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推しに飼われています。
……世は推し活戦国時代である。
現代では、みんな、誰かしら「推し」がいるのが当たり前だ。
二次元のキャラクターに、アイドル、俳優――そして、Vtuverとか。
「はああ~……慧さん、恰好いい……メロいよお……」
ミカもその中のひとりだった。
ミカという名が示すとおり、彼は、フィンランド系のクォーターだった。
全体的に色素が薄い。
ホワイトブロンドの髪に、白い肌。
灰色がかった黒い目だけは、純日本人の父親の遺伝だ。
「なあに、見てるの」
「あ、けいくん」
肩にずしっとした重さを感じる。
どうやら、けいが、ミカの肩口に、顎を乗っけてきたようだ。
人懐っこい犬のような青年。
ミカよりも2歳年上の彼氏なのだけれど。
「まーた、あれ?」
「あれじゃない! 音無慧さんっ!」
ミカは、むーっと唇を尖らせて、スマホを示した。
そこには、華美な青年のイラストが表示されていた。
夜空のグラデーションのような濃紫の髪に、お月さまのような金色の目。
イメージカラーの紫色を基調としたアイドル風の制服姿だ。
――音無慧は人気Vtuverである。
同じ箱内のライバーと男性アイドルユニットを組んでいる。
甘ったるいけど、お腹に響くような低音ボイスが魅力的。
その声質を生かして、ASMR配信や歌ってみたなどを多く投稿している。他には、有名なゲームや流行りのゲームは抑えているし、ホラーゲームの耐性もある。
良いコンテンツを作りたいことにウェイトを置いており、本人も宣言している。
ミカもそのスタンスを尊敬しているし、コンテンツのクオリティの高さにハマってしまった。
また、柔和な物腰……でも、時々見せる色香がとても……いい。
追いかけているうちに音無慧のいろいろな側面が見えてすっかり、「推し」になってしまった。
「でね、登録者は72万人。最近、70万人を超えたばかりなのにすごいよね」
推しがみんなに愛されていることが誇らしくて、ついドヤ顔になってしまう。
「で? ミカもいわゆるガチ恋ってやつなの」
(……同じ名前だけど、慧さんは色っぽくて、けいくんはかわいい感じ? 少し拗ねたりして……とか言ったら怒るかな? まあ、けいって名前はそんなに珍しくないか……)
くしゅくしゅのラベンダーアッシュの髪ががますます、犬っぽい印象を強調する。
それに、くりっとしたアイスグレーの瞳。
24歳にしては幼い容姿をしている。
それがジト目になっている。
彼氏のけいは人懐っこい犬ではあるが、とても嫉妬深い。
「え、ええー……」
返事に困ってしまう。
もちろん、けいという彼氏がいるのだから、それはそれ、これはこれなのである。
(でも、推しは推せるうちに推さないとだめじゃん)
「そのー……慧さんは声がいいっていうか。同性でも憧れちゃう」
あきらかにけいの顔がむっとした。
「……おれの声は嫌い?」
普段は蜂蜜のように甘ったるくて、かわいい声の癖に、声のトーンを落としているせいで、なんかエロい。
ミカは照れてぷいっとそっぽを向いた。
「それはそれ、これはこれなの! 昨日は仕事だったからアーカイブの続きみたいんだよねー……」
ミカはいそいそとスマホに戻る……今日が久しぶりのお家デートだということも忘れて。
「ふーん……」
けいは、いよいよ構ってくれないミカにむうっと丸い頬を膨らませた。
「おれがミカの彼氏なのに」
背後からそんな囁きが聞こえた。
「あ……」
これはマズイやつだ。
恐る恐る振り向くとにっこりと不穏な笑みを浮かべるけいがいた。
普段は、年上彼氏らしく甘やかしてくるのだが……たまに地雷を踏むとメンヘラスイッチが入ってしまうのである。
後悔しても既に遅い。
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