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夕凪の真実

「なぁ、湯玄様。夕凪っていう男巫女を知ってるか?」 「夕凪……。あぁ、ひどく懐かしい名前だ」  湯玄が苦しそうに声を絞り出す。その声に、凪は確信する。やはり湯玄は、夕凪のことを知っているんだ……。 「夕凪は俺に見た目がそっくりだって言ってた。なぁ、もし俺が夕凪の生まれ変わりだとしたら、湯石を使ってあの源泉を復活させることができるんじゃないのか?」 「……確かに、其方の見た目は夕凪とそっくりだ。そして、魂の色や形まで似ているように感じられる。初めて其方を見かけた時は、正直驚いたよ。あの夕凪に瓜二つの男がいるんだからな」 「俺、頑張って源泉を復活させてみせるよ。だからお願いだ、湯玄様。俺をもう一度花嫁として迎えてくれ! 頼む!」  凪が湯玄に向かい深々と頭を下げると、湯玄がそっと顔を覗き込んでくる。いつも眉間に皺を寄せている湯玄の優しい表情に、凪の鼓動がどんどん速くなった。  まるで子供のように駄々を捏ねる凪に、湯玄はまるで言い聞かせるように、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。そんな湯玄の言葉に凪は懸命に耳を傾けた。 「昔この辺り一帯にはたくさんの源泉があって、数人の湯の神がいた。その中の一人が湯庵だ。しかし、其方も知っての通り、湯庵がいた福寿村は源泉が枯渇したまま元には戻らず、廃村になってしまった。ただな……そんな出来事は今に始まったことではなく、何百年も前から繰り返されていたんだ」 「繰り返されていた?」 「あぁ。あれは数百年前のことだ。あの時も今と同じように、私の神力が尽きようとしているときだった。捧げられる巫女の生力だけでは力及ばず、私はいよいよ覚悟を決めた。この源泉と共に消えようと……それが運命なのだと。そんな時に突然現れたのが夕凪だった」  湯玄が凪の頬を撫でながら優しく笑う。 「其方のように銀色の髪で、瞳は晴れた日の空のように澄んだ青色をしていた。夕凪は誰よりも美しい男だった。そして、夕凪は神に近い不思議な力を持っていた。湯石を自由自在に操り、私の神力を取り戻させてくれただけでなく、源泉も復活させてくれたのだ。それは本当に不思議な力だったよ」  湯玄は、きっと夕凪のことを思い出しているのだろう。遠くに視線を移し、物思いにふけっているようだ。 「夕凪のおかげで私は神力を取り戻し、源泉も復活した。しかし夕凪は、突然、私の前から姿を消してしまったのだ」 「消えたって……。一体どこへ?」 「わからない。あいつは私を助けるために全ての生力を使い果たし、私の前から姿を消した。私は血眼になりながら夕凪を探したが、結局会えずじまい……。そして、其方と出会ったのだ」 「…………」 「其方は夕凪によく似ている。それは姿形だけではなく、魂の色や形までな」  湯玄様は夕凪のことが好きだったのだろうか……そんな疑問がふと凪の頭を過ったが、それを言葉にすることができなかった。こんな子供染みた嫉妬で、湯玄の思い出を汚したくはなかったから。  それでもその疑問は、凪の心の中でどんどん膨らんでいき、魚の小骨のように凪の心に突き刺さる。 「其方から生力を分けてもらい、また大切な存在を失くすことが、私は怖いのだ。可笑しいだろう? 散々『嫁に来い』などと口説いておきながら、いざとなって尻込みをするなんてな」 「そんなことない」 「だから、其方から生力はもらえん。私は其方が大切なのだ。またあんなふうに別れの寂しさを味わうくらいなら、私一人が消えてしまったほうがいい。あ、ほら、見てみろ凪。花火が綺麗だぞ」  話題を逸らすかのように満面の笑みで花火を見つめる湯玄。凪が今まで感じていた疑問が、一本の線に繋がったような気がした。

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