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第35話 疲れた
「ふぅ、疲れたな。」
人を殺すのはやはり非常に消耗する。いつもの始末屋の仕事は、人知れず一瞬で息の根を止める事が多かった。
時間をかけて嬲り殺しにするのは、大変な労力だった。殺しを楽しむ趣味はない。
「いくらやっても慣れることはない。
今回は甘かったかも知れないな。
もっと恐怖で心の底から、反省させたかった。」
今回は復讐を兼ねて思い知らせるのが目的だったから,疲労困憊だった。
「後味の悪い仕事だったな。」
若いもんを労う。分厚い封筒を手渡した。
「叔父貴からだ。」
若いもんは慣れている。死体をあっと言う間に片付けた。痕跡を何も残さないのがプロだった。
奴らの糞尿も血痕も流した水は跡形もなく引いた。黒焦げになった地面も、直火禁止のキャンプ場ほども跡は残らなかった。
世界的に非難の的となった犬虐殺動画にC国は手を焼いていた。C国の一つの村が住民ごと消えた事は、巧妙に隠蔽された。なぜか話題にもならなかった。裏で大きな圧力があったらしい。
何でも全部埋めてしまうのがC国のやり方だったから、人民は誰も異を唱えるものはいなかった。数人の虐待動画を上げるサイコパスが姿を消した事は、一部のネット民が話題にしたが、閲覧数も伸びずサイトは閉じられた。
C国で犬ネコ食が禁止された。これでも画期的な事ではあった。
日本では猫虐待の大家護、改名後石野護の捜索願が家族から出された。大宮に住んでいた。
家も家族も晒された。石野は行方不明とされて猫好きのネット民が喜んだ。
日本の動物行政の遅れ、不備、を改正する要望が少数野党のS党から、国会に提出された。少しは進歩するだろうか?
環境省がとんだ言いがかりのような法案を通そうとしている。大反対の声が世界から上がっている。イエネコを駆除動物に指定すると言う蛮行。
いつも政治家の頓珍漢な政策に呆れる。
今回も始末屋に司法の手が伸びる事はなかった。
疲れ切った恭司がリキの家を訪れた。リキは始末屋の存在を知らない。
リキに抱きついてソファに崩れ落ちた。
「このまま、しばらくこうしていてくれ。」
蜜は力丸を抱いて隣の部屋に行った。
「こんな恭司、見た事、無いな。
きつい仕事だったのか?)
あの組織を潰したと噂は広がっている。
蜜のために、何かやってくれた事はよくわかった。
恭司の肩を抱いて、胸が熱くなった。
蜜の母親も、恭司が手にかけた。
(真実を知ったら蜜は許してくれないだろう。)
漠然とそんな事を思った。
リキの肩に頭を乗せて恭司は眠った。久しぶりに深く眠った。
夢の中で可愛い犬が仔犬たちと戯れていて恭司のそばに来た。可愛い湿った鼻をくっつけてにっこり笑ったような気がした。
満たされた気分で目覚めた。始末屋家業は疲れるのだ。
初めて、リキとくちづけした。
了
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