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余韻05話 まどろみとキス
「寄ってくれて助かったよ」
「いえ。お邪魔になるかと思ったのですが……、良かったです」
ルベルと、——誰かの話し声がする。
「こちらこそ、まさか泊まり込ませることになっていたとは申し訳なかった。……夜間一人にしてしまうとは、私の失態だ」
「……長官……?」
ふと気づいて目を開けると、いつもより目線が高かった。
驚いて顔を上げると、ルベルの腕に抱えられていた。
「おっと。おはよ、リュノ」
「えっ、ルベル?」
長官の前で、小さい子供のようにリュノを抱えたルベルは、身を起こしたリュノをもう一度抱き直した。
「危ないよ、くっついてて」
「リュナス、どんなに忙しいからと言って、こんなところで夜を明かしてはいけないよ。それに、鍵もかけずに不用心だろう」
背後からかけられた長官の声に、昨晩仕事を一区切りつけたあと、そのまま眠ってしまったことに気がついた。
本当に、ほんの少し腕に頭を乗せただけのつもりだったのに……。
「す、……すみません。機密情報を取り扱う者として、意識が足りていませんでした」
なんとか首を巡らせて長官に謝ろうとすると、ルベルが体の向きを変えてくれながら言った。
「いやいやリュノ、そういうことじゃないでしょ」
「その通りだよリュナス……。」
そのまま執務室にいれば、やがて出勤してくるヒルデ先輩からまたたっぷりとお小言をもらうだろうからと、
長官はリュノをそのままルベルに預けてくださった。
昨日は一日中、公示された特殊師団の設立について怒鳴り込んでくる騎士団長の皆さんからお話を聞いて……。
それらをヒルデ先輩とまとめて、陛下のお手元へ届ける頃にはもう日も暮れていた。
けれどリュノは、この先の師団の活動計画をもう一度確認しておきたかった。
その計画に説得力がなければ、ディッカーを師団に奪われた騎士団長殿たちと戦うことはできない。
だけど、これ以上ルベル達に無理をさせないためにも、師団の設立は絶対に必要だ。
だから、今日の会議に向けて、少しばかり無理をしたのだ。
「リュノ、長官殿が、運用計画の資料すごくよく出来てたって言ってたよ」
もう起きたから下ろして、と言ってもルベルはリュノを下ろしてくれず、リュノは諦めてそのまま運ばれていた。
ルベルの方に頭を預けてゆらゆら揺られていると、なんだかふわふわと気持ちが良くて、体から力が抜けてしまう。
「ん。——良かった」
「どうしたら俺らがちゃんとできるようになるか、考えてくれたんだ?」
「うん。…………ん?」
「ん?」
ルベルの口ぶりは、つまり、リュノが師団の今後の運営を検討する立場にあると、わかっているようなものだった。
「資料、……見たの?」
「ん?ううん。長官殿がそう言ってたよ」
「え?」
思わず、ルベルの肩から頭を上げた。
ルベルが驚いたように小さく声を上げて、お尻の下にあった腕がぱっと背中に回ったけれど、気にしていられなかった。
リュノの管理官見習いとしての仕事は、口外できることじゃなかったはずなのに。
「ちょ……、長官が?」
「うん?うん。——はい、くっついてね」
背中を引き寄せられて、ルベルの肩に頭を預けさせられる。
「リュノが今手伝ってくれてるの、師団の運営計画だから。
俺が仕事休めるようになったら、ちゃんとリュノのことも休ませてねってお願いされたよ」
「やす……」
「ちゃんと休んでね。俺が叱られちゃう」
ぽんぽんと背中を叩かれて、自分の前の休日を思い出してみる。
確かに、それはもうかれこれ、一月以上前のことだった。
そのままルベルの部屋に帰り、途中で買った簡単な食事をとった。
二人、体をきれいにしている間に、どちらからともなくあくびが出て、二人で笑い合って、転がり込むように寝台に横になった。
腰に布だけを巻いて、あたたかい布団の中でくっつく。
脚を絡めあって、少し笑いながらキスをすると、ルベルが小さくつぶやいた。
「やべ。……ちょっとたっちゃった」
「ふは」
遠慮がちに腰を引くルベルに笑って、その胸の中に頭を預ける。
「起きてからね」
「——うん」
カーテン越しに差し込む柔らかな日差しの中、二人はそれから、たっぷりとまどろみを楽しんだ。
「——え、この部屋出なきゃいけないの?」
目を覚ましたルベルと、体をくっつけあいながらキスをしていたら、ルベルがしょんぼりしながら部屋を出ることになったと教えてくれた。
「うん。ここ、潜入捜査に便利だからずっと今の隊で借りてるんだよね。
だから、俺師団に移ったから出なきゃいけなくて」
はあー、とため息をついて、ルベルがリュノの上に覆い被さった。
「この部屋気に入ってたのになあ」
リュノの上でそんなことを言うルベルに、少し笑う。
「かなり狭いじゃん?気に入ってたの?場所がいいから?」
「違うよう。狭いから、ここしか居場所ないじゃん。ずっとくっついてられるじゃん」
そんなことを言うルベルのつむじがかわいくて、思わずルベルの頭にキスをしてしまった。
ルベルがリュノの頭にキスをしたくなるのも、こんな気持ちなのかもしれない。
「この部屋じゃなくたってくっついてたらいいじゃん。
宿舎出てさ、二人で家借りようよ」
「——え?」
「……ね?」
それからすぐに、王都の害獣駆除は沈静化した。
休みを取れるようになったルベルは、少し時間をかけて次の部屋を探してくれて、騎士団からさほど離れていない場所に二人で部屋を借りた。
リュノはもう少し離れた場所で良かったけれど、仕事で遅くなることも増えたリュノを心配したルベルが譲らなかった。
騎士団の近くは、つまり王宮からもほど近い。
王宮のいわば裏側にあたるとはいえ、貴族のお屋敷も近い。
その分家賃も高いし、そもそもアパルトメントの物件はなくて、なんとかこぢんまりとしたメゾネットを借りることができた。
手狭なことは、それほど苦ではない。
リュノだって、ルベルとくっついているのが好きだった。
それよりも、ルベルが王都にいることが増えて、以前よりずっと一緒にいられる夜が増えた。
「明日は久々の市街警備なんよ。夜間だから遅くなるけど、帰ってくるからね」
「うん。先寝てるかも」
「えっ、起きてたら怒るよ」
そう言ったルベルに抱きすくめられて、あちこちくすぐられて声を上げて笑う。
一緒の夜が増えた分、セックスをしない二人の夜も増えて、
ただ二人で寄り添って眠ることの、こんなに幸せなことを改めて知った。
だから、この先。
管理課で、ディッカー候補となる魔法騎士への指導方針を検討したり、新たにウルラの資質が認められた人へ、番うことについて説明する仕事を任されたり。
やがてルベルも管理課側に加わって、管理課のあの領地を守る者になっていくのだけれども。
それは、また別のお話で。
「……だめ?」
「んー……。ちゃんとお布団入っててね」
そう言うルベルの唇をふさいで、そのまま二人で寝台に転がる。
あたたかい夜の闇に、二人溶け込んでいった。
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