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1 キコニア慈愛院【1】

 赤ん坊が生まれると、産婆はまず口とうなじを確認する。  何もなければベータ、普通の子供だ。  生まれながらに牙がある子供はアルファ、才に恵まれた特別な子供。  うなじを覆う白い産毛がある赤ん坊はオメガ、神の子供として扱われる。  教会が運営するオメガ棄児院『キコニア慈愛院』は、街一番の聖歌隊でもあった。  聖堂でオルガンのおごそかな音が響く。ステンドグラスの七色の光を浴びながら、若草色のガウンを着た青少年が祈り歌っていた。それぞれ髪の色も瞳の色も違うが、全員のうなじにオメガの証である白い産毛がある。  礼拝者たちはうっとりと聴き入っていた。ここ数年は聖歌隊の評判が広がり、会衆席は常に満席だ。  祭壇横の椅子に座るパード司祭も、会衆席の後ろから立ち見をする慈愛院のマム院長も、育てた子供たちの出来栄えに満足気な顔をしている。  聖歌隊の前列中央、十七歳のユルはソプラノ担当で、最も人気のある歌い手だ。透き通る柔らかい歌声や、レモン色のふわふわとした髪、春芽と同じ色のあどけない瞳が大衆の心を惹きつけて離さない。  最後の小節を過ぎるとオルガンも止み、余韻に満ちた静寂が教会を包む。  歌い終えたユルは喜びで胸がいっぱいだった。歌うのが何より好きだからだ。  生後間も無く慈愛院の門扉前に棄てられたことはつらいが、棄てられた先がここで幸運だと思っている。歌に出会わない人生など考えられない。ずっと歌っていられたらと毎夜祈るほど。  だから余計に、午後の《お披露目》が嫌いだった。  ユルたちキコニア聖歌隊は、毎週水曜日の午前に教会礼拝で歌声を披露し、午後はお披露目と称して貴族と見合いをする。  太陽が真上に登るころ、キコニア慈愛院の応接間ではパード司祭と貴族たちが贅沢な食事に舌鼓を打っていた。  食卓の前方にはスペースが設けられ、第一グループの十八歳から二十歳までのオメガが一列に並ぶ。 「従順で、体力もあり、の子たちです。いかがでしょう、右端の子などは珍しい左右違いの瞳の色をしていて──」  パード司祭はオメガを積極的に貴族へ売り込む。教会の運営が貴族の寄付で成り立っているからだ。  貴族は《お披露目》で気に入ったオメガを寄付金と引き換えに連れ帰る。そのオメガが慈愛院に戻ることはない。 「歌以外にできることは?」  貴族の一人がたずねると、控え立っていたマム院長が答える。 「楽器、朗読、チェスのお相手、必要であれば家事もいたします。ただ、夜のことは教えていませんから、お好みのように」  マムはキコニア慈愛院を代表する中年の男オメガだ。白い頭巾(ウィンプル)で頭髪を隠し、眼鏡をかけている。首から提げた紐の先には鍵があり、子供たちの貞操帯を解くためのものだった。彼は養父であり、先生であり、絶対的な管理者である。 「右から二番目の子に触れても?」 「どうぞ」  数人のオメガが指名され、第一グループのお披露目が終わる。  交代するように第二グループが入室した。十五歳から十七歳までのオメガたちだ。  饒舌なパード司祭による子供たちの紹介を遮り、貴族の一人が痺れを切らして言う。 「中央で歌っていた子はいないのか?」 「ユルですか? あの子もこのグループに……おや? カサエラ、ユルはどこだ?」  横並びのオメガの中で名指しされたカサエラは、気まずそうに頬を掻いた。 「ユルはお腹が痛いと言って、休んでいます」  司祭は大きくため息をついた。 「……またか」

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