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第1話 ギター弾き
「いつもの酒、氷一つ。」
その男はギターのハードケースをぶら下げて入って来た。
「リキさんはいつもバーボンだね。
今夜はエヴァン・ウィリアムスはどうかな?」
「ははは、マスターのおすすめかい?」
ドンとボトルを置いた。常連のこの男はどうせグラスでは足りない。
一晩でボトルを空ける。
リキと呼ばれた男は,ギター弾きだ。
業界では知られた人物。天才ギタリストと言われている。
犬遠藤力(いぬえんどうりき)40才。プロのミュージシャンに彼のファンが多い。新しいアルバムには彼の名前をクレジットしたいと思っているバンドマンも多い。みんなレコーディングに彼の参加を望む。
夜更けのバーは客がいない。
「こんなに暇で経営は大丈夫なのか?」
「ああ、俺には秘密のパトロンがいるんですよ。」
「マスターのために大金持ちのパトロンだといいね。」
ターンテーブルに静かなブルースが回っている。
ドアを開けて女が入って来た。
「リキ、よかった。ここにいたのね。」
近くのキャバクラの一花(いちか)だ。ナンバーに入っているらしい。売れっ子だ。
「俺はいつもここにいるよ。
店終わったのか?アフターとかないのか。」
「舐めてもらっちゃ困るねえ。
一花さんは安売りしないんだ。
リキになら抱かれたいけど。」
モテる割にリキの周りには女がいない。一度だって女性と一緒に来た事はない。
かっこいい男だ、とマスターは思う。
口数は少ない。とっつきにくい奴。なのに女が放っておかない。
一花が隣に腰掛けてリキの顎を触る。
「髭、伸びたね。あたしは好きだけど。」
「触っていいとは言ってない。」
ロックグラスに残った酒をひと息に飲み干す。
「帰るよ。」
「まだ、ボトル残ってますよ。」
「今夜は飲み過ぎた。」
「リキ、送ってくれないの?」
大きな手で一花の頬を撫でると笑って店を出て行った。深夜だ。タクシーはつかまらない。
ギターケースが重いがいつものことだ。
歩いて行く。
帰り道、猫を拾った。キジ猫。目が光っている。
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