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第1話 葬式
夫が死んだ。交通事故だった。加古村伊織は喪服に身を包んで、通夜の会場で独りだった。
夫──孝仁とは、養子縁組をしていなかった。だから、法律上伊織は孝仁とは赤の他人だ。故に葬式では喪主を務めることも許されなかった。
「伊織さん」
孝仁の叔父を名乗った男が、伊織の肩に手を置いてくる。
「大変だろうけど、気を落とさないようにね」
その声は優しい。けれど、目には隠しきれない欲望が宿っていた。
「行く場所がないなら、うちにおいで。男やもめで狭いが、不自由はさせないよ」
「おい武彦、お前のところなんか行かせられるか。伊織さん、俺の家なんてどうだい」
「いやいや、うちの方が広い」
孝仁の親戚がわらわらと集まってくる。けれど、皆が伊織の身体と顔を舐めまわすように見つめている。男たちに着いて行ったらきっと慰みものにされる。
けれど、伊織には本当に行く場所がない。今まで住んでいたマンションは孝仁が親から相続したもので、伊織が住み続けるのは難しいと言われた。
「さあ伊織さん」
「伊織さん、ほら」
「っ……」
もう、どこにも居場所はない。
──僕は、この世でひとりぼっちなんだ……。
伊織は男たちに搾取される覚悟を決めて──。
「伊織さんっ!」
若い男の声がして、はっと顔をあげる。
「雪翔くん……」
橘雪翔は伊織の従兄弟だ。絶縁状態の実家に夫が亡くなったと連絡した時たまたま遊びに来ていて、電話越しに葬式に行くと言ってくれた。だが、本当に来てくれるなんて。
「伊織さん、大丈夫ですか」
雪翔は優しい瞳で伊織を見てくれる。それだけで、孤独な気持ちが救われるようだった。
「ゆきと、くん……僕、僕……」
「伊織さんの知り合いかな? 悪いが、今伊織さんの今後について話していてね」
「今後……?」
下卑た顔で親戚が伊織の肩に触れる。
「伊織さんは今まで孝仁のマンションに住んでいてね、仕事もしてないそうじゃないか。だから誰が引き取るかという話をしていたんだ」
「…………」
伊織は俯く。孝仁は箱入り息子で育ってきた伊織に、主夫でいてくれればいいと言ってくれた。
「なあ伊織さん、うちにしておけ。悪いようにはしないからさ」
「テメェんとこなんか連れていったら甲斐性がなくて困るだろう。うちのがいい」
「いやいや、ここはやっぱり……」
男の手がするりと伊織の腰を撫でる。そしてそのまま、いやらしい手つきで尻を揉まれた。
「っ…………」
震えていると、ぐいと腕を引き寄せられる。あたたかい体温に包まれて、ふわりと優しい香りが鼻をくすぐった。
「伊織さんは俺が引き取ります」
雪翔は堂々と、なんの迷いもなくそう言い切った。
「雪翔、くん……?」
「な、何を言ってるんだ、君みたいな若い子が……」
「伊織さんのこと変な目で見てくるやつなんて信用できません。伊織さんのことは昔から知ってますし、家政夫として雇います」
雪翔は安心させるように、雪翔の背中をぽんぽんと叩いた。
「伊織さん、もう大丈夫ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、伊織の目から涙がこぼれた。
「っ、ひ、うっ……うぁ、あぁっ……」
伊織は七つも年下の従兄弟に縋って、涙を流し続けた。
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