18 / 33
4 苦しさに抱きあう(1)
「へえ。そんなにキレイなヒトと毎日過ごしてるんだ。いいねぇ?」
ベッドで横になったまま、頬杖をつきながらガナーが笑顔でまなざしをよこした。口元は笑っているが、目は笑っていない。それに気づかないふりをして、エドアルドはあえて興味のないふりをした。
「足場ができてからは、毎日礼拝堂にこもっているさ。地塗りというのをやっているらしい。壁画家の作業なんてのは、まったく理解できんね。夕食にも出てこないから、最近では会わない日が多い」
「壁画家か…。すごいな。オレ、絵なんか小学生以来まともに描いてないよ」
低くなった声の響きから、嫌味ではなく本心から発しているセリフだと分かった。
サンティは西の壁から取り組み始めていた。先日、完成作のラフを見せられたのでエドアルドは許可をおろした。スケッチブックに描かれた下書きの素描でさえ、売れば高値になると思われるほど素晴らしい出来栄えだった。
「奴の話はもういい」
ガナーの背中を抱きながら、張りのある綺麗な肩にキスを落とした。
二の腕に真紅のバラが光っている。最近彫ったものらしい。
首には以前に贈ったプラチナのネックレス。このひそやかな恋に励ましを添えるかのように、シャンデリアの光を浴びて艶 やかな輝きを放っている。
前に会ってから一ヶ月。
刻一刻と過ぎてゆく時間がもったいなかった。陰部を手でまさぐりながら脚をガナーの尻に割り入れる。彼は小さく啼いたが、少しためらいもあった。
もう一度、するか、しないか――――。互いの気持ちをさぐりあっている。ガナーの後孔はもう、エドアルドを受け入れすぎて爛 れ始めているのだ。
膚を剥ぎ捨てて一つにとけあえさえすれば、こんな酷い愛しかたをしないですむ。せめてこの身が二つあれば、一つはいつでも彼のそばに置くのに――――。
「寂しかった。ガナー…」
エドアルドの頬に絡みつくガナーの金髪のぬくもりがかえって切なさを駆りたて、エドアルドは泣きたくなった。
エドアルドの胸の内を感じとったのか、ガナーは寝返りをうち、抱きついてくる。優しい腕が甘えるようにエドアルドの首に絡みついた。
別れまでのカウントダウンが時を刻んでいる。一晩しか一緒にいられない貴重な夜だ。一秒たりとも無駄にしたくない、大切な、大切な時間だった。
逢瀬のとき、セックスだけでは空しく、セックスなくしては愛した跡を付けあうことができない。その矛盾に心が疲労を覚え始めている。
「寂しかった…?」
ガナーが小さく囁いた。
「でも、エド。あんたはそんなにキレイなヒトと暮らしているんじゃないか…!」
エドアルドの喉元に唇を押しつけながら、低く呟く。
妙にはっきりした口調だった。それでようやくエドアルドは、ガナーがサンティに嫉妬していることに気付いた。
「ガナー?」
驚いてガナーの肩を掴み、上体を離した。
「まさか妬いているのか、お前?」
ガナーが今にも泣き出しそうに顔を歪める。
「相変わらず、鈍いな。あんたがどんなに寂しくっても、俺ほどじゃないってことだよ」
翡翠色の潤んだ目を揺らし、無理して笑顔を作る。本当に淋しいとき、彼はよくこんな笑い方をする。
焦ったエドアルドは必死に反論した。近況を知りたいとガナーのほうから尋ねられたから、アンドレアについてまで話題が及んだが、こんなことなら話さなければよかったと後悔する。
「バカ。妬くほどのことではないぞ。奴はそういう感じじゃないんだ。本当に、清廉潔白な天使みたいな男なんだ。俺とどうこうなんて、なりようがない」
「そんなの、分からないじゃない?」
ガナーが力なく言い返す。
「人間なんて、どこでどうなるか分からないんだからさ」
妙に悟ったことを言い出す。
「そういえばお前のほうこそ、モデルのキャス・リーとかって女とはどうなっているんだ?」
別に他意はないのだが、ふと思いついたまでだった。
キャス・リーは、ガナーとのロスでのデートを目撃されたとニュースになったばかりの、女優兼モデルだ。ネットにはグラマラスな彼女のきわどい水着写真があふれかえっている。
エドアルドは別に、彼女に悋気を起こしたわけではない。
恋人とはいえ、たまにしか会えない仲だ。男女問わず魅力を感じさせるであろうガナーに、いつでも自慰で性欲を満たせと強要する気はなかった。ガナーとは愛しあっている自信はあるものの、離れている長い時間の貞操まで守りあう仲ではないと、心のどこかで割りきっているのだ。
ガナーが気まずい表情を浮かべる。
ともだちにシェアしよう!

