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第二十一話  愛して下さい

「トオルさん、本当にごめんなさい。 実は俺、今テンパってます!」 そう宣言すると突然、紗生はへなへなと膝から崩れ落ちた。 その様子は耳をペタンと伏せて、うな垂れている大型犬のようだとトオルは思った。 顎のラインを伝って滴り落ちる汗を、手の甲で拭う横顔は、いつものスマートな彼からは想像もつかないほど余裕がなかった。 そのあまりの取り乱しっぷりに、トオルは濡れたまつ毛を瞬かせた。 「あの……紗生くん?」 「格好つけてました。トオルさんの前で、いい男でいたくて、必死で余裕ぶってました……! 本当に、その……いきなりこんな、野蛮な真似をしてすみません……っ」 大きな身体を小さく丸めて、両手をついて土下座をしかねない勢いで猛省する年下の恋人。トオルは、彼がただの不器用な青年なのだと気づいた。 その瞬間、トオルの限界まで引き絞られていた心の弦が、ふっと緩むのを感じた。 (あ、同じだったんだ……。 紗生くんも。 僕と同じくらい、張り裂けそうにドキドキしてくれてたんだ) トオルの胸に温かい気持ちが流れ込んで来た。 「ふふ……っ、あはは!」 「えっ、トオルさん!?」 トオルはベッドの上で上体を起こすと、まだ顔に紗生の白濁した液を残したまま、お腹を抱えて笑っている。 「紗生くんでも、緊張するんだね。ずっと無表情で、凄く冷たい目で僕のこと見下ろすから……僕、本当はちょっと不安だったんだよ?」 「理性保つのに必死で!一瞬でも表情崩したらその場でトオルさんをめちゃくちゃに壊しちゃいそうだったから、怒ったような顔になってたのかも知れません」 「もう、極端だなぁ……」 トオルは呆れたよう笑って、グシャグシャになった顔を自分の手で少し拭った。 それを見た紗生は慌ててベッドサイドの箱からティッシュを引き抜くと、トオルの頬を優しく撫でた。 まつ毛の先に絡みついた白い液を、長く繊細な指が一滴残らず拭い去っていく。その真剣な目はトオルに首ったけのただの年下の男の子のものだった。 紗生はふと、トオルの下半身に目を留めた。 トオルは下着すら穿いていない完全な全裸だ。そして、紗生の執拗な愛撫と、顔にぶちまけられた衝撃の余韻で、トオル自身のペニスからも、無自覚な透明の蜜がポタポタと滴り落ちていた。 (トオルさん。まだ出せてない…) (俺だけが気持ちよくなって、トオルさんは置き去りだ。……今度は俺が、トオルさんを気持ちよくしてあげなきゃ) 紗生に恋人を甘やかしたい純粋な奉仕の心が満ちていく。紗生はトオルの華奢な身体を抱き寄せると、布団をふわりと引き上げて二人の身体を包み込んだ。 「トオルさん。……今度は、俺がトオルさんの、出しますね」 紗生は優しく微笑み、布団の中でトオルのペニスにそっと温かい手を伸ばした。 「や…」 トオルは咄嗟に自分のペニスを両手で覆い隠した。 紗生は躊躇なくその上から、トオルの手ごとペニスを大きな掌で包みこみ、力強く握りしめた。 「ひゃっ…ダメ……恥ずかしいよ。 シーツも汚しちゃうかも…だし…」 トオルは顔を真っ赤にして、自分のペニスを隠すように紗生の手を挟んだまま両腿をきつく閉じた。 「シーツなんて後で俺が何度でも洗います。そんなこと気にしないで、俺の手の中でイってください。」 紗生はトオルの足の間で、彼の掴む手にそっと自分の手を重ね、指を絡めながら、トオルの昂りに指の腹でじっくりと熱を擦りつけるように、輪郭をなぞった。 「まぁ、気持ちは分かります。俺も、トオルさんの部屋の洗い立てのシーツに、イケナイ染みを作るかと思うと…、興奮します」 「何言ってんの…っ、紗生くんっ?」 「どんなトオルさんも、全部見せて。俺を愛して下さい」 「あ……、んっ……」 紗生はトオルの華奢な頸に白い歯を押しつけ、舌を這わせて、啄んだ。 「トオルさん、足開いて…もっと」 トオルは紗生の低い声で囁かれ、逆らう術を失っていく。彼の壁のように厚い胸板に自分の薄い背中を預けると、促されるまま、無防備に腿の力を抜いた。 「そう。上手」 「はずか……っ、あ」 すかさず、紗生の腕がトオルの脚を割り拡げる。 「手、どけて下さい」 トオルの最後の抵抗さえも、彼の指示一つであえなく崩れ去る。トオルは震える手を、純白のシーツの上へと力なく滑り落とした。 「ぁ、は、紗生くん……っ」 背後からぴったりと密着する紗生の逞しい胸の、心地よい高い熱が伝わってくる。 肩ごしに紗生に勃ち上がらせられた前を覗き込まれて、耳元に何度も甘い言葉を囁かれる。 「トオルさん、可愛い」 トオルの頭は白くとろけて、紗生の綺麗な手の愛撫に身を委ねていった 「あ、……あ、……紗生くん、……っ!」 トオルは多幸感のなかで、ついに限界を迎えた。 布団のなかで、熱い塊が紗生の手のひらへと溢れ出す。出し切ったトオルは、心地よい疲労を感じ、紗生の硬い腕の中に抱きとめられていた。 やがて、静まり返った部屋の中に、紗生の小さな声が響いた。 「トオルさん」 「ん……?」 「俺はこれから、トオルさんの普通の幸せを奪うことになると思います。………それでも」 紗生は声を震わせ、トオルの前に、自分の人生を懸けた重い覚悟を差し出した。 「それでも、俺に付き合って下さい!」 「奪うだなんて、人聞きが悪いなぁ。 紗生くんを全部、僕にくれるんでしょ?」 トオルは苦しげに歯を喰いしばる紗生の顔をじっと見つめた。 その瞳は、夜の闇の中でも不思議なほど澄み渡り、紗生の悲痛な決意を真正面から受け止める強い光を宿していた。 「分かった。僕が紗生くんを一生独りにしないよ。頑張って長生きするね」 トオルは、己が心のまま、一瞬で決断を下した。 張り詰めていた紗生の肩が、今度こそ本当に堰を切ったように崩れ落ちた。

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