15 / 33
3 美貌の画家(5)
「そうなのか?」
エドアルドが訊ねると、サンティはエドアルドを見あげ、当然とばかりに答えた。
「分かります」
そして一回り、壁面を見回した。
「この空間にいれば、ずっと昔、ここで描いた画家の考えていたことが分かります。僕もきっとそうするでしょう。同じ思いで、同じものを描きたくなる。そうしなければならない気持ちになるんです。数百年の時間を越えて、我々の思いが繋がるのですから」
「へえ。そういうものなのかな」
超常現象のいっさいを信じないエドアルドには理解不能だったが、サンティは満足げに腕を組む。
「右は『降誕』。左は『マグダラのマリアとの再会』。正面は『受難』です。それらが描かれていたはずです。他には考えられない」
彼の美しい唇から流れ出る一つ一つの言葉が、さながら水中に沈みゆく宝石のようにエドアルドの心の深淵へ落ちてゆく。初めて目にするような鮮やかな輝きをもって…。
興奮したスフォルツァが声を高くして言葉を繋いだ。
「そのことを司祭にご報告にあがりましたら、司祭が古い資料を出してこられまして。調べてみたら、そのとおりだったんです!」
「題材はそれでよろしいでしょうか、エドアルド?」
サンティは、エドアルドの提言通り、ファースト・ネームで呼んできた。落ち着いた響きの快い声だった。
森深くから見あげる夜空に似た、濃紺の瞳だ。そこから放たれる月光に包まれ、エドアルドはこれまで覚えたことのない種類の酔いを感じた。魔法にかかるとは、こんな気分なのではないかと思われた。
「ああ、よろしく頼む」
サンティが艶然とほほえむ。
(これが、キリストの花嫁か――――)
再度、バルトロの言葉を思い出し、エドアルドは胸のむかつきを覚えた。
変な気分だった。
葡萄を食べた後に似ている。
口にしているときは美味なのに、喉に流し込んだ後は苦々しい触感が膜を張るように口に残る。
サンティが再び正面の壁を見あげる。
「お任せください。いい絵が描けそうです」
この横顔に惹かれない者などいるだろうか――――?
不意にそんなことを考えた自分に嫌気がさした。
気付くと、スフォルツァはまだ頬に紅をさしたまま、サンティをじっと見つめている。まるで誘惑の罠にかかったように、恥じることも忘れた賛嘆のまなざしだった。
ともだちにシェアしよう!

