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(序)緑の国フロリナ王国国政官マスクス=ザナッシュの心境

 砂漠の王国フッサールの第六王子アスラン殿下を娶ると我が主人たるハスラーム殿下が云い出したのは、アスラン殿下が成人した月の翌月のことだった。  アスラン殿下とハスラーム殿下の交流の歴史は長い。  何せ、フッサール王国で採掘される石油は我が国では貴重な資源エネルギーであったし、我が国が生産している小麦はフッサール王国では貴重な穀物である。両国の結びつきをより強くしたいと国王同士が望むのもむべなるかな。その結果、高頻度で王子たちが互いの国を訪問するようになったという訳だ。  ハスラーム殿下も例に洩れず、親睦を深める為に、幼少のみぎりより度々フッサール王国を訪れている。その際に殿下が見初めたのが三歳年下のアスラン殿下だ。何でも花の棘で手を痛めたところをお優しくも手当てしてくださったのだという。アスラン殿下の優しさにすっかり心を奪われてしまったハスラーム殿下は、以降十数年間に渡って、こまめに書状などを遣わしてはアスラン殿下との縁を育ててきた。  フロリナ王国の次期国王であるハスラーム殿下の臣下としては、どうせならフッサール王国の十を下らない王女たちのいずかれを見初めて欲しかったところではあるが、それも難しいと感じられるほどにアスラン殿下は可憐な方だった。  稚い赤子のようにあどけない琥珀色の瞳に、燃えるような赤い口唇。艶やかな黒髪に彩られている面差しは、アスラン殿下の年齢を三つほど幼く感じさせた。ましてやあのほっそりとした容姿! 見るものにたおやかな印象を与えずるアスラン殿下に、ハスラーム殿下が心を惹かれるのも無理はない。  寛容にも我が国は同性を娶ることに積極的だ。そもそも国王陛下からして、王妃の他に六人の女性側室と三人の男性側室を有しているぐらいである。そうした環境で育ったハスラーム殿下が、どうしてアスラン殿下を想わずにいられないものか。ハスラームの殿下の一途な気持ちは、王妃より受け継いだものであるというのに。  フッサール王国に負けず劣らず子沢山な我が国である。いざとなれば殿下の弟妹たちの子どもを養子にするという手もある。何よりフッサール王国と婚姻関係を結べば、今は制限がかかっている石油の輸入量も融通が利くようになるだろう。資源エネルギーの獲得に積極的な国王陛下も乗り気である以上、私ごときが反意を唱えられる筈もない。  我が国ではハスラーム殿下の恋心は歓迎されるものであるのだ。  とはいえ、アスラン殿下の意向もある。  成人されるまで婚約が決まらなかったお方だ。既にお心にお決めになられた方がおられるのではないか? ハスラーム殿下の気掛かりはそこにあった。アスラン殿下のお心が自分に向かないものを、無理に婚姻関係に持ち込みたくない。そう殿下に気持ちを打ち明けられた私は、だからこそ殿下の為にと自らフッサール王国に足を運ぶこととした。  表向きは両国の輸出入品目の調整ということになっているが、実際はアスラン殿下の身辺調査である。恐らくは、おっとりとした方であるから、単純にそうした方面に意識が向かなかっただけであろうと思われるが、万が一ということもある。ハスラーム殿下の将来の為にも、ここは正確な情報を調べ上げなければなるまい。私は決意を胸に、フッサール王国へと赴いた。

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