、しっかり繋がってるから
急に離れる事はないから
どんなに近くに居ても
簡単に人は離れて行くから
「南風…仕事行って来るね」
「……ん…紫月……もう行くの?」
「うん。なるべく早く帰って来るから」
「行ってらっしゃ~い…ちゅっ」
「んっ…行って来ます」
紫月の居なくなったベッド
紫月の居なくなった部屋
紫月が……居ない世界
急に俺という存在の小ささを、思い知らされる
この部屋に俺だけ居るのは
全然似合わない
「今日は~?なんか、いいバイトあっかな~」
いつもの様に、その日行って出来るバイトを探す
そんなに体力がある訳でもなく
頭がいい訳でもなく
俺に出来るバイトなんて、限られている
「やっぱ、金稼ぐなら夜なんだけどな~」
自信を持てる容姿をしてる訳じゃないが
コミュニケーション能力は、そこそこあるし
なんてったって、まだ若いから
ホスト的なのが、金にはなるんだけど
「紫月と、真逆の生活時間になるしな~」
それに
そういう仕事してる奴が
この部屋に居るとか
紫月の隣に居るとか
益々似合わない気がする
「仕方ない…また、この辺かなぁ」
たいして稼げなくたって
紫月の家に転がりこんで、居候させてもらってんだから、少しでも稼がなきゃ
仕事は、めんどい
まだ、日雇いのバイトだから
分からない事あっても、失敗しても、大目に見てくれるけど
本格的に働いたら、責任やら、プレッシャーやら、ストレスやら、半端ないだろなぁ
世の中は、不平等で溢れている
見上げる程、高い建物に囲まれた世界で
ゴミ箱や、ベンチや、自販機の周りの地べたを
虫の様に、何か落ちてないか這いずり回る人間が居るのを、どれだけの人が知ってるだろうか
俺みたいな奴が生きてく為に、この世界が用意してくれてるものなんて
ほんの僅かなものだ
バイトを終えても、まだ薄暗い
早く、暗くなればいい
暗い世界は、少しは俺みたいな人間の味方だ
似た様な奴等が、何処からともなく集まって来る
ふらふらと歩いてると
徐々に、そんな感じの奴等が増えていく
知り合いじゃなくても
会話なんてしなくても
仲間が増えてくみたいな感じがする
「ユウトじゃん。久しぶり」
「おお。久しぶり」
「な…いい物やろうか。今流行っててさ」
「へぇ~?気持ち良くなれんの?」
「最高。で、めっちゃ安い!」
「ははっ。絶対ヤバいヤツじゃん」
「ヤバいから、いいんだろ」
「今日は、やめとく。またな~」
ここでの、俺の名前はユウト
ここで、こいつらに会うと、どこか安心する
いつでも、戻って来れる場所があるみたいな
それを確かめて、安心するみたいな…
いつまでも、分不相応な相手と居られる訳がない
終わりのある、束の間の幸せを与えられてるだけなんだから
げっ…
紫月の靴ある…
電気点いてる…
ガチャ
「お帰り、南風」
「ただいま…紫月…早かったんだな?」
「いつも、少しでも早く帰れる様に頑張って仕事してるからね。南風は?遅い時間にバイト入れたの?」
「そう…ちょっと遅くなっちゃった。今日のご飯何?いい匂~い」
なんか、気まずい
俺が、何処で何してたかなんて、バレる訳がないけど
普通にバイトしてたって、思ってるのに
あいつらのとこ行って、紫月より遅く帰って来たとか
「南風…もう夜は寒いよ。俺の物何でも着ていいから」
「こん位、全然大丈夫だよ」
「南風、いつも薄着なのに風邪引かないよね?」
「俺、暑さにも寒さにも強いもん」
「強くたって…寒いものは寒いよ」
「……うん…分かった」
紫月に、それ言われたら何も言えない
だって紫月は
凍えそうな俺を、あっためてくれた人だから
「んっ……ぁっ…んっ……紫月…胸…もっと……」
「胸…どうして欲しい?」
「噛んで…痛くして…」
「…いいよ」
「あっ!…いっ……もっと…」
あいつらと会った日は
何故だか、強い刺激が欲しくなる
あそこで得られる筈の刺激を、手離した反動なのか
それとも……
よく…分からない
「紫月……乗っかっていい?」
「いいよ」
「……~~っ…んっ……んっ…んっ……ぁっ…気持ちいっ……ぁっ…あっ!……~~っ…あっ!…ぐっ…あっ…ああっ!」
「…南風…っ……ちょっと…乱暴に…動き過ぎ…南風の中…心配だから…」
「ああっ!…もっと…もっと奥っ……ぅあっ!」
壊れる程に欲しくなる
いっそ、紫月に壊してもらえたらいいのに
そしたら…
なんか、幸せだって思える気がする
「あっ……紫月…ね……立って…後ろから突いて」
「……いいよ」
紫月は、優しい
多分、何か気付いてると思う
いつも以上に、狂った様に激しくして欲しい時
なんか、おかしいなって思ってる
或いは…引いてるかも
それでも、俺の求めるものをくれる
「ぁっ…あっ……んあっ!」
「南風…気持ちいい?」
「あっ!…もっと…もっと激しく!…奥まで……壊れる位にっ…」
「南風…っ…」
「ああ~~っ!」
壊れてしまえばいいのに
そうしたら、どんなに楽なんだろう
毎日何にも考えなくていい
永遠に解放された世界に行ける
少しの間、解放された世界に行ける方法はある
選り取り見取り、色んな方法で、色んな種類で
ほんの少しの間、頭を壊すんだ
セックスは…それに似てる気がする
「んっ…ぉっ…おっ……ぉああっ!…ああっ!…気持ちいっ…気持ちいっ!」
「奥っ…気持ちいっ?」
「気持ちいっ!……紫月っ……壊してっ……壊してっ…ああっ!……もっと…奥までっ…」
「っ……奥っ…南風の…ずっと奥ねっ……」
「んあっ!…あっ!……くっ……イクイクっ……ぅあっ!…あっもっ…くっ……ちゃ……~~~~~~っ!!」
この瞬間が好き
少しの間
この世界から、解き放たれる
紫月と一緒に
一瞬だけ、別の世界に行ける
何にも…考えられなくなる
「南風…お風呂…行こ?」
「……………ん」
紫月とセックスした後
俺達は、一緒に風呂に入って
そこでもよく、ふざけて笑い合う
だけど…
「南風…体洗うね?」
「……ん」
今日みたいな気持ちで、セックスした後
俺は、おかしくなる
魂が抜けたみたいに
何もしたくない、何も考えたくない
気付けば、瞬きするのも忘れてて
息は…忘れる訳ないか
「南風…おいで。一緒に入ろ?」
「……ん」
訳分かんない状態の俺を
紫月は、いつもと同じ様に
湯船の中で抱き締めてくれる
紫月に抱き締めてもらって、凄く嬉しいのに
目の前の紫月を、抱き締める気力すらない
どうなってんだろ…俺…
「南風…今日、寒かったでしょ。コートが嫌なら、今度あったかそうな上着見に行こ?」
「……ん……しづき…」
「大丈夫だよ。もう少し、このまま話してよ?南風が気に入りそうな上着は、どんなかなぁ…」
「……なんか…頭…おかしくて……ごめん」
「気持ち良くなり過ぎたかな?しばらくは、控えめにしなきゃだね?」
そう言って
いつもより、もっと優しく撫でてくれる
紫月の優しい指が
髪の中の頭の皮膚を、ゆっくり撫でて
そうしたら…
「~~~~っ…~~~~っ…」
「うん…大丈夫…大丈夫だよ」
なんでか知らないけど
泣けてきた
なんでだか知らないけど
いつも、こんなタイミングで俺は泣き始め
そうすると、さっきまで動かなかった手が動き始めて
紫月を抱き締められて
ようやく、目の前の紫月に焦点が合う
「~~っ…ごめんっ…紫月っ…ごめんっ…」
「大丈夫…なんか今日は、そんな日だったんだね」
「~~っ…紫月っ…~~っ…ごめんっ…」
「うん…大丈夫だよ」
何を謝ってんのかも、分からない
ちゃんと考えたら分かりそうだけど
今は、ちゃんと考えたくなくて
だから、きっと分からないままで…
だけど、とにかく
紫月の傍で安心したい
紫月に……なんか心配とか…かけたから
だから、とにかく謝って…
後は……後は……
何なんだろ……
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