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エピローグ

エピローグ  どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。  ぴこん、というスマホの通知音で目が覚めた。 「わー……慧さん、配信してるんだー……」  昨日は、仕事の関係でリアタイ視聴ができなかった。  いそいそとスマホを取り出す。  いわば、条件反射。  推しへの盲目的な行動であった。  画面の中では、音無慧がやわらかく微笑んでいた。  大人びた甘いかんばせ。  落ち着いた低い低音が耳に心地良い。 「配信、遅れてごめんね。ちょっと、飼っている猫がいたずらしてね」 「へー……慧さん、猫なんて飼っているんだー……新情報……」  概ね、チャット欄は、ミカと同じく、初めて聞く飼い猫の存在について言及するものが多かった。 「慧くんの家の猫に生まれたかった」  ガチ恋ユーザーが多いらしい慧にはこの手のコメントが目立つ。  だが、慧はそれを肯定するわけでもないが、否定するわけでもない。  個人の自由だと解釈しているようだし、ファンを大切にしている。  そこも推せるポイントなのだ。 「うん。白い毛並みの猫ちゃん。名前はみーくん。写真……? んー、だめ、ナイショ」  爽やかな推しの笑顔に気をとられていたが、ミカははっとする。  先ほど、“けいくん“を蔑ろにして機嫌を損ねたばかりなのだ。  同じ轍を踏むわけにはいかない。 「あれ、そういえばけいくんがいない……?」  ミカは、そろそろとシーツを被ると、けいを探しに行くことにした。  すると、とある部屋から明かりが洩れている。  けいくん、と名前を呼びかけて口をつぐむ。  その部屋は、けいの家の通称「開かずの間」なのである。  家にあげてもらった最初の日に、この部屋にだけは入ってはいけないと口酸っぱく言われていた。  きっと、けいのパーソナルスペースなのだろうと思っていた。 ――これは、きっとミカの悪癖だ。  少しばかりの好奇心。  そんな気持ちで部屋を覗いたが、驚いた。  見えたのは、パソコンに向かうけいの背中。  そして、何故か“推し“の声が聞こえた。  夜空のグラデーションのような濃紫の髪に、お月さまのような金色の目。  イメージカラーの紫色を基調としたアイドル風の制服姿。  甘ったるいけど、お腹に響くような低音ボイスが魅力的。 ――人気Vtuver「音無慧」  まさか、と思う。  スマホの中と部屋の向こうで同じ声がした。 「じゃあ、いつもみたいにASMRやっていこうかな……? えー、飼い猫ちゃんに一言? みんな、みーくんのことが気に入ったの? でも、好きになっちゃだめだよ。僕の家の子なんだからねっ! あははっ」 「――愛してるよ、みーくん」 ……実は、ミカの推しの正体は恋人なのでした。

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