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パリ01

 朝羽田を出てパリには夕方着いた。空港からモンマルトルへはアクセスがいいとは言えないのでいつもタクシーで行くけれど淳さんも同じようだ。  モンマルトルの淳さんの定宿は僕がいつも泊まっているホテルとは離れていて、少しだけホッとする。もう夕食の時間なのでそれぞれ部屋に荷物を置いて外へと出る。でもこの近所のカフェも湊斗くんと入っている。 「この近くのホテルでいいレストランがあるんです。テラス席なんだけど夜景が見えて、雰囲気がすごくいいんです。1人だとちょっと入りづらかったりもするんですけど、今日は吉澤さんがいるから良かった」  そう言って笑う淳さんはいつもの落ち着いた雰囲気から一転して年相応の青年に戻る(なんと、僕より3歳年下なのは最近わかったことだ)  そのホテルはパリ最大のプライベート・ホテル・ガーデンだという。モンマルトルへは何回も来ているけれど、そこのレストランは入ったことがなかった。やっぱり同じ街でも歩くところが違うんだなと思う。ここへは初めて来たから湊斗くんとの思い出もない。それだけでホッとする。 「ここ、知りませんでした」 「でしょう? ガイドブックにも載ってないんですよ。ホテルは載ってるけど。だからホテルの宿泊客とこの近くのホテルに泊まっている人しか知らないんじゃないかな」  ガイドブックか。学生の頃にパリコレに初めて行ったときにガイドブックを見たけれど、それ以降はパリの地図くらいしか見ていないから知らないお店も結構ある。  そのレストランは白の華奢なテーブルと椅子が数席置いてあるだけのレストランだった。時間によっては満席になったりするらしいけれど、運良く1席空いていたので入ることが出来た。 「空いてて良かったです。でも吉澤さんみたいなイケメンがこんなとこにいたら雰囲気爆上がりですよね」  砕けた表情で言う淳さんに僕は思わず笑ってしまった。 「僕はイケメンなんかじゃないですよ」 「いや、イケメンですよ。俺、初めて吉澤さんに会ったとき、あまりのイケメンさにビビりましたもん。ちなみに親父の中の吉澤さんもイケメンデザイナーですよ」  よくイケメンとは言われるけれど、自分では普通だと思っている。そして「イケメンだから失恋なんて無縁」だなんて言われることがあるけれど、僕は失恋している。どこにでもいる三十路の男だ。 「でも、こんな雰囲気のいいレストランに入るのが俺みたいな平凡で申し訳ないです」  お店を離れた淳さんはとても砕けた人で、Aomi屋さんにいるときよりもリラックスできる。淳さんのいるところは落ち着けるからいいと思う。 「なに言ってるんですか。それをいうなら淳さんだって男と一緒じゃつまらないでしょう」 「俺、パリって親父と2回くらい来たくらいで、後はずっと1人なんですよ。プライベートで来たことないから、なんか今回は買付けに来たはずなのにちょっと違ってて少し浮かれてます。あ、頼まなきゃお腹空いちゃいますね。ここアラカルトで頼めるから気楽に食べれるものにしましょう。まずはサラダですよね。あとはステーキが美味しかったです。もう一品欲しいですよね。なにか食べたいのあります?」 「このチーズの入ったなめらかマッシュポテトって気になりますね。なんだか美味しそうだ」 「じゃあそれにしましょう。ワイン飲みますか? 俺は赤」 「じゃあ僕も赤で」  ギャルソンに注文して、またおしゃべりが再開になる。 「ところで明日、俺がよく買付けてる店に行くんですけど、そこにもレースはあるんで行きませんか?」 「今回は買付けには同行させてください。僕よりも淳さんの方がお店のこと知っていると思うから。あとはちょっと服を見たいだけなので」 「そうですか? じゃあ明日の午前中は俺の行きつけの店に行きましょう。日本を発つ前に欲しいものを知らせてあるんです。その中にレースもあるから見てください。それで午後はもう1ヶ所回って、そのときにレース専門店に行きましょう。それで週末は蚤の市です」  今回のパリは5泊4日だ。明日の金曜は淳さんは買付けをする。そして土日は蚤の市を回る。そして月曜にまた買付けをした火曜日には帰路に着く。 「わかりました」 「で、月曜にもう一度買付けです。午後、自由時間にしましょうか。そのときに服を見に行ってください。俺は引き続き問屋街見て歩くんで」  こうしてパリでの行動が決まった。 「問屋街って結構見てます?」 「どうだろう? そこそこかな? いつも見ている店はあるけど、そんなにたくさんの店は見てないですね。洋服見る方が多いです」 「そうですよね。デザイナーさんじゃ、まずは服見ますよね」 「そうですね。生地も気にはなるけど、まずは服ですね」 「じゃあ明日は吉澤さんはレース見ていてください。俺は生地を見るんで。明日、午前中に行く店は良い生地を取り揃えてるから、デザイナーさんでも面白いかもです」  そうだ。レース専門店でなくてもレースは扱っている。そしてパリ滞在中にレースを見つけたい。それはどこで見つかるかわからないけれど、レース専門店と蚤の市が本命だな、と思う。これだというものが見つかれば日本に帰ったらすぐに仕上げることができる。そのためにはできるだけ淳さんの買付けについていこうと思った。

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