33 / 34
余韻04話 お仕置きのキス
それから、ルベルはディッカーとして活動するようになり、
それまでの王都警備に加えて、地方騎士団の応援に駆り出されることが増えた。
「リュノ……」
「ん……、あ、——ルベル……?」
ルベルの借りている部屋で寝ていたリュノに、キスをして起こしてくれたのは、少し疲れた顔をしたルベルだった。
「ただいま。こら、一人でここで寝泊まりしたらダメって言ったでしょ」
「おかえり……。ごめん、今日帰ってくるって、思ってなかった」
疲れたルベルをゆっくり休ませてあげないといけないのに、リュノが邪魔をしてしまっていた。
そう思って慌てて体を起こすと、ルベルはリュノの頭に唇を押し当てて、そのままそこで鼻から息を吐いた。
「違うでしょ。ここら辺そんなに治安良くないから。
こんな安普請の部屋にリュノが一人でいたら危ないんだよ?」
「……だって……」
毎晩のようにルベルの魔力はリュノを抱きしめてくれるけれども、
ルベル自身に会えたのはもう三週間ぶりだった。
さすがに、さみしくて。
ダメだと言われていたけれど、ルベルの匂いにも包まれたかった。
「だぁめ。罰として、リュノからちゅうをしてください」
「うん」
思わず顔を上げると、ルベルは「仕方ないなあ」と眉を下げて、笑ってくれた。
寝台の上、膝立ちになってルベルの首に手を回す。
「……おかえり、俺の太陽。——会えなくてさみしかった」
「うん、——俺も」
少し体をかがめてくれるルベルと唇を合わせて、舌をこすりあわせて、おかえりのキスをする。
もう、二人が出会ってから、一年が経とうとしていた。
「しばらくは王都にいるよ」
「ほんと?」
帰ってきたままの格好だったルベルから、鎧を外して、装備を外して、体を拭いてあげて。
寝支度の済んだルベルは、眠たそうにしながらリュノを抱き寄せて、頭の中に顔を突っ込みながら言った。
「リュノの匂い……」
「やだ、なんかくさそう」
くっくっく、と喉を鳴らしたルベルは、そこで思い切り息を吸って、はあ、とため息をついた。
「——ちょっと……、ルベル……」
「いい匂い。安心する」
夜の部屋の薄暗さの中、ルベルは大きく息をした。
ルベルが安心するなら、じゃあ、いいか。
そう思って、少しルベルに頭を寄せる。
「おやすみ、リュノ」
「うん……」
暗くて、あたたかいルベルの腕の中、リュノの意識はまた夜の闇に溶けて。
疲れきったルベルが、また次の日から徹夜続きになるなんてこと、これっぽっちも想像していなかった。
翌朝はルベルと共に団へ戻り、人目のないところで額にキスをもらって、お互い仕事に向かった。
ルベルは人目を気にしないけど、リュノには人の耳目がよく見えるので。
——ルベルは、少し周りを気にしてくれるようになった。
「リュノ、この五人所属変更の手続きお願い」
「はい」
ヒルデ先輩から手渡された書類を受け取り、順に確認する。
「——え……、え、これ?」
「明後日まで口外禁止だよ。本人にもね」
——本人にも。
ルベルにも……?
思ったことが顔に出ていたのか、先輩がきゅっと口をすぼめてリュノに言った。
「彼氏にも、言っちゃダメだからね」
「は、……はい」
その書類は、現在ディッカーとして活躍する魔法騎士たち全員を、新たに設立される「特殊師団」へと異動させるためのものだった。
つまり、ルベルも。
それから二日。
ルベルに会ってしまったら、異動のことが顔に出てしまわないかと心配だったのに。
ルベルたちディッカーを筆頭に、魔法騎士たちが根こそぎ作戦に駆り出され、リュノも師団の設立準備に追われてしまい、
やっと王都に戻ったルベルに会えるチャンスなど、これっぽっちもなかった。
この日も、外はすっかり夜になっていた。
「先輩。……今、王都で何が起きているんですか?」
日々魔法騎士達が駆り出され、何かの作戦を行なっていることは把握していたけれど、リュノは詳細を知らされていなかった。
この春から少しずつ管理課の仕事を任されるようになり、本部の仕事は下の子に任せることが増えてきたから。
「んー、害獣駆除かなあ」
「害獣?」
聞き返したリュノに、ヒルデ先輩は肩をすくめて立ち上がり、いくつかの書類を載せたトレイを手に取った。
「ま、そのうち終わるよ。……長官、王宮へ行って参ります」
「ああ、頼んだ」
王都に害獣……?
釈然としない気持ちを抱えつつ、リュノも書類を載せたトレイを手に立ち上がった。
時間は遅かったけれど、明日公示される師団の創立に向けて、若き師団長はリュノの訪れを待っているはずだ。
「長官、私も師団へ行って参ります。そのあと管理課にも寄りますので、少し遅くなります」
「うん。……リュナスの持っている仕事で、誰かに頼めるようなこととかあるかな」
ふと顔を上げた長官に問われて、少し考える。
師団の話は部外秘で、管理課の話も部外秘。
そして管理課の仕事は、リュノに経験を積ませるための仕事でもある。
「——今のところは、特になさそうです」
「うーん。そうかい?……無理はしないようにね」
長官のお気遣いに頭を下げて本部を出る。
今は、少し忙しくなるのもしょうがない時期だ。
そう、自分の中で納得できていた。
——それよりも……。
廊下を歩く足を早める。
今日はルベル、ちゃんと休めるといいけど……。
リュノの恋人がディッカーだと知った師団長に色々聞かれたので、リュノの知る範囲で、ルベルの忙しさのことについてはお話をしていた。
もちろん、現場のことを知らない、ただの第三者の感想だ。
だけど師団長は、そういう人の話も大切だよね。と笑ってくれた。
誰だって大切な人に、好き好んで忙しくて危険な仕事を続けて欲しいわけはないし、
誉ある立場だってわかってたって、案じる気持ちは止めようがないよね。
師団長がそう言ったから。
この師団の設立は、今多少の無理をしても進めるべきことなんだと、そう思えていた。
ともだちにシェアしよう!

