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第19話 それから

「……おはよ」 ぼやっと目を開けると宵がとんでもなく優しい目をしてじっと俺を見てた。 ――あぁ。 昨日、ついに薬でも酒でも何でもない状態で抱かれてしまった。 感情ぐちゃぐちゃで俺、なんか色々言った気がするなぁ。 宵は長い指で口の端を掬うみたいに撫でて。 「ん……朝から……おま」 「よだれ、出てる」 くそ。 「昨日のことはちゃんと覚えてる」 「うるせーな覚えてるよ……」 「凪音が俺に好きって何回言ったかも?」 「……」 それはさすがに覚えてないな。 好きって言った事位は覚えてるけど。 気恥ずかしさでベッドから起き上がろうとするとぐい、と腕を掴んで引き戻される。 「ぅわッ…!」 柔らかい布団に沈められて、ちゅう、と音を立てて唇が触れた。 「んふ…ッ……」 「はぁ、幸せだね?」 「……お前はな」 「凪音は幸せじゃないの?」 こいつは心底性格が良くない。 「言わせたいだけだろ」 そういうと宵が目を細めて笑った。 それから当たり前みたいに二人で朝食を食べて、宵が自分の部屋に戻って。 一人残された部屋でぼんやり昔のこととか、これからのこととか考えながら。 使用人に朝風呂に促されて湯に浸かりながらも思考はぐるぐる止まらない。 妃を抱いてないならあいつこれからどうするんだろうな、とか。 琳はどうなったんだろうな、とか。 聞けば答えてくれるんだろうけど聞いたところでだ。 風呂から上がると当たり前みたいに宵が部屋にいて、仕事着のかちっとした軍服みたいなの着てて。 あーちくしょうかっこいいなコイツ。 「凪音」 人の風呂のタイミングで待ち伏せしてんじゃねぇよ。 まだ少し濡れた髪を撫でられて、ごく自然にキスをされる。 「仕事、行ってくるね。帰りは夕刻かなぁ」 「おう、いってらっしゃい」 そう言うと宵は少し目を丸くした後ふにゃりと笑った。 ん? あ? あ、俺、今、いってらっしゃいとか言っちゃったから? 夫婦感出ちゃったから? やめろよ初心かよ、そう思った瞬間に急に俺の方が恥ずかしくなる。 宵はもう一度嬉しそうに俺にキスをした後じゃあ行ってくるね、と扉を閉めた。 思わず自分の口元に触れてしまう。 あいつがいると調子が狂うな、なんか。 一人になった部屋で、ふと思い立って、扉を開ける。鍵はもうかかっていなくて、少しだけほっとした。 すぐに控えてた使用人が声をかけてきた。 「どちらへ?」 「庭」 「お供します」 昨日の今日だ。断るのもどうか、と思いそのまま後ろを勝手についてくるのは止めなかった。 庭園は何もなかったみたいに風が吹いていて、花が咲いていて、鳥が鳴いている。 ゆらゆら泳ぐ鯉を見ながら深呼吸をひとつ。 まだ多分きっと何も片付いて無いんだろうけど。 「おはようございます。正妃様」 見慣れない使用人が向こうから頭を下げてきた。 昨日の軽蔑するみたいな視線はなくて、社交辞令の、よくある挨拶。 「おはよう、ございます」 軽く頭を下げる。 「正妃様」 使用人の後ろから背の高い胸をやたらに主張している色気を纏った女の人が現れる。 「昨日は大変でしたわね」 柔らかい笑みと目元のほくろ。 見るからに、見るからにだ。 「……ありがとうございます」 俺は社交辞令の笑顔を貼り付けて応えた。 今度は簡単に騙せると思うなよ。

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