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第41話 番外編・冥とティグル
冥は辟易していた。
「モーシン……モーシン!」
目の前で大きな体を縮めて泣く男・ティグルに付き合わされているからだ。
うっかりビジネスの話を持ち掛けて話しかけたら、墨星への愛と悲しみを叫ばれ続けている。(ちなみに中央区のカフェ)
墨星は伏竜の番となり、毎日毎晩のように愛し合っているという。
それはもう見ている側が蕩けそうな程にお互いデレデレで、伏竜は墨星が他の誰かと会話しているだけで睨む程に溺愛しているとかなんとか。
ティグルの話を雑に聞いてみると、人魚の人外な美貌に一目惚れしたティグルだったが、傍にいる内に墨星の純粋で優しい性格に惚れ直したらしい。(冥にはアホの子にしか思えなかったが)
『嫁にするなら墨星しかいない!』とティグルは考えたとか。
それ以前に、どっちも男なのだが。
散々、泣き言を聞かされた冥は、鞄から分厚いカタログを取り出すと、ティグルに見せる。
「そんなに好きなら、ウチで扱ってる媚薬でも売りましょうか? どんな相手でも一目見た瞬間に恋に落ちる幻の秘薬です。勿論、対価は頂きますですが。これであの人魚も貴方の番になるでしょう」
しかしティグルはキッと冥を睨んだ。
「ミンは分かっていない! モーシンが幸せでなければ意味がなイ! モーシン、フーロンの元に居るのが一番幸セ! ソレがわかっているから、ワタシ、辛イ! モーシン! モーシン!!」
わっ! と泣きだした。
めんどくさっっ!! と冥は言いかけたが、確かに伏竜の記憶の為に玄武門派の奴隷になろうとするなど、普通の神経では無理だろう。
誰に売られるかも、あの廃工場での輪姦のように扱われるかもしれないのに。
なお、今も墨星の胸には焼き印を剥がした傷がある。
その所為で伏竜に今も恨まれているのは、少々解せないが。
そもそも自分達はボランティア団体ではない。武闘商人集団なのだ。
対価を受け取らずして、秘薬や情報を渡せるわけがない。
だから墨星に『傷跡を消す薬』の話を持ち掛けた。
だが、あの青年は笑って断ったのだ。
『いいんだ。これは、ねえちゃんが消してくれたものだし。それに胸の傷、伏竜とお揃いになるだろ?』
伏竜の胸には王老大から刺された刀傷があった。
傷は傷だ。誰だって消したいはずなのに――そう思う冥には、一生理解できない感覚なのかもしれないが。
そうしていると、カランカランと入店のベルが鳴る。
何となく視線を向けると、伏竜と墨星がカフェに入ってきていたのだ。鉢合わせした。
墨星は伏竜の腕にべったりくっついていたが、こちらを見るなり飛んでくる。
「ティグル! 冥も! 珍しいな~。二人でお茶してんだ?」
「してないのです。ウチはティグルの愚痴に付き合わされてただけなのです」
嫌そうに教えるも、ティグルはいつの間にか涙を拭ってキリッとしている。
そんなティグルを墨星が覗き込んだ。
「愚痴? ティグル、哀しいこととかあったら言えよ~!」
「モーシン……」
「オレ達、親友じゃん!」
墨星のトドメの一言にティグルがガックリし……と思いきや、立ち上がると墨星に抱きついた。
「わーっ!」
驚く墨星をティグルはギュウギュウに抱きしめる。そして叫ぶ。
「モーシン! やっぱり、好きダ! ケッコンしたイ!」
その様に伏竜が墨星とティグルを引き剥がし、墨星を抱きしめる。
「手前! 俺の墨星に何しやがる!」
「モーシンは誰のモノでもない! モーシンのモノダ!」
ぎゃんぎゃん騒ぐ二人に墨星が「止めろよ~! お店の人に迷惑だろ!」と止めている。
が、周囲は青龍門派と白虎門派の老大のケンカに興味津々だったり、墨星の美貌に見惚れている。
とりあえず冥は他人のふりをしようと思ったが、ふと思いつく。
「それなら、一日だけ一人の人間を二人にする薬があるのです」
「寄越せ」
真っ先に喰いついたのは、意外にも伏竜だった。
それを見た墨星は抗議する。
「なんだよ伏竜! オレを二人にして、貸し出すつもりか!?」
しかし、そこで伏竜が墨星の頬にキスをした。そして囁く。
「……馬鹿。俺が二人になれば、墨星の上の口も下の口も満足させてやれるだろ」
途端に墨星の顔が真っ赤になり、頭からボンッと湯気が出た。
「ふっ、伏竜! ば、ばかばかばか! 何言ってんだよ!」
墨星が伏竜の胸板を叩く。
その腕を絡めとられた墨星は伏竜から深いキスをされた。
「ん……っ」
ビクビクと震える墨星。その煽情的な姿に店内がピンク色になった気がするが、冥はまた嘆くティグルの愚痴を聞かされるのだろうなと、灰色の気持ちになったとかなんとか。
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