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湯玄の嫉妬
「凄い……泰富様って凄いんだな! あのさ……」
「おい! 調子にのるなよ、泰富。私の神力に頼ってようやく元の姿に戻れた分際で、人の花嫁を誘惑するな」
泰富の言葉に目を輝かせていた凪は泰富から引き離され、再び湯玄の腕の中に捕らえられてしまった。
「凪は私のものだ。わかったならさっさと出て行け」
「それは凪さんが決めることだろう?」
「口の減らない野郎だ。凪だって、私のほうがいいに決まっているだろう? なぁ、凪よ」
湯玄に睨みつけられるような視線を向けられた凪は戸惑ってしまう。そんな凪の気配を察した湯玄が眉を顰めた。
「凪、まさか其方……」
「だってさ、泰富様がいれば椿屋は商売繁盛するんだろう? それはそれでありがたいじゃないか? 商売繁盛の神様がいてくれるなら、こんなに頼もしいことはないし……」
「凪さん、では僕と……!」
凪の言葉を聞いた泰富の顔がぱぁっと明るくなった。そんな二人のやり取りを見ていた湯玄は渋い顔をしながら、更に強く凪を抱き締める。そのあまりの力強さに、凪は顔を顰めた。
「今日はもう寝るぞ。私は一日一生懸命働いたから疲れているんだ。泰富はさっさと押し入れに戻れ!」
「しかし、まだ凪さんの返事を聞いていない……」
「いいから戻れ!」
湯玄が強引に泰富を押し入れに押し込み、険しい表情で凪を睨みつける。そのあまりにも鋭い視線に、凪の体が強張った。
「凪よ、私は一度湯花神社に戻る」
「え? 一緒に寝ないのか?」
「今宵はもうよい……興が冷めた」
凪が湯玄の顔を覗き込むと、子供のように不貞腐れた表情をしている。そのどこか寂しそうな顔に、凪の心が痛んだ。
「また明日来てくれる?」
「……多分な」
「多分って……湯玄様、何か怒ってるのか?」
明らかに不機嫌そうな湯玄を見た凪は強い不安に襲われる。自分が湯玄を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか……凪は湯玄の腕にしがみついた。
「凪、其方は私の花嫁だろう?」
「だから、それは……」
「それなのに、商売繁盛の神と聞いた瞬間、泰富などに嬉しそうな顔をしよって……」
「別に嬉しそうな顔なんかしてねぇし」
「其方は、湯の神より、商売繁盛の神のほうがいいのか?」
「なんだよ、それ」
湯玄が今までに見せたことのないような寂しそうな顔をしたものだから、凪は一瞬言葉を失ってしまう。そして悟った。
――あぁ、湯玄様は泰富様にヤキモチを妬いているんだ。
想像もしていなかった湯玄の反応に、凪はどう反応を返したらいいのかがわからず立ちすくむ。元々恋愛経験なんてないに等しい凪には、こんな時にどう言葉をかけたらいいのか……などという知識もなかった。
凪の部屋から出て行こうとする湯玄に「待って。行かないで」と声をかけることもできずに、凪はそっと唇を噛み締める。
湯玄が出て行ってしまった部屋には冷たい風が吹き込んで、凪はブルッと身震いをした。
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