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余韻04話 お仕置きのキス

 それから、ルベルはディッカーとして活動するようになり、  それまでの王都警備に加えて、地方騎士団の応援に駆り出されることが増えた。 「リュノ……」 「ん……、あ、——ルベル……?」  ルベルの借りている部屋で寝ていたリュノに、キスをして起こしてくれたのは、少し疲れた顔をしたルベルだった。 「ただいま。こら、一人でここで寝泊まりしたらダメって言ったでしょ」 「おかえり……。ごめん、今日帰ってくるって、思ってなかった」  疲れたルベルをゆっくり休ませてあげないといけないのに、リュノが邪魔をしてしまっていた。  そう思って慌てて体を起こすと、ルベルはリュノの頭に唇を押し当てて、そのままそこで鼻から息を吐いた。 「違うでしょ。ここら辺そんなに治安良くないから。  こんな安普請の部屋にリュノが一人でいたら危ないんだよ?」 「……だって……」  毎晩のようにルベルの魔力はリュノを抱きしめてくれるけれども、  ルベル自身に会えたのはもう三週間ぶりだった。  さすがに、さみしくて。  ダメだと言われていたけれど、ルベルの匂いにも包まれたかった。 「だぁめ。罰として、リュノからちゅうをしてください」 「うん」  思わず顔を上げると、ルベルは「仕方ないなあ」と眉を下げて、笑ってくれた。  寝台の上、膝立ちになってルベルの首に手を回す。 「……おかえり、俺の太陽。——会えなくてさみしかった」 「うん、——俺も」  少し体をかがめてくれるルベルと唇を合わせて、舌をこすりあわせて、おかえりのキスをする。  もう、二人が出会ってから、一年が経とうとしていた。 「しばらくは王都にいるよ」 「ほんと?」  帰ってきたままの格好だったルベルから、鎧を外して、装備を外して、体を拭いてあげて。  寝支度の済んだルベルは、眠たそうにしながらリュノを抱き寄せて、頭の中に顔を突っ込みながら言った。 「リュノの匂い……」 「やだ、なんかくさそう」  くっくっく、と喉を鳴らしたルベルは、そこで思い切り息を吸って、はあ、とため息をついた。 「——ちょっと……、ルベル……」 「いい匂い。安心する」  夜の部屋の薄暗さの中、ルベルは大きく息をした。  ルベルが安心するなら、じゃあ、いいか。  そう思って、少しルベルに頭を寄せる。 「おやすみ、リュノ」 「うん……」  暗くて、あたたかいルベルの腕の中、リュノの意識はまた夜の闇に溶けて。  疲れきったルベルが、また次の日から徹夜続きになるなんてこと、これっぽっちも想像していなかった。    翌朝はルベルと共に団へ戻り、人目のないところで額にキスをもらって、お互い仕事に向かった。  ルベルは人目を気にしないけど、リュノには人の耳目がよく見えるので。  ——ルベルは、少し周りを気にしてくれるようになった。     「リュノ、この五人所属変更の手続きお願い」 「はい」  ヒルデ先輩から手渡された書類を受け取り、順に確認する。 「——え……、え、これ?」 「明後日まで口外禁止だよ。本人にもね」  ——本人にも。  ルベルにも……?  思ったことが顔に出ていたのか、先輩がきゅっと口をすぼめてリュノに言った。 「彼氏にも、言っちゃダメだからね」 「は、……はい」  その書類は、現在ディッカーとして活躍する魔法騎士たち全員を、新たに設立される「特殊師団」へと異動させるためのものだった。  つまり、ルベルも。  それから二日。  ルベルに会ってしまったら、異動のことが顔に出てしまわないかと心配だったのに。  ルベルたちディッカーを筆頭に、魔法騎士たちが根こそぎ作戦に駆り出され、リュノも師団の設立準備に追われてしまい、  やっと王都に戻ったルベルに会えるチャンスなど、これっぽっちもなかった。  この日も、外はすっかり夜になっていた。     「先輩。……今、王都で何が起きているんですか?」  日々魔法騎士達が駆り出され、何かの作戦を行なっていることは把握していたけれど、リュノは詳細を知らされていなかった。  この春から少しずつ管理課の仕事を任されるようになり、本部の仕事は下の子に任せることが増えてきたから。 「んー、害獣駆除かなあ」 「害獣?」  聞き返したリュノに、ヒルデ先輩は肩をすくめて立ち上がり、いくつかの書類を載せたトレイを手に取った。 「ま、そのうち終わるよ。……長官、王宮へ行って参ります」 「ああ、頼んだ」  王都に害獣……?  釈然としない気持ちを抱えつつ、リュノも書類を載せたトレイを手に立ち上がった。  時間は遅かったけれど、明日公示される師団の創立に向けて、若き師団長はリュノの訪れを待っているはずだ。 「長官、私も師団へ行って参ります。そのあと管理課にも寄りますので、少し遅くなります」 「うん。……リュナスの持っている仕事で、誰かに頼めるようなこととかあるかな」  ふと顔を上げた長官に問われて、少し考える。  師団の話は部外秘で、管理課の話も部外秘。  そして管理課の仕事は、リュノに経験を積ませるための仕事でもある。 「——今のところは、特になさそうです」 「うーん。そうかい?……無理はしないようにね」  長官のお気遣いに頭を下げて本部を出る。    今は、少し忙しくなるのもしょうがない時期だ。  そう、自分の中で納得できていた。  ——それよりも……。  廊下を歩く足を早める。    今日はルベル、ちゃんと休めるといいけど……。  リュノの恋人がディッカーだと知った師団長に色々聞かれたので、リュノの知る範囲で、ルベルの忙しさのことについてはお話をしていた。  もちろん、現場のことを知らない、ただの第三者の感想だ。  だけど師団長は、そういう人の話も大切だよね。と笑ってくれた。  誰だって大切な人に、好き好んで忙しくて危険な仕事を続けて欲しいわけはないし、  誉ある立場だってわかってたって、案じる気持ちは止めようがないよね。  師団長がそう言ったから。  この師団の設立は、今多少の無理をしても進めるべきことなんだと、そう思えていた。  

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