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第6話 はじめて

俺はわざとらしく視線を外すと、鼻で笑って見せた。 「別に……それよりさ、お前の飼いネコちゃん達がちょっとやんちゃなんじゃねぇの?飯の隠し味だけじゃ飽き足らず、風呂の外までウロウロしてたみたいだけど」 暗に覗きか何かがいたと告げると、宵は布を持ったまま、ふぅ、と小さく溜息を吐き出した。 何があったかは知らないもののそういうのは日常茶飯事なんだろう。 呆れたようなその仕草すら、どこか絵になるのが腹立たしい。 「困った子達だね……凪音の可愛さに、嫉妬でもしてるのかな?」 「はぁ!?ふざけんなよ。世継ぎも産めない、肌も触れない男を正妃にしてんだから、恨まれる謂れなんてねぇぞ」 男同士の政略結婚。世間へのポーズ。お飾り。 最初に提示された条件を並べ立てて牽制する。 そうだ、これはただのビジネスなんだから、俺が命を狙われる筋合いも、こいつにこんな距離感で迫られる理由もない。 それだというのに俺の言葉を聞いた宵は、喉を鳴らして笑うのを止めて、その綺麗な眼をゆっくりと細めた。 「……肌にも触れないの?そんな事言ったっけ?」 「はぇ?」 その、酷く甘やかで低い響きに、嫌な予感しかしない。 全身の血の気が引き、同時に首筋の産毛が逆立つような、奇妙な悪寒が背筋を駆け抜ける。 身体が危険を察知して強張った。 ぱさ。 宵の長い指先が、髪を乾かしていた布を落とす。 先ほどまでぱさぱさと布の音が響いていた室内には、一瞬にして、耳が痛くなるほどの静寂がなだれ込んできた。 鏡越しに映る宵は、もう笑ってない。 あれ、なんかこれ、あれ?? 肌を刺すような密室の空気が、一気に熱を帯びた雰囲気に変わった気がした。 やばい、これは完全に逃げ場を無くされる流れだ。 直感が大音量で警鐘を鳴らしている。 「あ、あー!そう言えば俺、めちゃくちゃ腹減ってんだよな!夕飯一口も食ってねぇし!ちょっと厨房的なとこ——」 わざとらしく声を張り上げ、椅子の肘置きに手をかけて立ち上がろうとした。 「――お腹空いてるなら、なおさら動かない方が良いよ」 言われた瞬間、視界がぐらりと反転した。 抵抗する隙なんて全然無くて。 宵の腕が俺の身体を軽々と抱え上げたかと思えば、そのまま天蓋付きのベッドの上へとぺいっと放り投げられた。 柔らかい極上のマットレスが俺の背中を受け止める。 「ふざけっ……て、んっ!?」 起き上がろうと身を起こした瞬間、視界を塞ぐように覆い被さってきた宵の顔が、一瞬で迫った。 息を吸う暇さえなく、唇が強引に重ねられる。 顎を強く固定されて、無理やり口内を割り開かれ、舌の奥に、ほんのりと甘い何かが流れ込んできた。 宵の口内から直接、喉の奥へと押し流される液体の感触に、足をばたつかせて抵抗する。 宵はその足を腕でぐ、と押しとどめる。 こくん、と強制的にその甘い何かを嚥下させられ、ようやく宵の唇が離れる。 「っは、げほっ……!なに、これ……!」 激しく咳き込みながら、俺は胸元を押さえて宵を睨みつけた。 今、こいつ確実に変なものを俺の口に流し込みやがった。 「何って、栄養剤、的な??ご飯食べてないんでしょ?ちょうどよかったね」 宵は息を乱すこともなく、飄々とした笑みを浮かべて、俺の毛先を細い指先で弄び始めた。 その手つきが、やけにねっとりとしていて不気味極まりない。 「誤魔化すなって!何飲ませたんだよ!」 「さぁ。それより、凪音は――男の人に抱かれた事は?」 唐突に落とされた問いかけ。 宵が何を言ったのか理解できない。 髪を弄ぶ宵の指先が、そのまま耳の裏から、熱を帯び始めた首筋へと滑り降りてくる。 その触れ方に、ぞく、と痺れるような感覚が走った。 「ある訳ねーだろ、退け……っ!」 威勢よく言い放ち、その胸を押し返そうとするが、なぜか指先に上手く力が入らない。 身体の奥から、じわじわと奇妙な熱が立ち上り始めている。 そんな俺の必死の抵抗を、宵はくすくすと楽しそうに喉を鳴らして見下ろした。 「そっか。じゃあ、正解だ」 「だから、何がだよ……!」 何が正解なんだこいつほんと。 毒づいて睨み返そうとしたが、視界が急にぐにゃりと歪んだ。 頭の芯が酷くくらくらして、思考が上手くまとまらない。 おまけに、どろりとした妙な熱が手足の先まで急速に侵食していく。 「おま、さっきの……」 「正解」 辛うじて絞り出した問いに、宵はひどく美しい笑みを深めた。 完全に嵌められた。 気づいた時にはもう、まともに寝返りを打つことすらできなくなっていた。 「じゃあ、ご褒美。大人しくしててね」 「ふざっけんな……!」 鼓膜に直接響くような囁きと一緒に、視界を覆うようにして宵の身体が再び重なってくる。 抗う術もないまま、容赦なく熱い唇が押し当てられた。 「ん、んん……っ!」 抵抗できないのをいいことに、じっくり深く貪るみたいなエロいキスが口ん中這いまわってる。 頭の中に直接唾液の触れ合うやらしい音が反響して、頭がぐわんぐわんする。 「ふ、……はぁ」 微かに隙間ができた唇から、ちゅ、くちゅ、と交わる涎の音と情けない吐息が零れた。 宵は嬉しそうに目を三日月みたいに細めて、俺をじいっと見てる。 宵の指が、熱を帯びた俺の脇腹から胸元へと、滑るように肌を撫で上げていく。 直に触れられる生々しい感触に、身体がぞくぞくして止まらない。 なんだこれ、男相手にこんなことあんの。 「、ゃ……だっ、……よ、い……」 触れられた場所から、皮膚がぴりぴりと焼けるような快感が広がっていく。 「空腹だと薬も良く効いちゃうね。目が潤んでる」 指先で目の下をつい、と撫でられて、自分の目ん玉が飽和寸前の涙を抱えてる事に気付いた。 宵は至極楽しそうに上から覆いかぶさったまま、俺のバスローブの紐へ指をかけた。 するりと、結び目が呆気なく解かれる。 はだけた前合わせから、ランプの光の中に俺の胸元が剥き出しに晒された。 待て、おかしいだろ。なんで今この流れになるんだよ。 スープにガラス片を入れられて、ついさっき命を狙われたばっかりなんだぞ。 城のセキュリティはどうなってんだとか、犯人は誰だとか、国王として他に考えることが山ほどあるだろ。 それなのに、なんでこいつは今、俺の服を剥ぎ取ろうとしてんの。 「あ、……ま、て、お前……っ」 拒絶しようとしても、手足が重くて力が全然入らない。 宵はそんな俺の胸元に顔を伏せると、鎖骨のあたりにねっとりとした舌先を滑らせてきた。 「ひっ……、ん……っ」 湿った熱が、胸の突起を深くじゅぷ、と音を立てて吸い上げる。 さらに長い指先できゅ、と強めに摘ままれた。 気持ち悪ぃ。男にこんな場所触られて、なんで。 てかおっぱい大きい姉ちゃん飼ってんだろ二十人もいるなら!! こんな平坦な男の乳で遊んでんじゃねえよ。 頭では拒絶しているのに、熱を持った身体はあからさまに快感を拾ってしまう。 男相手にこんなことをされるなんてあり得ない。男の正妃だからって安心しきっていた自分が、今猛烈に情けない。 あぁ、ちくしょー。 「や、だ……やめ、ろ……って」 必死に睨みつけて抵抗しているつもりなのに、口元から漏れるのは泣き出しそうなほど情けない声だった。 「やじゃないでしょ?ぴくぴく震えるの、かわいいね」 「……薬、盛った、からだろ……っ」 「俺そんな事言った?」 宵はどこまでも飄々とした声音でそう呟くと、俺の身体を寝返りを打たせるようにくる、と容易く反転させた。 うつ伏せにされ、枕に顔を押し付けられる。 直後、無防備になった背中に舌が這い上がってきた。 「んん……っ!」 「背中まで気持ち良いんだ……弱いね」 「うるさ…っ、ふ……っ……あ」 かわいこちゃん二十人も侍らしてるなら、ホントそっち行けよ……! こんな生産性のないことしてる暇があるなら、とっとと宵村計画を完遂しろよ。 妃の管理もできないで何が国王だ。 心の中でどれだけ悪態を吐いても、男の大きな身体に背後から完全にプレスされ、指一本動かすことができない。 その時、背後で微かに、液体が擦れ合うような特有の粘り気を含んだ音がぷちゅ、と聞こえた。 俺の尻にひやりとした何かが触れる。 宵の、指と、ローション……。 「っ、ま、て、そこはだ……っぁぐッ!!!!」 叫び声は、言葉にならなかった。 拒絶も懇願も無視して、ローションを絡めた指がくぷ、と音を立てて奥に侵入してくる。 「あ、ひ、……うそ、やめ……あッ……あ゛……ぐ…」 異物感に身体を強張らせたのも束の間ですぐに身体がひくひくと反応しだす。 「なに、こ……れっぇ……っ」 「初めてだからね。きもちいでしょ?」 何こいつ、ローションにもなんか入れてんの……。 お腹の奥が、経験したことのない感覚できゅんきゅん疼き始めた。 あんなに頑なだった拒絶反応が、痺れによって強制的に書き換えられていく。 恐ろしいことに、あからさまな快感の波に押されるようにして、自分のがガチガチに勃起していくのが分かった。 なんで。……なんでだよ、男相手に、こんな……。 頭の中がどうしようもなくぐるぐると掻き回される。 気持ち悪くて、だけど身体の快楽が止められなくて、怖くて、キャパシティを越えた感情が涙となってボロボロと溢れ出した。 シーツを涙と涎で汚しながら、俺は子供のようにずびずび鼻水垂らしながら泣くしかできない。 「いい声……可愛い」 「るせ……っ、あ゛……はぁ…ッ……——!?」 背後から掛けられた甘い声を拒絶しようとした瞬間、奥に深く入り込んでいた指が、特定の狭い一点をぐい、と抉るように強く押し潰した。 「あぎゅっ……!!!?」 背筋が弓なりに跳ね上がる。 まってなにこれ、今何された? 経験したことのない強烈な痺れが下腹部を直撃した。 「だめ、よ、い……ッ、へ、んに、なる……ま、って、やめ、て……っ!」 「ん、ここが気持ち良いんだ?分かりやすいね、凪音」 必死に頭を振って枕にしがみつくのに、宵の指はその場所を何度も何度も圧し潰すみたいに擦り上げていく。 内側から直接お腹の奥を抉られるみたいなぞわぞわした感覚に、息の仕方が分からなくなっていく。 「やだ……っ、う゛ぅ……っ、は……ふぁ……ッ」 「……やばいな、これ」 背後で、宵がぽそりと呟いたのが聞こえた。 その言葉の意図を考える余裕なんて、今の俺には一ミリも残ってない。 お腹の奥がずっときゅう、と狂ったように脈打っている。 誰も俺のちんこには触ってない。 それなのに、下着の布地に擦れることすら刺激に思えるほどの射精感がずっと波のように押し寄せて、頭のてっぺんまでびりびりと痺れさせていく。 「あ、……はっ……まっ、て、よ、い、だめ、…っ、止ま……っ!」 身体が自分の意志に関係なく、びくびくと大きく震え出す。 触られていないのにイきそうなんて、そんなこと。 こわい。 自分の身体が自分のものではなくなっていく感覚が、ただただ怖くて、身体ががくがく震えてくる。 こわい、こわい、こわい。 「イきそ?奥、締め付けがすごい」 「あ、……ちがッ、……あッ……——!!!」 内側からまたそこをぐい、と抉られた瞬間、触れられていない俺の先端から、ぴゅく、と精子がベッドに零れた。

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