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湯祭り

 あれから、凪の代わりに村に住む若い娘が花嫁として湯玄に捧げられたと、凪は風の噂を聞く。しかし湯玄が花嫁を迎えに来ることはなく、花嫁に選ばれた娘たちは、翌朝村に帰ってきてしまうとのことだ。 「女が好きなんだろう? 選り好みなんかしてんじゃねぇよ」  そんな噂を聞いた凪は、苦虫を噛み潰したような顔で、湯花神社のほうを睨みつけたのだった。  ◇◆◇◆    村は数日後に執り行われる『湯祭り』の準備に向けて、慌ただしい雰囲気に包まれていた。湯祭りは年に一回開催される湯滝村にとって大きな行事の一つで、寒い冬に行われる。  いつも村に温泉を分け与えてくれる湯玄に感謝し、末永い村の繁栄を祝う祭りだ。祭りのときは湯花神社を綺麗に飾り付け、源泉までに向かう小道には所狭しに提灯が置かれる。夜になると出店が境内の中で賑わい、花火職人が一年かけて作った花火が盛大に打ち上げられるのだ。  凪は幼い頃から両親に連れられ、湯祭りを訪れた。湯祭りの近辺は湯滝村を訪れる観光客も増え、一気にお祭りの雰囲気に村全体が包まれる。  提灯の柔らかな明かりに照らされた源泉は、青い光を放ち神秘的でとても美しい。この頃の凪は、まさかこの源泉が干からびてしまう……などと考えたことなどなかった。  凪が花嫁になることを拒否してから、数人の娘が湯玄の花嫁になるべく湯花神社へと向かっているようだが、その後も花嫁として湯玄に迎えられた娘はいないようだ。そんな話を聞いてしまうと、凪は罪悪感に胸が痛む。  もし、源泉が本当に枯れてしまったら、それは自分のせいだろうか? 自分の我儘で源泉を枯らしてしまい、椿屋を廃業へと追い込んでしまうことになったら、自分はどうしたらいいのだろうか? 堂々巡りするこの考えは、凪を酷く憂鬱にさせた。 「でも、こんな中途半端な気持ちで、湯玄様の元には嫁げない」  そんなことを思っている自分に気が付いたとき、想像以上に純粋な思いで湯玄のことを好いてしまっていることに気付かされて、凪の心は余計に苦しくなる。 「いっそのこと、この村から出て行こうかな」  ふと頭を過る思い。凪は源泉だとか、椿屋だとか、花嫁だとか……全てから逃げ出してしまいたいと思うこともある。それと同時に優しい両親と祖母、そして椿屋の使用人の顔を思い出してしまうのだ。皆誰も凪にとって大切な人たちばかりで、その人たちを置いてこの村を出るなんて、凪にはできるはずなんてない。  凪は大きく深呼吸を繰り返して、余計な考えを頭から叩き出したのだった。    

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