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パリ03
翌朝、淳さんと一緒に地下鉄を乗り継ぎ、サントゥアンの蚤の市へと行った。淳さんいわく、レースはここが本命だという。昨日はレース専門店に行ったのに、とも思う。というか僕は蚤の市に来るのが二度目だった。蚤の市へ行って良いものがあっても足りなければ意味がない。そう思ってあまり来なかったのだ。でも、”アンティークなものは蚤の市です”と淳さんが言っていた。そうなのだろうか。
そうして来たサントゥアンの街はモンマルトルより寒い気がした。
「こっちです」
淳さんは迷いなく蚤の市の中を歩いていく。モンマルトルでもそうだったけれど、その足取りを見ているともう何回も来ているのだろう。
通りの両側にはアンティークショップや露店が並び、古いランプや鏡、食器、絵画、家具が所狭しと並べられている。
「すごい……」
思わず声が漏れた。まるで宝探しのようだ。
「資材だけじゃなくて、こんなのも見るんですか?」
「じっくりは見ないけど、サッと見てはいきます。古いボタンとかがあったりするんです。店に古いボタンがあったでしょう? あれは親父がここで買い付けたものなんですよ」
そうか。あの古いボタンはそうだったのか。もう2度と買付けができないものだろう。それにしても新品にはない魅力が、この場所にはある。
蚤の市の中には店もある。淳さんと1軒1軒店を覗きながら歩いていく。古いリボン。真鍮のバックル。手刺繍のハンカチ。ガラスのボタン。どれも時代を越えて大切に残されてきたものばかりだ。
「こんなリボンいいな」
「いいですよね。買っていこうかな」
そう言って淳さんは古い黒のリボンを買った。
「それ、使い道あるんですか?」
「どうなんでしょう? デザイナーさん的にどうですか?」
「う〜ん……。あ!小さな飾りリボンを作ればいいかもしれない」
「なるほど。使い道ありましたね。こういうのはモンマルトルにはないでしょう。だから俺、蚤の市好きなんです」
確かにそうだな、と思う。遊び心とか、もう2度と出会えないものに出会える。しかもアンティークで質のいいものが。それは日本ではあり得ない光景だった。
1軒1軒見ていきながらも、淳さんの足取りは迷いがない。それが、もう何度となくここを歩いているのがうかがえる。
「ここです」
淳さんが止まったのは小さな店で、看板も色褪せていた。一体、いつから営業しているんだろう。かなり古い店に見える。淳さんと一緒に店内に入ると店内にはたくさんのレースや刺繍布が無造作に吊るされている。それだけでなく、棚いっぱいにアンティークレースが積まれている。生成り色に変化したもの。手編みのクロッシェレース。繊細なリバーレース。百年以上前に作られたものもあるという。ほんとのアンティークだ。その中で僕は一枚のレースに手を止めた。
「綺麗だ……」
いや、綺麗なレースは昨日からたくさん見ている。このレースもアンティークで色が少し褪せ気味だ。きっとかなり昔に作られたものなんだろう。小さなほころびも見えている。それでもそのレースは美しい。花と蔦の模様が細やかに連なり、光に透かすと影までも美しい。派手さはないけれど、僕は派手なレースを探しているわけじゃないからちょうどいい。それよりも存在感のあるレースだった。手に取って陽に透かすと美しさが増した。
そのとき、頭の中に絵が浮かんだ。トレーンへ流れるレース。ドレープに沿って咲く花模様。
「これだ!」
思わず声をあげてしまう。生地を見ていた淳さんが僕の声を聞いて、僕の手元を覗き込む。
「これですか?」
「はい。このレースのついたあのドレスの絵が見えました」
「良かった。やっぱり見つかりましたね」
「はい」
「あとは長さですね。結構使うんじゃないですか? 店主に見て貰っては?」
「そうですね」
僕が店主に言おうとしたところで淳さんが店主に声をかけていた。どうも知っているようだ。そうなんだろうな。蚤の市に来るのは初めてではない淳さんには顔見知りもいるんだろう。
店主が全部広げることはできないけれど、と言って紙に巻かれたレースを見せてくれる。結構な大きさの紙にかなり分厚くなったレースの束。持ってきたドレスの原型の写真を店主に見せて、レースをつけたいところを見てもらう。
「綺麗なドレスだな。これなら足りるんじゃないかな」
店主の言葉に僕は頷き、そのレースを買うことにした。そのレースを見て、胸の奥で、何かが静かにほどけていく。ずっと探していたのは、ただのレースではなかったのかもしれない。そう言えば淳さんはそんなことを言っていたな、と思い出す。でも、無事にレースを見つけることができて良かった。
僕がそう思って他のレースや生地を見ていると、淳さんはいくつかの生地をピックアップしていた。どれもアンティークで、それこそバッスルドレスを作るのに似合いそうな生地だった。
淳さんは金を払い。日本へ送って貰うよう話していた。その話しの仕方が慣れているのを感じる。問屋さんの仕入れというのを昨日から見ているけれど、なかなか大変だなとも思うけれど、淳さんはそれでも楽しそうに生地を見ていた。昨日から選んだ生地がAomi屋さんに並ぶんだと思うと面白い。それにしてもこんなにいい生地に囲まれたら、なにか服を作りたくなる。それは失恋してから初めての感覚だった。
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