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4 苦しさに抱きあう(2)
「あー?…うん。寝たよ。二度、かな。でも、それだけの仲だよ。あっちも名前を売りたかっただけだし、俺も、誘われたから乗っただけで。顔は可愛いけどブスな女だよ。俺も、彼女がいないとかって噂が続くと気取られるから。分かるだろ?」
「…ああ」
ガナーの言いたいことは理解できる。
いくらゲイへの理解が深まってきたとはいえ、カミングアウトしたアーティストはやはり変わり者としてのフィルターを通して見られる。実際、CDセールスにも影響が出るくらいだった。世間の理解など所詮、そんなものだ。
「オレはあんただけを愛してるんだぜ。いつだって」
突然の真面目な愛の告白。
「でも、あんたはイタリア人だからな」
批判的にガナーが続けた。
「なんだ、差別するつもりか?」
エドアルドはおどけて見せた。
「いーや、差別なんかしないさ。でも、聞いたことがあるよ。イタリアの男ってのは、いくつもの真実の愛を持っているんだって。そう言っちゃ、あっちこっちで子種を撒き散らすのさ。そんなの真実の愛って本当に言えるの?」
面白い表現があるものだと感心した。
「アメリカ人は見た目によらず一途なんだな。きっと、心と体が別物なのだろう。体は許しても、心は一人に捧げている、とでも言えばいいかな?」
「他人事みたいに言わないでくれよ…」
ガナーが、がっかりしたような溜め息をつく。エドアルドはガナーの見事な金髪をかきあげて宥めた。
「愛してるよ、ガナー」
「今は、ね。数時間後は、不明」
ふてくされた顔で寝返りを打ち、エドアルドに背を向ける。
「そんなことはない。イタリアでだって、考えるのはお前のことばかりだ」
髪に頬を埋め、口付けをした。
「お前が愛しくてしかたがないんだ、ガナー」
「…誓ってもいいけど、そのうちきっと、黒髪の美人を押し倒すぜ、あんた」
「ガナー! もうやめよう。喧嘩するために会っているわけじゃ、ないだろう?」
エドアルドの切ない訴えにガナーが押し黙る。その隙を突くように、エドアルドはガナーを振り向かせて唇をむさぼった。
そのまま有無を言わせずに足を折りたたむと、まだ準備のできていないガナーに無理やり挿入する。
獣のように愛しあい、その痛みと辛さを味わうことでしか愛の深さを証明できないような、激しいセックスをした。可哀想な愛し方だが後悔はない。そういう愛し方でしか伝わらない真意もあるから。
ガナーは何度も意識を失いかけ、ことが終わったあとも苦しそうに息をしながら眠りに落ちていった。
その寝顔をしばらく眺めた。
眠る彼は出会った頃と変わらない。それこそフレスコ画から抜け出た天使のようだ。
エドアルドはベッドから出てガウンをはおり、ソファに身を沈めた。不意に思いたって、テレビをつける。
画面の下にあるDVDデッキには、ガナーのニューアルバムから一曲抜き出されたプロモーションビデオが入っていた。ガナーが持ってきたもので、ベッドに入る前に一度だけ観させてもらったものだ。
ガナー達のバンドの三作目に当たるアルバムは、つい最近リリースされたばかりだ。今までのティーンエイジャー向けの恋愛路線とは異なり、ブルージーでアーシーな仕上がりになっている。
ヒットを続けた前作、前々作で、彼らはアメリカでも有数のスターにのしあがり、ガナーはツアーで多忙を極めながら、合間を縫ってこのアルバムを製作した。作詞作曲全てをガナーがおこなったものだ。
生みの苦しみで心身共にズタボロになったよと、ガナーはぼやいたが、本当に歌いたかった歌を自分らしい曲調で仕上げたこのアルバムは、しかしレーベルの担当者には不評だった。
音楽をビジネスとしてしか見ていない彼らは、女の子が嬌声をあげて喜ぶようなラブソングをガナーに歌わせ続けたかったのだ。
こんなのを少女達は求めていない、ファンが離れるぞという彼らの脅しに屈することなく、ガナーはアルバムをリリースした。結果、大反響を得、これまでとは異なる世代層からの支持を獲得し、ヒット作と言われた前作よりも売り上げを伸ばしている。
DVDを再生させると、テレビにはコンサートの一コマを繋いだ映像が映しだされ、それにあわせて曲が流れ始める。
巨大なスタジアムに詰めかけた聴衆と、彼らを前にギターをかき鳴らすガナー。
ガナーは髪を揺らしながら、あらん限りの声で力強く歌う。それはまるで生き急いでいる野獣のように危険で、魅惑的で、美しい。
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