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第30話 裏切者

「ね え ち ゃ ん!」 ねえちゃんが、ガラスで出来た水槽の中に目を閉じて浮かんでた! でも、ねえちゃんの胸から下は骨だけしかなくて……! そんな姿で、ゆらゆら浮いていたのだ。 その状態でも生きているのか、時折ピクピク動いている。 その姿が、あまりにも惨すぎて、オレは見ていられなかった。 「ね……ねえちゃん! ねえちゃあぁあん!」 オレが泣きながら走り寄ろうとすると、伏竜が止める。 その手をオレは振りほどこうとした。でも……。 「は、離してくれよ! 伏竜! ねえちゃんが! ねえちゃんが!」 「落ち着け墨星! 水槽の裏に人が居る!」 伏竜の言葉通り、水槽の裏から男が姿を現した。 コッ、コッ、と足音を立てて。 「まったく、足止めも出来ないか。使えない下郎どもだ」 そこに立っていたのは――青龍門派の老大のおっちゃんだった。 「老大!」 伏竜が叫んだ! 記憶が戻ったのか! それを聞いた老大は首を振った。 「やれやれ……船で刺した時に『大切なものから忘れる』捜魂をかけたのに、私を見てアッサリと思いだしたか。お前の忠誠心も、たかが知れたものだな、伏竜」 伏竜を後ろから刺して海に落としたの、こいつだったのかよ! 伏竜は沈む船の上で、必死に老大を捜していた。 伏竜が信頼して、忠誠を尽くしてたのに、こいつ……! オレがいきり立つも、伏竜は落ち着いていた。 「そうじゃねぇ! 墨星の犠牲があったからだ! それと、アンタ、人魚を使って何してやがる!」 伏竜はオレのことは忘れたままみたいだ。 でも、大切なものほど思いだせないってことは……。 と考えていると、伏竜の問いかけに老大は両手を仰々しく上げた。 「最愛の妻、|美花《メイホア》を蘇らせる為だ!」 老大が水槽の奥にあったカーテンを引く。 そのベッドには、横たわる女性の遺骸があった。 どうして死んでるかわかったかと言うと、女性は胸から上が白骨化していたからだ。 つぎはぎだらけの死体に、オレは瞬時に事態を察して怒鳴った。 「お前! ねえちゃんの体をそいつに使ったな! ねえちゃんの体を返せよ!」 しかし老大は声を上げて笑う。 「ハハハハハハ! この体はもう、美花のものだ! ああ、そうそうお前の姉は実に愚かだったよ! 自ら私に近づいてきたのだからね!」 老大が言うには、奥さんを亡くして入水しようとした時、ねえちゃんに出逢ったらしい。 ねえちゃんはそれで、こいつに捕まったんだ! 「ねえちゃ……ん……」 もうこれだけ肉も皮も剥がされたねえちゃんじゃ、海に戻れない。 泳ぐ為の尾が、二本の骨の足になっていたからだ。尾びれも背びれも無い……。 「ねえちゃん! ねえちゃああん!」 涙を流すオレの肩を伏竜が抱いた。 その胸にオレはしがみつく。 それを見た老大は嗤った。 「伏竜、お前も双修に人魚を使ったか! 確かに霊力が上がっているな!」 「使ってねぇ! 俺は墨星を愛してる!」 「愛! ふははははははは! 人外相手に愛! 笑わせてくれる!」 そこで門弟達を片付けたらしい、鳳雛達が駆けつけた。 「墨星!」 「モーシン、フーロンも無事カ?」 「傷とかつけないでくださいね。ウチの売り物ですから」 皆を前に老大は演説するみたいに語る。 「薄汚い門徒どもが! 一昔前の四門派の争いで、美花は貴様らに犯され、殺された! だから潰し合うように仕向けたというのに協力し合うとはな! 愚か者どもが!」 そこで鳳雛らが応じた。 「その頃に鳳雛は、まだ老大になっていないのだよ」 「ティグルもダ」 「冥もです。そもそも女性に乱暴なんてしませんです。売り物ですから」 そこで伏竜が剣を出すと、老大に向けた。 「もういい。アンタのことは尊敬してたが、今、軽蔑と憐みに変わった。死んでもらう!」 「伏竜! 私の右腕面をして、裏切った愚か者! 船でどうして、禁忌の料理を食べた! 毒さえ食べていれば、霊力を使えずに鮫のエサになっていたものを!」 「食ってねぇよ! オレは今の今まで、アンタの忠実な部下だった!」 それでオレは思い当たることがあった。 月餅だ! 修仙者は食べちゃダメって言われてた月餅……。 オレが水槽の中で月餅をボロボロこぼして食べてた水――それを伏竜にぶっかけてた! あの水を伏竜は飲んだから、毒が解除されてたんだ……。 部下ごと船を沈め、それを四門派の所為にして、潰し合いをさせようとしていたらしい老大。 「まさか四門派で協力して私に歯向かうとはな! 伏竜! どこまでも忌々しい男だ!」 「うるせぇ! とっとと、そのおしゃべりな口を閉ざせ! 俺にこれ以上、あんたを軽蔑させるんじゃねぇ!」 皆が構えるが、伏竜は「俺が殺る!」と剣を構える。 老大も剣を手の平から召喚すると、伏竜に向けた!

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