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狼耳ダウナー美少年のツンデレがひどいのでわからせる話
プロローグ
「うー……郁のばか」
もう何度かわからない悪口 である。
望月は幼い頬をむーっと膨らませて、この場にはいない家主への文句を募らせた。
郁というのは、黒狼を眷属にした亜人種の少年である。
とある出来事を経て、現在は、望月を保護しているわけなのだが……。
「郁ってば過保護すぎない?」
元々の発端はこうだ――(元々、郁は望月が頻繁に外出をすることをあまり好まないのだが)この前、通りでメスと間違えられて輩に襲われそうになったところで、郁が助けに来てくれてことなきを得た。
そう、郁は強い。
望月はうさぎを眷属とする。
亜人種の中では戦闘力を持たないし、いかんせん、郁に守ってもらうことが多い。
そのときも郁はあっさりと絡んできた輩を倒した後で、じとっとこちらを見た。
「……お前、今月で何回目だ?」
郁の言葉数が少ないのは彼の性格がよく反映されている。
「うーん、記憶にないかなあ」
「……8回目だろう。お前は、弱いんだから少しは危機意識を覚えて外出のときは警戒しないと」
自分から聞いた癖に細かいことは覚えているのだ。
郁は、神経質そうに髪を弄った。
「でも、僕がもしも、他の亜人種に襲われても郁が助けてくれるでしょう? さっきは、ありがとう」
彼が先に歩いてしまったので、となりを歩いてそう言う。
望月の言葉を聞いた途端、郁が足を止めた。
そして、いつもならば表情に乏しい美貌を――なぜか、怒らせていた。
「次は助けない」
そして、また歩き出す。
「……どうせ、僕のことを放っておけないでしょう」
「うるさい」
その後、郁の機嫌がすっかり悪くなってしまった。
それから、家に帰ると――郁は宣言した。
「外出禁止」
今は、終末世界――とうに文明は崩壊した。
そのうえで種族は違えど、郁と望月は身をよせあって(厳密には郁が望月を保護しているが正しい)生きている。
「一緒に暮らしているんだから、もう少し仲良くしたっていいじゃん! 郁のばか! あっ……」
目が合ってしまった。
盛大に罵倒した郁と。
彼が持っているよれた紙袋には、望月の大好物であるりんごが覗いていた。
「ふーん……」
それだけだった。
人形じみたかんばせは無表情なのに、静かな怒りの機微を感じる。
望月はとことこと郁に近づいた。
「あの、ばかって言ったのはごめんなさい……。でもふたりで暮らしてるんだからさ……もっと仲良くしようよ? そろそろ仲直りしようよ、ねえ」
「……しない」
とりつく島もないようだ。
ならば、と望月は思う。
悲しきかな、郁の方が身長が高いので、キスをするには背伸びをする必要がある。
「んっ……!?」
唇を触れ合わせるだけの軽いキス。
造作の綺麗な口唇は、やわらかい。
もっと、と思って続きをねだるとやんわりと身体を離された。
「……続きは、しない」
「え、郁ってえっちなこと、弱いよね」
「弱くないし、気分じゃない」
時々、郁はとても理不尽な生き物になる。
あれこれと過保護に世話を妬く癖に、唐突に突き放すようなことを言う。
(そもそも望月がいけないのだが)外出制限まで設けるし、そうすると郁とふたりきりで過ごすしかないのに、仲直りも受け付けないという。
むむむ、と望月は考えた。
それから、あどけない笑みを浮かべた。
「じゃあ、郁がえっちな気分になればいいんだよね?」
――強硬手段というわけだ。
「は?」
郁が大きく目を見開いた。
この狼は無防備な姿すら、美しいのだ。
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