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Prologue 聖剣の顕現

それは、唐突だった。 胸の奥で、何かが脈打った。 心臓ではない。 もっと異質な、熱を持った何かが、身体の内側で目を覚ました。 漆黒の瞳が、見開かれる。 嫌な予感がした。 本能が逃げろと叫んでいた。 が、逃げようがなかった。 「待っ――」 言葉は最後まで続かなかった。 胸の骨が内側から、みしみしと押し広げられていく。 信じ難い力だった。 内臓が圧迫される。肋骨が砕ける音がした。 次の瞬間、何かが弾けるような感覚が走った。 目の前が、真っ赤に染まった。 幾瞬かの後に、それが自らの身体から吹き出した鮮血であると気づいた。 「――え……?」 驚きに漏れた音は、声にならなかった。 代わりに喉から溢れ出るものも、鮮やかな赤色をしていた。 「……っ……ガハッ!」 その場に頽(くずお)れ、膝をつく。 止め処なく込み上げてくる熱い液体が、気道を塞いだ。 反射的に咳込むと、勢いよく吐き出された血液が、びちゃりと床へと散った。 鐘の音が鳴り響いた。 周囲を取り囲む神官たちが一斉に膝を折り、天を仰いだ。 「神託が下された。是より、聖剣が顕現なされる」 大神官が、聖杖を掲げた。 「神の与え給うた奇跡に祝福を」 神官たちは皆、祈るように頭を垂れた。 誰一人として、苦悶する青年へ手を伸ばそうとはしなかった。 奇跡の最中(さなか)にある青年の瞳だけが、絶望に染まっていた。 やがて眩い光の中から、一人の男が姿を現した。 白金の髪。 黄金の瞳。 神話の一頁から抜け出してきたような、美しい男だった。 赤く染まった世界の只中で、青年は突如眼前に現れた男を仰いだ。 男は苦痛に顔を歪める青年を、感情のない瞳で見下ろした。 「――勇者よ」 その一言で、一人の青年に過ぎなかったルイアスの人生は終わりを告げた。

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