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第2話 新しい家

 引越しはスムーズに済んだ。夫の両親が何も相続させられない分だと幾ばくかの金銭を包んでくれたので、そこから引越し費用を捻出した。  そして今、伊織は自分の荷物を空き部屋に全て収めることができたのだが──。 「……雪翔くん、掃除苦手?」 「というより、家事全般が……」  雪翔はあはは、と空笑いをする。リビングは物が散乱していていた。洋服はぐちゃぐちゃで皺になってしまっているし、観葉植物は倒れている。 「社会人になって、仕事だけで手一杯で……だから正直、家政夫してくれるのマジで助かるんです」  家事が苦手なんて可愛らしい。やはり雪翔は伊織の頭の中の、サイダーを飲んで喜んでいた五歳の時から変わってない。 「じゃあ、今から掃除しちゃうね。多分、捨てていいかわからないものだけ聞くと思うけど」 「あっ、じゃあ俺もやります!」  それから、ふたりで半日をかけて掃除をした。床の見えなかった部屋は、すっかり綺麗なフローリングを見せていた。 「終わったー!」 「雪翔くん、晩ごはん、カレーでいいかな?」 「カレー! 大好きです!」  先程冷蔵庫を見た時に材料はひと通り揃っていた。雪翔の姉の由衣が農家に嫁いだので、新鮮な野菜を送ってきてくれるのだという。 「にんじん、じゃがいも、玉ねぎ……このお肉消費期限今日までだ」 「それ、自炊しようと思って買って忘れてたやつです……」 「あ、トマトある。じゃあ無水カレーにしようかな」 「無水カレーってなんですか?」 「野菜の水分だけで作るカレーだよ。すっごくおいしくて、夫も好きだったんだ」  孝仁が死んだことはまだ受け入れられていない。彼の優しい笑顔を思い出すと、胸がつきりと傷んだ。 「……じゃ、俺米炊きます! カレーめっちゃ食うんで、たくさん作ってください!」 「……うん、わかった。任せて」  屈託のない笑顔に、笑みを返す。傷があったとしても、伊織は生き続けなければいけなかった。  そして、夕飯時。 「…………」 「ん、んん……!」  目の前の男は獣のようにカレーに食らいついている。 「うま、うめえっ……!」 「雪翔くん、そんなに急いで食べなくても大丈夫だよ」 「おかわりもらいますっ!」 「早っ!?」 「だってこれうまいんですもん! 今まで食ったカレーの中で一番うまい!」 「そ、そんなかなあ……?」  雪翔はカレーをたっぷり大盛りにして戻ってくる。 「いただきまーす!」  がつがつと大口でカレーを食べている様は、まるで食事を喜んでいる子犬のようだった。 「ポメラニアン……」 「ん、なんすか?」 「あ、いや、なんでもない」  やっぱり、雪翔は可愛いまま変わっていない。満面の笑みでカレーをかきこむ彼を見て、伊織の胸はぽかぽかと温もりに満たされていた。

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