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第29話 許される触れ合い

ティグルも伏竜と同じく、怒りに燃えていた。 八重歯を噛みしめ、グルル……と野獣のような唸り声を上げている。 「モーシン、玄武門派にも朱雀門派にも渡さなイ! フーロンと番になったなら、フーロンも白虎門派が匿ウ! モーシンごと守ル!」 四門派の実力者同士が対峙し合う。 伏竜は剣を、ティグルが銃を構え、鳳雛と冥も術を使おうと身構える。 殺し合いが勃発すると感じたオレは、傷の痛みでフラフラしながら皆の中央に飛び出して行った。 「や、やめろよ! 伏竜もティグルもごめん! オレが決めたことなんだ! それに冥、早く伏竜の記憶を奪った奴の居所と、ねえちゃんの居場所を教えろよ! 対価だろ!」 場の空気が、少しだけ落ち着く。 ふらつくオレを伏竜が支えた。 でも、胸の焼き印を見た伏竜は悲し気に眉を寄せていて、それがオレの心に深く突き刺さった。 伏竜なら『絶対するな』って言うだろうことをオレは黙ってやってしまったんだ……。 その罪悪感は、焼き印の痛みより激しくオレの胸を灼く。 「ごめん……ごめん、伏竜……オレ……」 「……馬鹿野郎……ッ!」 謝るオレを伏竜が抱きしめる。 そこで構えを解いた冥が告げた。 「伏竜の記憶の所持者も、人魚の姉君の居所も、同じなのです。仲間面して、裏切りを重ねた危険人物は、海辺の廃工場に居を構えているのです」 ◆◆◆ こうしてオレ達は冥の手配したタテに長い車に乗って、早速その工場へ向かうこととなった。 何故か冥も『商売になりそうなので、ウチもついていくのです』と、ついてきたけど。 車の中で、オレは隣りに座ってる伏竜の目を見れなかった。 勝手なことして怒ってるって思ったから……。 でも、窓の外を見ていた伏竜はオレの視線に気がつくと、ばつが悪そうに目を逸らした。 「すまねぇ……墨星を守るつもりが、墨星に守られてちゃ世話ねぇよな」 「そんな……」 そんなことないんだって、オレの勝手なんだって告げたくて、伏竜にキスを……しようとしたら、前の席の冥から『ふぁいる』っていうもので阻止された。オレのキスはファイルに奪われる。 「何すんだよ!」 オレが怒っても、冥は抑揚のない声で返す。 「契約違反なのです。貴方は玄武門派の奴隷。勝手に誰彼構わず交尾されては困るのです」 「交尾!? こんなトコで交尾までしないだろ! きっ、ききキスしようとしただけで!」 それにオレの隣りに座っていたティグルが唸る。 「モーシン、奴隷じゃなイ! ワタシ、ミンのコト、嫌いダ!」 「好き嫌いは金にならないので、ウチはどうでもいいのです」 ティグルと冥がガウガウやってる間に、冥の隣りの鳳雛が前方を指さした。 「見たまえ。そろそろ目的地だ」 目的の場所は、鉄で出来たパイプ? っていうのがいっぱい連なっていて、錆びた臭いに満ちていた。辺りは雑草がボウボウに茂ってる。 暗くて、中に入ろうとするハシゴはギシギシ軋んで、ちょっと怖い。 オレの胸の焼きゴテの傷は鳳雛が術で痛みを和らげてくれたけど、時折ズキッと痛んだ。 すると先を歩いていた伏竜が手を差し伸べる。 「ほら、掴まりな。泣き虫小僧」 「まだ泣いてないって!」 そんな憎まれ口を叩いていたけど、オレも伏竜もわかってた。 これが終わったら、伏竜とはお別れなんだって。 オレを買い戻すには、それ相応の対価が必要で、伏竜には用意できないだろうって冥が言ってた。 だから、今許されるだけの触れ合いをしていた。 伏竜の手は少し温かくて、硬い。それが切なかった。 もう、この手に抱かれることはないんだ……と思うと、離したくなかった。 しかし、それすら許さないと言わんばかりに、前方を人が取り囲む。 「伏竜! 仲間殺しの裏切者!」 「破門されてまで逆らうか!」 「殺せ! 殺せ! 殺せー!」 青龍門派の奴らだった! なんでここまで来てるんだよ!  オレが叫ぶと、冥が「裏切者がいるからです」と、屈みこむなり、輝く陣を敷いた。 「ウチの特別サービスなのです。この陣の中に入れば、普段の力の2倍の攻撃力が出ます。伏竜と人魚は、先に行くのです」 「ど、どうして……」 オレが問いかけると、鳳雛が術の構えをとり、ティグルが双銃を取り出す。 「鳳雛も後から追いかけよう」 「モーシン! 気をつけて行ってくレ!」 そう言って皆が道を開いてくれたお陰で、オレと伏竜は先へ進めた。 この先で待ってる奴、オレ達が来るのを知ってたんだ! だから青龍門派の奴らを呼び寄せたんだな! カンカンと靴音をたてて施設内を登っていく。 怖いはずなのに、不思議とオレの手を引いて走る伏竜のお陰で、恐怖は無かった。 そうして、最上階まで到達した。 そこに居たのは……。

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