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第1話 エピローグの後の話 01

 治安最悪の特区という街。その中でも特に治安の悪い地区に位置するバーで、一人のインテリ男が酔い潰れていた。  男の名前はシイナ。この辺りを治めるヤクザの組で、会計係を任されている若き実力者だ。  そんな彼は今、バーカウンターに突っ伏して、微塵も動かなくなっていた。几帳面に切りそろえられた髪の合間から覗く耳は真っ赤に染まり、かなりのアルコールを摂取したことがうかがえる。  彼をそんな状態にした張本人は、ちょうどトイレで離席していた。一人無残に残されたシイナを、常連の男たちは興味本位で観察する。 「おー、ホントにあのシイナが酔い潰れてんぞ」 「今なら何かイタズラしてもバレねぇんじゃね?」 「やめとけよ。後で殺されるぞ、文字通り」  わいわいと野次馬達に覗き込まれても、シイナは気付くそぶりすら見せない。すると男たちの中の一人が、鞄から手のひらサイズの機械を取り出した。 「じゃあさ、これで寝顔撮るとかならギリギリ許されんじゃね?」 「へえ、デジカメか。そんな最新機種、なんで持ち歩いてんだ?」 「彼女とのハメ撮りに使おうと思って♡」 「ふーん、金の無駄遣いだなー」  中身がろくに無い会話をしながら酔っ払いたちはデジカメの電源を入れてシイナへと向ける。その時、彼らの背後から少し不機嫌そうな男の声が響いた。 「へぇー、面白そうなことしてんじゃん。俺も混ぜてよ」 「げっ、もう戻ってきたのかよ」  やってきたのは、トイレで離席していたシイナの恋人、ユオシェンだった。中国系の顔立ちに胡散臭さと妖艶な雰囲気を同時に纏った彼は、不審な男たちをじろりと見て問い詰める。 「ダーリンのピンチにハニーが駆けつけるのは当たり前でしょ? で、何してたのお前ら」  眼光鋭くユオシェンが睨み付けると、誤魔化すように笑いながら男たちは徐々に散っていった。 「待って」 「ひぇ」 「そのカメラ、何? ダーリンの寝顔撮ってたの? ハニーの俺に許可もなく?」 「め、滅相もない! まだ撮ってませんよ!」 「フーン、まだってことは、この後撮るつもりではいたんだ」 「やべっ」  墓穴を掘ったカメラの男は、どう誤魔化そうかと冷や汗をダラダラと流す。ユオシェンはその様子をじとりと睨み付けた後、不意に悪い笑みを浮かべた。 「じゃあさ、こうしようか。そのカメラ、俺に一晩貸してよ。そしたら、イタズラ未遂の件はダーリンに黙っておいてあげる。良い交換条件でしょ?」 「え、でもこれ最新型の新品で、めっちゃ高くて……」 「命より高いものがあるのかなー?」 「うぐっ」 「大丈夫大丈夫! 一晩経ったら、ちゃんと返すから!」  にっこりと笑って迫ってくるユオシェンに、男は半ば泣きたい気分になりながら一歩後ずさる。 「ち、ちなみに何に使うのかお聞きしても……?」 「そんなの決まってんじゃん。酔ってふにゃふにゃになった、かわいーいダーリンとの愛の営みを録画するんだよ」 「あ、ハメ撮りっすか……」 「そゆこと♡」  本来使われるはずだった用途をユオシェンに告げられ、男は新品のカメラを寝取られるような気分になったが、結局断り切れずにカメラを差し出すしかなかった。

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