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宿敵との再会④

「はぁ……はぁ、あぁ、ごめんね。取り乱してしまったみたいだ。時々こうなるんだよ」  突然正気を取り戻した志乃が、嫌な笑みを蓮斗へと向けてくる。その様子が空恐ろしい。志乃はどこか狂っている。純粋に身の危険を感じてしまう。 このまま前世のことについて深入りするべきなのか、蓮斗は決断できずにいた。 平穏な生活を送ることができればそれでいい。それが蓮斗の、そしてアリステラの唯一の望みだ。けれど、志乃を避けることでその生活を手にすることができるのだろうか?そんな疑問も確かにある。 「っ、僕をいじめるように言ったのはあんたなの?」 「そうだよ」 「どうして?関わらない選択もできたはずでしょ」 「関わらない?そんなこと不可能だよ。だって、学園で君を見つけたときに気づいたんだ。君をそのままにしておいたら、また僕の完璧な計画が崩されてしまうってね」 「……それは輝と恋人になるために僕が邪魔だったってこと?顔を隠させたのは輝に顔を見せないようにするため?」 「正解。だって、君の顔を見て輝が記憶を取り戻したら困るだろう?けど、その心配はもうなさそうだけれどね」  輝はすでに蓮斗の素顔を何度も見ている。けれど、前世の記憶を思い出す兆候は一切ない。だから、今後彼が記憶を思い出す可能性は低いのかもしれない。それがいいことなのかはわからない。少なくとも前世で辛かったときのことを思い出さなくて済むのだから、その方が幸せなのかもしれない。  いじめられている理由をずっと疑問に感じていた。まさか生徒から憧れられている生徒会書紀様が主犯だとは、まったく考えたことすらなかったけれど。でも、誰が犯人だろうと関係はない。  志乃が前世でなにを経験したのかすらも知りたくない。知ってしまえば、きっと後戻りなどできなくなるから。  「逃げられないよ」  蓮斗の考えていることを読んだかのように、志乃が言う。その言葉が、まるで呪縛のように蓮斗の心を蝕む。 「僕はねチャンスだと思っているんだ。前世では手に入れられなかった本当の幸せを、掴むチャンス。たとえどんなことをしてもね。だから、君は決して僕からは逃げられない」 前世の記憶を取り戻したことで、人生をやり直す機会を得られたという点では蓮斗も同じだ。けれど、誰かと争う気などない。志乃と蓮斗では目指すものが違う。 「やるなら一人でやってよね。それに、どれだけ僕を輝から遠ざけたって、結局選ぶのは輝だ。人の気持ちを操れるわけじゃないんだから」 「……彼が君のことを選ばなければ、今はそれでいいんだよ」 「なんでそんなに|僕《アリステラ》にこだわるわけ?」  志乃は輝に執着しているように見えて、実際は蓮斗にばかりかまってこようとする。輝にちょっかいを出されるのも嫌だけれど、蓮斗は自分自身に矛先が向いている現状がとにかく許せなかった。 「君は僕の持っていないものをすべて持っているだろう。それが許せないんだよ」 「意味わかんないんだけど」  それに、アリステラが本当に欲しかったものはルキナが奪っていったではないか。地位も立場も、平穏すら、儚くも奪われてしまった。いや、志乃の言うとおり、持っていたから奪われたのだろう。男爵令嬢だったルキナにはアリステラがすべてを持っているように見えたのかもしれない。王子であるシリルの幼馴染であり、公爵家で大切に育てられた美しい令息。けれど、実際のところ、アリステラはその地位に見合うだけの努力を怠ったことはなかった。地位があるということはそれ相応の対価も存在するのだ。それをルキナは知らないのだろう。  だから今この瞬間、今世こそは志乃に大切なものを奪われたりしたくないし、させないと決めた。 「とにかく、輝にはもう近づかないでね」 「僕が言うことを聞くとでも思うの?」 「聞かないとすごく痛い目にあうかもしれないよ」 「上等だよ。やれるものならやってみろ!」  あえて挑発するような返答をする。負けるつもりなどない。蓮斗はもうなにも諦めたくはなかった。大切な人と共に自分の目指す人生を手に入れる。それが目標だ。  蓮斗のことを睨みつけた志乃は、歯ぎしりをしたあとに背を向けて反対方向へと歩いて行き始めた。話は終わったということだろう。蓮斗も、志乃へと背を向けて進み始める。  志乃はルキナだった。それが知れただけで大きな収穫だ。荒々しく波立つ気持ちを押さえつけながら、寮への道を急ぐ。 (……シリル、君はアリステラが居なくなってからどんな気持ちだったのかな)  シリルが感じたことを知るすべはない。だから、前世へと想いを馳せながら、昔のように心の中で祈る。 ──どうか今世こそは彼が幸せであれますように。

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