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第7話 瀕死の虚勢

脳の血管がいくつか切れたんじゃないかと思うほどの快感。 自分の意思とは完全に切り離された身体が、痙攣するように何度もびくびくと震える。 「——じょうぶ?なお?」 遠くの方で、俺を呼ぶ男の声が聞こえる。 ひどく鼓膜が遠い。頭の奥がぼわん、と深海に引きずり込まれたみたいに全部鈍い。 身体のあちこちが未だに熱い痺れを引きずったまま、じわじわと感覚が戻ってくる。 「――っ、かひゅ、……っ、は、……っ」 引き攣った喉が、不気味な音を立てて空気を求めた。 自分が一瞬意識を飛ばしていたのだと気づくのに数秒かかった。 涙と涎でぐちゃぐちゃになった顔のまま、何とか息を整えようと胸を大きく上下させる。 視界がゆっくりと焦点を結ぶと、目の前には、俺の顔を覗き込んでいる宵の眼があった。 まつ毛、なが。 色、白……。 いや、それどころじゃなくて、色々。 宵はベッドに両手を突いたまま、俺の額に張り付いた髪をやさしく手で払った。 「ごめん、ちょっと激しすぎた?……大丈夫?」 優しく気遣うような声音。 よくもまあ、人をこんな目に合わせておいてそんな菩薩みたいな顔ができんな。 動かない身体の代わりに、俺はありったけの憎しみを込めて、その顔を睨みつけて思い切り毒づいてやった。 「……ほんと、……お前、最悪、……」 「ふふ、ごめんね。前戯でイくと思わなかった」 「……は、ぇ……?」 宵の口から飛び出した、あまりに想定外すぎる単語に、俺の貧弱な思考回路は完全に停止した。 ——前戯。 ぜんぎ、って、あの、本番の前の、ならし運転みたいなアレのこと? これだけ人の身体をめちゃくちゃに引っ掻き回して、無理やりイかせといて、これがまだ、前戯? 「でも、もう今日は凪音も限界みたいだし、ここまでにしようか」 愕然とする俺を覗き込んだまま、宵は俺の頬を愛おしそうになぞり、どこか寂しげに手を離そうとした。 その、まるでこちらを一方的に気遣っておねんねの時間にしようとする態度が、猛烈に癪に障るぞ、お前。 「……は、ぁ……?」 何が限界だ。何がここまでにしようかだ。 ふざけんな。動かない身体の奥で、激しい怒りとプライドが燃え上がる。 「……っ、なめ、んな、……っ」 はぁはぁと熱い息を吐き出しながら、俺は涙の滲む目で宵を全力で睨みつけた。 ここで大人しくはい、おやすみなさいなんて言えるか。 男としての自尊心をズタズタに負かされたこの感覚が、たまらなく不快で、悔しくて、絶対に認められないぞ。 俺の、瀕死の虚勢。 それを正面から受け止めた宵は、一瞬だけ驚いたように雌雄眼を丸くする。 それから、本当に嬉しそうにくす、と喉を鳴らした。 「……まだ、したい?」 至近距離で囁かれた、酷く甘やかで、どこか挑発的な声音。 したくないわ。 本音を言えば、ぜんっぜん、これっぽっちもしたくない。 だけど、俺は自覚があるくらい、どうしようもなく負けず嫌いなんだよ。 宵の顔が、楽しそうに再び近づいてくる。 完全に自分で自分の逃げ道を塞いだことに気づいた時には、もう、この喰えない国王様の腕の中から逃れる方法はどこにも残されていなかった。 「じゃあ、勃たせて?」 宵はくすくすと笑いながら、俺の耳元に唇を寄せた。 ……待て、なんか俺、まんまとのせられてる気がする。 「……っ、誰かさんのせいで、身体がまともに動かねぇんだよ……お前が誘導しろよ」 バスローブをはだけたまま息を乱して偉そうに言い放つ。 宵は驚いたように目を細め、それから可愛いね、と小さく呟いて、自分の寝衣の紐を解いた。 仰向けに転がされたままの目の前に宵が膝立ちする。 目の前に晒された男の熱を帯びて猛り立ったそれ。 充分勃ってんじゃねーか。 舐めさせたいだけだろお前絶対。 これだから変態は。 それにしても男のモノを処理するなんて、人生で一度も考えたことはない。 勝手に生唾がじわって出てきて、こく、とそれを嚥下する。 意を決して顔を寄せ、その先端に恐る恐る舌を這わせる。 口内におさめると宵の口から、はぁ、と微かな吐息が漏れた。 それが妙に俺の自尊心をくすぐる。 俺は後頭部を掴んで誘導する宵の手の動きに身を任せながら、たどたどしく、不慣れな口内と舌でそれを迎え入れた。 くちゅ、くぷ、と、狭い口内で粘膜が擦れ合う淫らな音が静かな部屋に響き渡る。 生々しい熱と匂いがして、頭の芯がまた別の意味でくらくらしてきた。 あー……俺、まじで何してんだろ。 お飾り正妃のニート生活は二日目にしてどこへ行ったんだよ。 己の順応性の高さに呆れそうになった、その時だった。 耳の横に柔らかな感触が触れた。 ふと視線を上げると、そこには、今まで見たこともないくらい優しい顔をして、俺の髪を愛おしそうに指先に絡めて撫でる宵の姿があった。 「ふふ、かわいい……はぁ」 いつもの冷徹な仮面も、気怠げな笑みもそこにはない。 ただ、一人の男としての、酷く甘やかで無防備な表情。 宵ははぁ、と何度も溜息を零している。 ……ん?もしかして、お前今めちゃくちゃ気持ちいいわけ? その顔を見た瞬間、俺の胸の中に小さな優越感が湧き上がってきた。 国王様ともあろう男を、この俺の拙い舌で翻弄してやっているのだ。 少しだけ楽しくなってきて、さらに深く咥え込もうと、舌を大きく動かしたその瞬間。 ガタンッ。 窓の向こうから、風呂の時よりも明らかに大きな、硬い音が響いた。 「ふっ、ぐ……!」 俺は動きを止め、口からそれを離して、反射的に窓の方へと視線を走らせた。宵の髪を撫でていた手も、ピタリと止まる。 一瞬にして、甘い夜の空気が氷点下まで引き締まった。 ランプの微かな光の向こう、磨りガラスの窓に、人の輪郭に似た歪な影がべったりと張り付いている。 外は庭園へ続く回廊だ。使用人ですら、国王の許可なく夜間に立ち入ることは許されていない場所。 マジかよ。 夕飯のスープ、風呂の人影、それから今。 一刻も早く俺がここから逃げる事を望んでる人間がいる。 心臓がばくばくしてきて、身を竦めたその時。 カチャ、と小さな音がして、宵がベッドサイドにある鈴を手にとった。 澄んだ金属音が、ちりん、と静まり返った室内に一度だけ鳴り響く。 それと、完全に同時だった。 「っ、……ふ……んむ……ぐッ!!!?」 後頭部を掌で掴まれて、そのまま強引に引き寄せられ、俺の口内に、宵の猛り立ったそれが根元まで一気に深く突き入れられた。 「ごふ、っう……っ、く、……!」 急に喉の奥まで硬い質量で埋め尽くされ、生理的な涙がぼろぼろと目元から溢れ出す。 苦しい。 呼吸が詰まり、嘔吐感がせり上がる。 後頭部を固定する宵の手はびくとも動かず、俺を逃がしてくれない。 目の前の宵の太腿を動かない手で必死に叩く。 「んーーーっ、ぐ、」 「黙って」 宵は手を緩めないまま囁く。 黙って、じゃねぇよ、そのちんこを退けろ、今すぐ。 窒息する、死ぬ。 コンコン、と、タイミングを合わせるように寝室の扉がノックされた。ベルの音を聞きつけた使用人が、即座に駆けつけてきたらしい。 「お呼びでしょうか」 扉の向こうから聞こえる声。 宵は俺の頭を押さえつけたまま、宵は息一つ乱さずに酷く冷静な声を放った。 「開けないで」 「はい」 「窓の外、誰かいる」 「――!畏まりました。ただちに」 「分かったら後で教えて」 「畏まりました」 静かに足音が廊下を駆けて遠ざかっていく気配がした。 緊迫した空気が外へと流れていく中、この密室のベッドの上だけは、依然として酷く不埒な熱を帯びたまま。 宵は涙目で必死に押し返そうとする俺を見下ろし、眼を細めて面白そうにくすくすと笑った。 「……人のセックス覗き見るなんて、悪趣味な人間がいるね」 「ふ、——ぅ、ぐ……」 喉の奥を容赦なく圧迫する塊のせいで、俺はふざけんな、と怒鳴ることすらできない。 悪趣味なのはお前だ。 人が来るって分かったそのタイミングに合わせてイラマさせてんじゃねぇよ。 苦しくて、熱くて、ただ宵のモノを咥え込まされたまま、飲み込まされるみたいに舌を這わせていた。 口いっぱいに溢れた唾液が顎から首筋にだらだらと流れ落ちていく。

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