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第35話

「替わって…ねぇ…替わって…」 他の人達は、出て来なくなったってのに しつこいな~…俺… 「ねぇ…お腹すいた…替わって…」 「やだ。お前は、俺なの。だから、替われないの」 「そっちがいい…ねぇ…替わって…」 そりゃ、そうだ 今が、人生で1番幸せなんだから そんで… この頃の俺は、人生で最悪な頃なんだから だけどさ… 「そっちがいいって、分かんないだろ?お前は、あの小さな世界しか知らなくて…だから、俺の幸せなんて、想像出来る筈ないだろ?」 「お腹…すいた……食べるもの…」 「っ…そうだな」 施設を出てからとは違う 与えられる物で、生きてくしかなくて 与えられなければ、どうする事も出来なくて もう、夢みたいにボンヤリとした記憶なのに とにかく、空腹だった事は覚えてる 「替わって?」 「お前が今、俺に替わっても、俺にはなれないんだ」 「…食べたい…いっぱい…」 「もう少しだ。もう少ししたら、ちゃんとご飯貰える様になる」 「…ほんと?」 「ほんと…それから、色んな世界を知って…自分が不幸なんだって知る」 「…やだよ…替わって…」 無知は最強とは、よく言ったもので 今だったら感じるであろう 寂しさや、虚しさみたいなものを あの頃は、さほど感じなかった そもそも満たされた事が、なかったから 満たされてる人を、知らなかったから 「お前にはね…これから、いっぱい辛い事が待ってる」 「やだよ…そんなのやだ…替わって…」 「やだよな…でも、今のお前じゃ、俺になっても意味がないんだ。だって、どんなに辛くたって笑えないだろ?どんなに悔しい事あったって、楽しく歌えないだろ?それじゃ、見付けてもらえないんだ」 「みつけてもらう?…だれに?」 「凄く…大切な人」 あの日、あの時間、あの場所に居たとして 不貞腐れて、うずくまってたら きっと、紫月は気付かなかった 歌ってなかったら、興味を持ってくれなかった 「いいな…替わって?」 「お前は、俺なんだ。時間は、結構かかるけど…ちゃんと今の俺になれるから。今の、幸せな俺に…絶対なれるから」 「…絶対?」 「絶対だ。だから、強くなれ…~~っ…辛い事…沢山あると思うけどっ…」 今だからこそ あの頃よりも、あの頃の自分が可哀想に思う それからも、まだまだ… 「でも、頑張るんだ…絶対、想像も出来なかった幸せ、待ってるから…お前は、ちゃんと俺になれるからっ…」 「いっぱい…お腹いっぱい…食べれる?」 「~~っ…ああ…大切な人と一緒に、いっぱい料理して、いっぱい食べるんだ…だから…もう大丈夫だな?」 「…わかった」 「~~っ…」 まだ…そんな小さいもんな これから、何が待ってるのか…分かんないもんな 「南風…大丈夫だよ。夢だよ」 あ… どうしても、最後に情を残してしまって… だけど、これは俺の造り出した俺だ 「この大切な人…ずっと先で待ってるから…~~っ……バイバイ…俺…」 そう言ったら 小さな俺が、消えてった そして、目を開くと… 「南風?」 「…紫月」 「南風……泣いてる」 これ…待ってるから そのままじゃ、ここには辿り着かないから もう少しと言うには遠いけど 頑張れ…小さかった俺…… 「いっただっきま~す!」 「いただきます。南風の作ったハンバーグ、色んな形してて、可愛いね」 「へへっ。俺は、ゾウさん行くぜ」 「じゃあ、俺は…熊さんにしよ」 お腹が空いたら、ご飯が食べれて 食べれる上に、こんなにも楽しい時間が過ごせて 幸せの、最上級だ 夕食を終えて、片付けて 一緒にお風呂に入って ソファーで寛いでると 「南風…ちょっと…いい?」 「何?」 紫月が、小さな紙袋を手に なんだか、かしこまった感じで隣に座った 「南風がね…生きててくれて、ほんとにほんとに嬉しかったからね…その…退院祝いって言うか…」 「え?…いいよ…そんな…紫月に、どんだけしてもらってると思ってんの?!」 「その…退院祝いでもあるけど…俺が…欲しくなっちゃって…」 「へ?」 俺の退院祝いだけど 紫月が欲しい物? それを、俺が貰ったらダメじゃない? 「こういうの…苦手だったら、無理しなくていいんだけど…」 「えっと…紫月が欲しい物なら、紫月が持ってた方がいいんじゃないの?」 「えっと……ちょっと…開けていい?」 「うん…」 よく分からん 俺へのプレゼントだけど 俺は苦手かもしんなくて 紫月の欲しい物で そんでもって、俺へのプレゼント、紫月が開け始めてるけど? なんか、ちょっと…背中向けてる感じだし… サッパリ分からん 「南風…」 「ん?」 「これ…なんだけど…」 「何?」 ちょっと不安そうに差し出した、紫月の手の上には… 2つのネックレスが乗っていた 「え?」 予想外過ぎる物体に 全く理解が追い付かない 「南風がね…生きててくれたけど…でも、離れてる間…連絡し合うだけじゃなくて…なんか、もっと…南風を近くに感じたくてね…」 それは… これは… いわゆる… 「南風…こういうの苦手?俺もね…今までは苦手だったから、気持ち分かるし…俺が勝手に買った物だから、無理して……南風?」 「これ……ネックレス…」 「うん…一応ペアネックレスなんだ。中だけ違うけど…」 シルバーの丸の中に 1つは太陽のモチーフ 1つは月のモチーフのデザインが それぞれ、はめ込まれている 「太陽と…月?」 「うん…俺は名前に月が入ってるし…なんとなく、南風は…太陽って感じがしてね……どう…かな…」 どうかなって… こんなの… 「こんなのっ…俺が貰っていいの?」 「南風じゃなきゃ、意味がないよ。でも、南風…こういうの苦手じゃない?」 「~~っ…苦手な訳あるかっ…紫月とペアのっ…~~っ…すっげぇ嬉しいに、決まってんじゃんっ…」 「そっか…良かった」 嬉しそうに笑った紫月が 月のネックレスを、俺の首にかけてくれる 「ありがと…紫月…いつも一緒…」 「うん。一応、俺の名前も入ってるよ」 「え?」 よく見ると 丸く縁取ってるシルバーの横に 筆記体で紫月の名前が、彫ってある 「~~っ…すっげぇ…嬉しい…」 「南風…俺にも付けてくれる?」 「うん」  紫月の首に、太陽のネックレスをかける 紫月の物には、筆記体で俺の名前… 「ふっ…南風…いつも一緒」 「ん…紫月、いつの間に買ってたの?」 「南風が入院中」 「えっ?!そんな早く?!」 「だって…寂しかったし…秋月に相談したら、いくつかお店紹介してくれて…」 「え…俺とのペアネックレスって、相談したの?」 「そうだよ?」 何か?みたいな顔してるけど いいのか?職場の同期に… って、もうバレてるから、いいのか 「なんか…言われなかった?」 「いっぱい言われた。散々からかわれた」 「ゔっ…ごめん…」 「南風が謝る必要ないよ。俺がしたくてした事なんだから…でも、南風が喜んでくれて良かった」 「当たり前だろ?けど、これ…すっげぇ高級品とかじゃないよな?」 「全然だよ」 紫月の全然が、どんなかは知らないけど この、使われてる宝石っぽいのは、イミテーションで合ってる? 「あんまり高級な物だと、普段使うの、緊張するからさ」 「ほんとに、全然。家賃くらいだから、気にしないで」 「………は?」 「家賃くらい。給料何ヵ月分とかじゃないから、全然大丈夫」 大丈夫……とは? 家賃って… この高級っぽいマンションの、こんな上層階の家賃って…一体いくらだよ?! 「それっ…全然大丈夫じゃないだろが!」 「え?」 「え?…じゃなくて!そんな、思い付いて買っちゃう値段じゃないだろ!そんな…ただでさえ俺…家賃だって払ってないのに…」 「……ごめん…南風に相談してからにすれば良かった…」 あ… せっかく、2人して喜んでたのに 紫月の気持ち…迷惑な訳じゃないのに… 「紫月…ごめん……迷惑だった訳じゃないよ」 すっかりシュンとしてしまった紫月を、抱き寄せる 「でも…南風に、そんな風に感じさせるなら…南風と一緒に選べば良かった」 「俺には、未知過ぎるから…ここの家賃もきっと…聞いたら、目玉飛び出ると思うから…全部、紫月に与えられて…その上って、思っちゃったんだ。嬉しくない訳じゃない。これも…紫月の気持ちも、凄く嬉しいのは、ほんとだよ」 「ほんと?南風…さっきみたいに感じても…嬉しいって思う?」 紫月が体を離して 必死な顔して、俺を見る 「ほんと。凄く凄く、嬉しい…でも、いつまでも紫月に与えられるばかりで、いたくないんだ」 「南風…」 「紫月とね…この先も、一緒にって思い始めた頃から…考えてる事があるんだ」 「考えてる事…」 紫月が居るから 紫月との未来…信じてみようって、思うから 「俺…美容師の専門学校…行ってみようかなって思ってる」 「…南風」 「分かってる。ちょっと、紫月に髪洗うの気持ちいいって、言われたからって…そんな簡単なもんじゃないって……大学に比べたら、全然だろうけど、金だってかかるし…けど…この先も、ずっと紫月と一緒なら…折半は出来なくても…俺の出来る範囲だけでも…完全に依存し続けたくないんだ」 紫月は、ほんとに気にしないかもしれない だけど、俺は気になる どこかに必ず、世話になってるって意識があって それは…何かの歪みに繋がるかもしれない 「出来るかどうかは分からないけど…」 「南風!」 「っ…何?」 「~~っ…南風っ!…~~っ…嬉しいっ…」 「え?」 「南風がっ…俺との未来っ…真剣に考えてくれてっ…嬉しいよっ…」 「うん…紫月が、いつでも真っ直ぐに、俺に気持ち伝えてくれるから…だから、やってみようって思えた。紫月のお陰だよ」 「南風っ…南風~~っ…」 「ははっ。甘えっ子紫月だな?ヨシヨシ」 抱き付いてきた、この男は ハイスペック過ぎて、超えるどころか、一生かけたって、並ぶ事も無理なんだろうけど 「南風…」 「ん?……ふっ…キスして欲しいの?」 「ん……んっ…んっんっ…」 何故だか、紫月の中でだけ この俺が、結構凄いヤツだって認識されてるみたいだから 「紫月…好きだよ…」 「~~っ…俺もっ…南風…好きっ…」 他人が見たら、全然全く、つり合いなんて取れる訳ないんだけど 他人は、関係ないから 紫月の中の、結構凄い俺を、増やしてくしかない 「えっと……そこで…何してるの?」 声を掛けてくれたのは、紫月 「……俺が…ほんとに口説いたら……南風…一緒に居てくれる?」 この関係を始めてくれたのも、紫月 こんなテキトーな俺… ほんとに真剣に、好きになってくれた 沢山沢山貰った 一生かけても返せないから せめて、一生真剣に愛するから 「紫月…愛してる」 「っ?!……~~っ…俺もっ…愛してるっ…南風…愛してるっ…」 「うん…愛してる…愛してるよ…紫月」 俺の紫月との一生は、まだ始まったばかり これからも、きっと色んな事ある それでも…この幸せな奇跡への感謝を忘れない様に この胸にある、月に誓う 一生… 俺の一生をかけて、愛するよ…紫月                    終

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