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パリ02

 翌日は朝一番に淳さんが連絡をしていたというお店に行った。重厚で質の良い生地。滑らかなサテン生地。それぞれを数色選んで、そしてレース。淳さんが事前に連絡をしておいてくれたからレースを出していてくれた。生地がメインのお店だからレースは少ないだろうと思っていたのに、眼の前には結構な数のレースがあった。どれもアンティークでひとつひとつ見ていく。日本では見かけないようなデザインばかりだった。どれも魅力的。だけど、あのドレスにあわせるのにはピンとこない。 「違いますか?」 「そうですね。どれも魅力的なんだけど……」 「そうか……」  店主に礼を言って店を出る。これだ! というレースは見つからなかったけれど、それでも日本では見ないアンティーク調のレースは魅力的だった。それを淳さんは買付けていた。 「やっぱり買付けは現地で見るのが一番いいな。質感なんかも画像ではわからないし、他のパーツもなかなか探せないから」  そう言う淳さんは楽しそうだ。やっぱり色々な素材を見るのが楽しいんだろうな。そして、こうやって色々と仕入れていくんだなと問屋さんの買付けを見ることができるのは興味深かった。これはデザイナーとは違う買い方だ。 「やっぱりデザイナーとは違いますね」 「デザイナーさんだと作りたい服に合わせてですよね?」 「そう。だから色々見ている割にはお目当てのもの以外は記憶に残らないんです。だからお店に入っても出るのも早いです。そんなに色々見る必要はないので」 「そうか。俺達はどんなものがあるかわからないから、ひとつひとつ見ていくから時間がかかるんですよね。それがどんなふうに使われていくのか想像するとちょっと楽しいですよ」  そうか。その先を考えるのか。デザイナーはその逆なんだなと思う。だから買い方も違うんだなと思う。  その店を出たあとはレース専門店へ行くけれど、途中に店構えがアンティークでおしゃれな店があったから入ってみる。淳さんは色々な生地を。僕はレースを見る。この店も先ほどの店同様にアンティーク調なレースがあり、やっぱり日本で見かけることのないレースたちだった。これだというものはまだ見つかってはいないけれど、これだけアンティーク調のものがあるのなら、このパリで見つけることはできるんじゃないかと淡い期待をする。いや、まだわからない。それでもせっかくここまで来たのだから見つけたいと思う。  そしてレース専門店へと行くが、外から見たときはわからなかったけれど、中へ入ってみると店内は広くて、そこにこれでもか、というほどにたくさんのレースがある。こんなにレースがあると見るだけでも大変だ。それでも僕と淳さんはひとつひとつ見ていく。そして淳さんは数種類のレースを買い付ける。それなのに僕はなかなか見つけられない。ドレスは頭の中にあるけれど、それでもバッグの中から写真を取り出し、ひとつひとつ見ていく。ない。これだけたくさんのレースがあるのに見つけられない。このパリで見つけられるんじゃないかと淡い期待をしていたけれど、やっぱり無理なんだろうか。僕はどんなレースを探しているというんだろうか。淳さんの言う通り探しているのはレースだけじゃないのかもしれない。そう思って落ち込みそうになる。でも、それに気づいた淳さんが言う。 「まだ見つからなくても焦らないでください。このモンマルトルにはもっともっとたくさんの資材屋があるんですよ。レース専門店でなくてもレースは売っているんです。それに買付けは今日だけじゃない。蚤の市にも行くんです。最終日までまだまだ店は見ていくんだから、まだ落ち込むのは早いですよ」  そうだ。まだ買付けの旅は始まったばかりだ。それで僕の気持ちも上向きになった。  ランチはバゲットのサンドイッチとコーヒーというシンプルな食事だった。 「なんだか俺に合わせてこんなランチにしてしまってすいません。どうしても買付けに時間をかけたくて」 「いいですよ。食事をしに来てるわけじゃないから」 「ありがとうございます。でも、お腹がすいたら言ってください。俺1人だと昼抜いたりすることもあるんで」  簡単なランチを済ませて淳さんは狭い道を縫うように歩いていく。 「道、全部覚えてるんですか?」 「覚えてます。買付けのたびに同じルートを回っているから、入り組んだところも覚えてますよ」 「すごいな……」  すいすいと歩いていく淳さんの後を僕は遅れないように付いていく。僕はどうしてもキョロキョロと色々歩きながら見てしまうので、歩みが遅い。そこでふと気づいた。湊斗くんとの思い出のあるモンマルトルだけど、今は資材を見て歩くのが楽しかった。パリの問屋を見て歩くのも初めてではないけれど、淳さんと色々話しながら生地を見ていくのは楽しかった。そんな思いが顔に出ていたのだろうか。 「楽しそうですね」 「そう見えます?」 「はい。最初は辛そうな顔をしていたけど、今は楽しそうです」 「やっぱり好きなんだと思います」 「服作りが?」 「はい」  好き……。そうだ、好きなんだ。スランプになって、作れなくなって、それでも服作りを嫌いにはなっていない。だから契約しているブランド向けのデザインはできなくなっても、ドレスだけはなんとかデザイン出来たし、原型も作れた。それは好きだからに他ならない。  何店ものお店を見て歩く。夕方になると寒さも厳しくなる。 「今日はここまでにして、カフェでコーヒーでも飲んでからホテルに戻りましょう」 「あ、この近くに美味しいカフェがありますよ。スイーツも美味しかった」  そう言ってから気づいた。湊斗くんとの思い出が一番強いのがカフェだ。でも今、僕は自然にカフェの話しをしていた。パリに来るのが怖かったけれど、杞憂だったみたいだ。

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